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アクセルとブレーキ

財政と企画って一緒のほうがいいのでしょうか?別々のほうがいいのでしょうか?

福岡市では,政策の推進をつかさどるのは総務企画局企画調整部,財政運営は財政局財政部です。
よくこの二者は対立する機能として「アクセル」と「ブレーキ」に例えられます。
自治体の現状,課題,方向性を踏まえ,今やりたいこと,やるべきことを政策として企画し,それを実行に移していくことは,車の運転に例えるとアクセル,自治体経営の「攻め」の部分にあたり,一方で財政運営は,支出を精査し,個々の事業の必要性や緊急性,効率性,効果などを十分に吟味し,真に必要な部分のみに削り込みそぎ落としていく,車でいえばブレーキ,自治体経営の「守り」の部分ととらえる人が多くいます。
なので,よく「アクセルを踏みながらブレーキを一緒に踏むわけにはいかない」という論法で,「攻め」と「守り」の別々のベクトルを同一の人格が同時に目指すことはできないので,両者は組織上別の存在であったほうがいいという趣旨のご指摘だと思います。

私は財政部門と企画部門の両方で課長を経験しましたが,業務繁忙の時期やそれぞれの業務に当たる際の判断の物差しの持ち方(すなわち心の在り方ですが)などから,組織的には分かれていたほうがいいと思いましたが,それはあくまで生身の人間が仕事をする上での実務の話。
私の本にも書きましたが財政運営,特に優先順位の低い事業の見直しを進める「財政健全化」は,実はそれ自体が目的を持つのではなく,政策を推進するうえで必要な施策事業の財源を生み出すための「手段」でしかない,というのが私の考え方です。
ですから,企画部門と財政部門は本来「政策の推進」という同じ目的のことを分業してやっているだけなので,組織が一緒でも別々でも全然かまいません。
ただ,政策を推進に必要な個々の事業の経費を精査する際に,たくさんお金を使ったほうがより大きな効果が出るという発想から,企画部門が推す事業は企画部門と財政部門が同一である場合,事業費の精査が甘くなりがちであることは否めませんが,そこで膨らんだ事業費を吸収するために別の施策事業で厳しい査定を行い,その政策の推進スピードが落ちるのですから,言ってみればこれは政策推進に投入する資源配分の優先順位付けに過ぎないのです。

問題は,本当に「やりたい」と「やる必要がない」という正反対のベクトルで組織同士が対立してしまうようなケース。
企画部門は「ぜひこの事業は推進すべき」と言い,財政部門は「そんなことに金を使う必要はない」と言う場合,板挟みにあう現場もこの両部門を束ねる首長も大変です。
ただ,そんな悲しい不毛な対立は,政策の優先順位付けを行う企画部門が,政策推進のための具体的な事業の内容,お金の使い道に立ち入って財政課の査定に口を出すという越権をやめればよく,あるいは企画部門で優先順位が高いと判断した施策そのものを財政課が査定で根こそぎ否定するという越権をやめればよいわけで,官房部門の中で互いの立場,役割を理解しあい,今何が大事か,何を目指すべきか,といった政策推進における価値観と,今,どんな台所事情なのか,どこまで新たな事業に投資できるのかといった財政運営上の制約条件を互いに
情報共有し,相手の立場,判断を尊重すれば済むことではないかと思います。

福岡市も昔はアクセルとブレーキの対立がよくありましたが,政策推進と財政運営が目的と手段の関係にあることが整理された今では,表立ってそういう問題は起こりにくくなりました。
私をはじめ,企画と財政を人事異動で行ったり来たりして,互いのおかれた立場を理解できる人が増えたことも関係あるんでしょうね。

★「自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?」について
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