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逃げ出したい職場

先日、facebookでこんな記事をシェアしたところ、ちょっと想像を絶する反応をいただきました。

若手官僚、7人に1人が辞職意向
https://this.kiji.is/659308487943701601?c=1131471940227251093

国家公務員の働き方について思うところは多々ありますがそれはまた別稿に譲るとして、私がこの記事で思い出した財政課時代のエピソードをご紹介したいと思います。

私は30代中盤の5年間を財政課の係長として過ごしました。
当時の財政課は大変忙しく、特に予算編成に携わる秋から冬にかけては不夜城と呼ぶのにふさわしい長時間労働が当たり前でした。
来る日も来る日も大量の予算要求調書の内容を精査し、事業の必要性や緊急性、実現可能性など、予算を計上するに足る理由があるかをチェックするために、予算要求を行った現場からのヒアリングと議論、そして査定案をまとめるための課長、部長、局長との協議に明け暮れる毎日。
重要な施策事業の方向性を決める大事な仕事だとわかっていても、長時間労働で体力的にも精神的にもギリギリの状態が続き、思ったような仕事ができない日や時間もありました。

5年間の係長生活の末、長時間勤務だけでなく、仕事のやり方そのものも含め、いろんな思いから「財政課をぶっ潰す」と誓って卒業した私は、その5年後、40代中盤で再び財政課に課長として出戻ることになりました。
財政課の仕事は相変わらず忙しく、秋冬の予算編成時だけでなくほぼ年中が忙しい状態になっていて、すべての職員が異動を希望するという異常事態となっていました。
いくら重要な仕事でやりがいがあったとしても長時間労働で体を壊してはなんにならないし、そもそも長時間労働が常態化しやりがいを感じるどころではない。一刻も早く逃げ出したい。そんな現状がありました。

私はまず課長として、職員の命と健康が何よりも優先であることを課内会議で宣言しました。
仕事は組織でやるものなので、誰かがいなくなってもその代わりは組織の誰かが補えばいいが、自分の人生は替えがきかない。
職員自身あるいは家族が健康を害し、あるいは親の介護や子育て、そのほか個人的に何らかのトラブルに見舞われた場合に、それを受け止め乗り越えていく立場を職場の誰かが替わってやることはできない。
だから、仕事よりも命と健康、家族を優先しろと言い、何かトラブルを抱えたらなるべく早いタイミングで課長である私に教えてほしいと頼み、そのフォローアップを組織全体で行うことへの協力を職場全体にお願いしました。

長時間労働是正が掛け声倒れに終わらないように、仕事のやり方も見直しました。
それまで毎年議会や予算編成の途上で主に管理職が使うために作成していた資料を半分以下に減らし、作成スケジュールにも余裕を持たせ、残業前提の作業指示をやめました。
また、予算要求から査定までの財政課の権限を大幅に現場に委譲し、ヒアリングから査定に至る現場とのやりとりを半分以下に減らしました。(これは、別の目的で実施したものですが、残業抑制にも絶大な効果がありました。)

そして、いわゆる外形規制です。
予算編成時の課内での協議は夜12時を超えないというルールの厳格運用と深夜残業時のタクシー帰宅を原則禁止したことで、終電までに帰ることが常態化しました。
時間外勤務の上限は定めませんでしたが、月ごとに職員個人の残業時間と休暇取得の実績を職場全体で共有し、労働時間に個人差があることを意識させたうえで、個人単位で全年同月の実績よりも時間外勤務が増えている職員には個別にヒアリングを行い、業務の効率化やチームでの処理などを指導しました。

このような取り組みの結果、4年間の課長時代に所属全体の残業時間は大幅に減少し、何よりもうれしかったのは、あれほど職場を逃げ出したがっていた職員の異動希望が減りました。
忘れられないのは、とある年度の歓送迎会でのこと。
その前年度初めの面談で年度末に必ず異動したいと言っていた職員がめでたく異動になり、そのあいさつの中で「課長が職場を変えてくれて時間外が減り、仕事がしやすくなった。これならまだ残ってもよかったかも」と言ってくれたことです。これには涙が出そうになりました。

仕事のやり方、組織の在り方を変えるのに、管理職の力は大きいですが、一方で、仕事の成果についても組織内あるいは外向けに問われ、責められる立場にある管理職が、仕事の成果を優先し職場環境の改善をおざなりにすることは、やむを得ない心理的背景があると思います。
しかし、そういう目先の、外から見える成果に気取られて労働環境の維持改善をおろそかにし、職員のモチベーションを下げて仕事が非効率になること、あるいは職員が辞めていくことや、健康を害して仕事ができなくなってしまうことは、人材という組織共有財産の価値を毀損することであり、仕事の成果を出せないことと同じレベルで責められるべきマネジメントの失敗です。

「人が財産」という価値観を組織として大事にし、管理職になる以前からそれを徹底して叩き込んでおいて、管理職になれば当たり前のようにそれができる。
そんな組織でなければ若い人材が自分の人生を預けてくれないし、それができなくて若い人材に敬遠される組織は、いずれ淘汰される運命にあるんでしょうが、私と同じくらいの年代、あるいはその上の世代がそういった時代の転換点を感じることができるかどうかがカギだと思います。

私は幸い、このことに気づくことができました。
その理由、背景については、今回の記事が少し長くなりましたので、またいずれかの時期に書きたいと思います。

★「自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?」について
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885

★日々の雑事はこちらに投稿していますので,ご興味のある方はどうぞ。
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