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子どもたちの育ちをどう見守るか?

子どもとマスクの悩ましい関係

感染力が強いデルタ株の流行で8月2日から東京・沖縄に加えて大阪、埼玉、千葉、神奈川の1府3県が緊急事態宣言対象地域になった。そのため、従来の感染症対策にプラスして早急のワクチン接種が大きな課題となっている。我が家も医療関係者である私、近所のサ高住にいる高齢者の母に続いてようやく夫にも接種の順番が回ってきたので早速先日1回目を済ませた。

しかし、12歳未満の子どもたちはワクチン接種自体できないため、小学生以下の子どもがいる世帯の人々や幼稚園や保育園、小学校の関係者は相当気を遣う日々なのは想像に難くない。

おまけに2歳未満の子どもは窒息や熱中症などのリスクがあるためマスクは推奨されない。それ以上の年齢の子どもの場合でも未就学の子どもの場合管理が難しいので、周囲の大人たちが熱中症や体調不良などのリスクを考慮しながら使用する必要がある。

この1年半ずっと気を張り詰めていたところに感染力が強いデルタ株が猛威を振るい、従来タイプなら比較的感染しづらいとされていた子どもたちも次々感染しているのが現状だ。

発達相談でも概ね4歳以上の子どもたちはマスクをして来る。当初はマスクを外してゴム紐のところを手に持ってビョンビョン回すという今なら卒倒しそうな行為も見かけたが、最近は慣れたのかずっと着けている。もちろん無意識にマスクに触る、鼻が出る事はあるが、さり気なく声をかけるとすぐに気をつけてくれる。

大人だって無意識の顎マスクやら食事中マスクを外した際のおしゃべりをしてしまうのだから、まして子どもなら尚更だろう。日々の暮らしをつつがなく送るために、どれだけの人たちがきめ細かい感情労働を強いられているか、改めて考えさせられている。

「それならワクチン接種すれば?」という声が出てきそうだが、12歳未満はまだ治験段階なので現状では周囲の大人たちがワクチン接種して子どもたちを守ることが重要になる。

運動発達をどうフォローするか?

実際発達相談業務をしていても親たちから「色々やってあげたいけど…」という悩みを耳にする。特にコロナ禍で多くの親たちが頭を抱えているのが運動する機会が減った、子どもたち同士で密に関わる機会が激減したということだ。

「家にばかりいるとテレビや動画ばかり見ちゃうから、って公園へ連れて行くと結局遊具の周りに子どもたちが集まってしまって密になっちゃう」という悩みも寄せられている。

子どもは大人よりもずっと感覚の世界で生きている。リモートで主に用いられる視覚や聴覚の発達も、運動や感覚と補い合いながら育つ。そのためにも様々な形で世界を肌で感じる機会を作りたいが、コロナ禍でそれが非常に難しい。

もちろん大半の子どもたちはコロナ収束後新しい回路を見出しながらコロナの間不足した学びを取り戻せるだろう。元々人間は基本的には適応力のある生物だ。ここまで人口が増えたのも適応力のなせる技だ。

しかし、発達相談で最近懸念していたところに昨年から「あ、またさらに増えている」と感じているのが2歳過ぎても両足ジャンプや少し高いところから飛び降りることが難しい、という以前はあまり見かけなかったケースだ。特に歩行バランスが悪いお子さんたちの時に質問すると親御さんたちも困惑顔で「まだできないんです…」と回答する。

5~10年くらい前なら親に質問すると当然のように「できますけど…(それが何か)?」と返ってきたし、検査時にやってもらうと普段親たちから禁止されているだけに「もういいよ!」とこちらが全力で制止するまで大はしゃぎでジャンプと飛び降りを得意げに見せてくれたものだ。

今は集合住宅で暮らしている家族が増えているからジャンプや飛び降りは他の部屋から苦情が出る可能性が高い。特に昨年からはコロナの影響で在宅勤務をしている家庭も多い。やらせたくても難しいという事情もあるだろう。

これらの運動は全身の筋肉を連動させる動きであり、それと同時に空中や重力の感覚と結びつくし、重いー軽いといった感覚や概念の理解などにも関わってくる。保健師にもそのような説明をすると「何気ない動作も子どもたちが育つにはとても大切なことなのですね!」と驚くが、見守る大人の余裕がない今、どうフォローするかは正直悩ましい。そして、それは私の本来の専門分野である言語にも影を落としている。

言語の評価・指導をどこまでフォローするか?

これも以前からその兆しがあったが、コロナ禍でさらに感じているのが音は聞こえているが、人の話し声の聞き取りが苦手な子が増えたということだ。実際発達相談で検査などをしていると廊下や防災放送の音にはすぐに反応するが、話し声、とりわけ文章の聞き取りが困難で、中にはこの特徴に加えて発音が不明瞭なこともある。

大半は保育園や幼稚園で先生の指示を聞かずにマイペースな行動をする、発音がはっきりしないという主訴なのだが、丁寧に評価すると

・人の話し声が単語だと分かるが、文章になると意味を理解していない

・そもそも文章全体を聞き取れていない

という状況が浮かび上がってくる。親御さんたちも話を聞いていないと言うよりも聞き取れていないという事情が分かると「ちゃんと理由があったのですね…」と複雑な表情を浮かべる。

マスクで口元を覆っているから声が聞き取りにくいというのは、誰でも想像がつくだろう。しかし、家族以外の大人が対面の場合ほぼ全員マスク越しという現状は、言語習得時ハンデになる子どももいるというのはもう少し周囲の大人たちも意識してほしい。

そして、コロナ禍は言語聴覚士の業務自体にも大きな影響を与えている。何せ感染の主な入口となる口腔に深く関わるため、慎重な対応を求められる。

特に高齢者の摂食嚥下指導で痰の吸引をする場合は飛沫感染のリスクが高まるし、構音(いわゆる発音)指導は口型を見せる際マスクを外すのに制限が出る。

フェイスガードやアクリル板などを用いてもデルタ株の感染力の強さを考えると無理はできない。また、小児の場合いたずらして取ってしまう、光が反射して見えづらいため離席して近づいてしまうということも十分あり得る。

今のところは保健師たちとも相談の上

・マスク越しで分かる範囲で評価

・食事場面などを次回までに動画撮影してもらうよう家族に依頼

ストローで息を吐くといった練習メニューを伝える

・精査が必要な場合は医療機関などに依頼

という対応をしているが、感染状況に正直頭を悩ませている。それでも子どもたちはどんどん成長していくから、今はできることをしつつコロナ収束を待つ日々である。




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