2021318 テロワールを語ることで、つくる 1

土地を意味するフランス語terreから派生した言葉、『テロワール』(Terroir)を切り口に日本酒を世界に広めるためにはどうしたら良いか。日本酒と同じ醸造酒であるワインが『テロワール』という言葉の力を借りて広まった成功の秘訣や、『テロワール』という考え方に対する日本酒の課題を両者を照らし合わせることで引き出し、日本酒ならではのテロワールの考え方にアプローチする。(概要)


0章、『テロワール』とは

ワイン好きの方なら一度は耳にしたことがあるだろう言葉、『テロワール』。一般的に『テロワール(Terroir)』とは、「土地」を意味するフランス語terreから派生した言葉である。もともとはワイン、コーヒー、茶などの品種における、生育地の地理、地勢、気候による特徴を指すフランス語である。大まかに言うと、その作物における「生育環境」だ。
フランスのワイン生産に携わってきた人々が何世紀にもわたって、異なる地域のブドウ園、または同じブドウ園の異なる区画のワインの違いを観察し、作る場所の独特の環境を示す用語として、『テロワール』の概念を形成していったのが起源である。
米が原料の日本酒にも『テロワール』は存在すると仮定することができる。ワインとともに世界中に普及したこの言葉の魅力を応用して、世界中に日本酒を広める方法をまた一つ増やすことはできないだろうか。

1章、日本酒における『テロワール』の可能性

日本が誇るべき醸造酒、日本酒を世界に広げる活動をする上で、まずは今まで自分が取り入れてきた説明を洗い直した。今日日本酒を話し始める時の切り口は、ボトルのラベルに書かれている”大吟醸”や”生酛造り”など、精米歩合や造りの説明になる傾向がどうしても強い。原料である米をどのくらい磨くのか、どういった技術を使うのか、という醸造工程に関わることは、日本酒の味わいの方向性の決定に深く関係しているからだ。しかし、私たち日本人の中でも、日本酒を愛好する人々を除き、このような用語の意味を正確に把握している人はかなり少ないように伺える。
 日本酒は世界中の酒と比べても、圧倒的に複雑で多様な醸造工程が特徴だ。一つの用語の意味を捉えるのにも、ある程度日本酒の基礎知識が必要とされることは否めない。(言い方を変えれば、はるか昔から続く日本文化とともに歩み、洗練されていった唯一無二の醸造酒に、私は心底魅了されている。)

海外含め、今まで自分が日本酒を伝えてきた方法に疑問が浮かんだ。日本人だとしても把握している人が少数派であろう自国の酒の説明を、外国人が他国の酒に対して果たして理解することができるのだろうか。自分の身近にいる
外国人に日本酒の説明をしたときの彼らの反応を振り返ってみた。ゾクっと悪寒が背筋に走った。よくよく考えれば至極当然のことだが、人は自分が特に興味のないことやものに対して、それが難解であるとわかった瞬間、理解することすら放棄する。
技術的な説明を入り口にするのは、まだ日本酒を知らない世界中の人々にその美味しさと魅力を伝えていきたいと願う上で、最善の方法ではないのかもしれない。ではどうしたら良いのだろう......

自分の職業であるソムリエとしての仕事と照らし合わせてみた。あらゆる飲み物を取り扱うのがソムリエの仕事だが、その中でも扱う頻度が高い”ワイン”は、その一本を説明するときに、生産地から伝えることが多い。造られた場所から伝え始めることで、漠然とでもそのワインに対するイメージを沸かせやすくすることができるからだ。例えばドイツのワインだと伝えれば寒冷なイメージを、スペインのワインだと伝えれば温暖なイメージをまずは持ってもらうができる。その場所が旅をしたことのある場所だったのなら、ちょっとした親近感すら覚える。
それを起点にその土地の地域性、歴史、そのワインを造る人の話と繋げていくことで、目の前に注がれた一杯のワインをより深く身に染み込ませながら味わうことができる。
日本酒にも当てはめることができるのではないだろうか。世界中の一人でも多くの人に手に取ってもらうには、まず入り口として、その日本酒が醸された"場所"の説明から始めてみてはどうだろう。未知の地へのイメージを自由に膨らませてから説明を始めるのは、ワインが確立した成功例と照らし合わせても効果的と言えるのではないだろうか。

0章でも説明したように、『テロワール』は生育環境ということができる。このことから私は、ワインの世界で途方もない時間とともに研ぎ澄まされていった『テロワール』という言葉の力を応用して、日本酒を世界に広めていくことができるのではないかと思ったのだ。

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