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母の体調 私の体調

スケジュール調整の課題

持病がある-それだけで一気にしわ寄せが来るのが通院時間の確保だ。きっと同じような身の上でないとなかなかイメージがつかないかもしれない。

1箇所だけならまだいいのだが、それが複数の病院になると休診日や仕事のスケジュールを加味してパズルの如く当てはめていく必要がある。

最近はこれに加えて親の介護サービスや通院付添の予定もあるから、「えーと、この日ならN子さんは〇〇へ行っているはずだから…」とまずスマホのカレンダーアプリで予定を確認するようになった。

比較的時間調整がしやすいフリーランスでもこうなのだから、フルタイムで働いていて、育児と介護のダブルケア中の人たちはまさに綱渡りじゃないか!?と改めて時間管理の課題について考えている。

母、突然下血する

実家にいた頃は家のこと優先で自宅から歩いていける範囲のクリニックしか通っていなかった母N子さんだが、このところ一気にあちこち調子が悪くなり、いくつもの病院へ通っている。幸い徒歩圏内でいざという時は訪問もしてくれるかかりつけ医が見つかり、整形外科もデイケアへ行った際診てもらえる体制が整ってきた。

本人も一進一退の体調にストレスを感じて「一度専門外来へ行きたいけど、どこから着手したらいいか分からないし、コロナが収まるまでは難しいかしらねぇ」とブツブツ言いながら日々の生活を送っていた。

そんな昨年末のある朝、私は母を車に乗せて久々に以前住んでいた家(今は姉とその子どもたちが住んでいる)へ連れて行った。

転居時には置いて行った父の遺影や古い写真などを引き取ることが目的で、以前は同居していた姉や孫たちの暮らしぶりも気がかりだったから様子を見たいという意向もあった。

帰りは姉が送ってくれるというので、家の前で母をおろして私は一人で帰宅し、その日は自宅で過ごしていたが、夜になって突然スマートフォンが鳴った。

「あ、無事帰宅したのねー」と呑気に電話に出ると、「お母さん、下血したんだけど!」と姉のオロオロした声が。

え?下血ってどういうこと?と夫と急ぎ母の入居先のサ高住へダッシュすると、呆然とした表情の母と姉がリビングの椅子に座っていた。トイレを覗くと便器の中が真っ赤だし、履いていたパンツも血まみれ。よく見ると生理の初日のような色で黒っぽい塊もある。

急いでスマートフォンでトイレや下着の状況を撮影し、熱や血圧などをチェックするがいずれも平常値。本人に吐き気や痛みなどの症状について尋ねるも、普段とそんなに変わらないとのこと。

姉は「スマホで調べたら一番怪しいのは婦人科っぽいんだよね」と言うが、出血が止まらないなら悠長なことを言わずにさっさと救急車を呼ぶ必要がある。

関東平野部とは言え夜遅くなると橋の上などは凍結の危険もあるし、留守番している子どもたちも心細かろう、と姉には帰宅してもらい、しばらく母と話をしながら容態を見守った。

30分ほど経過しても容態に変化がないので夫にも帰ってもらい、1時間後血が止まっているのを母とトイレで確認してからひとまず帰宅した。

翌朝母に連絡すると「血は止まっているけど、心配だから病院へ行きたい」と言うので近所の婦人科数軒に連絡して容態を伝えると、1軒「来てくだされば拝見します」というところがあったので母には午前中予約していた歯科へ行ってもらい、午後婦人科へ連れて行った。

高齢者の診察で考慮すべきこと

母は要介護1の状態で、日常での会話や家事はできるが、足腰が弱っているため階段や段差のある場所は手すりがないと厳しいし、片足立ちやしゃがむ動作が難しい。

そこで事前にもしかしたら内診台に乗るのが大変かもしれない旨を伝えると先方から「うちのクリニックは2階でエレベーターがないのですが…」と説明を受けた。階段はゆっくりなら大丈夫なので当日も何とかなったが、もう少し足腰が弱っていたら受診を諦めたかもしれない。

心配した内診台も何とかなったが、着替えの際下着の着脱に苦労しており、壁に手をつき、私が手助けして事なきを得た。

また、認知機能は比較的保たれてはいるが、補聴器を装用していることもあり、スピードが速い会話や込み入った内容は聞き取れていないことがある。医師の説明についても私が本人に分かりやすく言い換える、お薬手帳や過去の検査データなどを見せて「こういう状況だ」と医師に経過を伝えるといった本人や医師の仲立ちをする必要もある。

このクリニックはスタッフも全員女性で待合室も男性はご遠慮ください、となっていたから私が男性だったら苦労したかもしれない。

診察の結果婦人科ではなさそうだが、癌の可能性もゼロではないため念の為に子宮頸がんと腫瘍マーカーの検査(膣や子宮が収縮して子宮体がんの検査ができなかったため)をしてもらい、年明けに私が結果を聞きに行くことになった。

また、その際「尿道の下の方が赤くなっているので、症状が改善しないなら泌尿器科へ行かれるといいでしょう」とも言われた。母には心配なら明日泌尿器科へ行こうね、と伝えてひとまず引き上げたが、多分行くんだろうなー、ということで、以前検診の再検査で母を連れて行った泌尿器科(私も間質性膀胱炎で長年お世話になった)の年末年始の予定をネットで確認しておいた。

餅は餅屋

予想通り翌朝母から「やっぱり何となく調子悪い。安心して年を越したい」と連絡があり、午前中私の用事を済ませて午後母を連れて泌尿器科へ。

ここは私と顔見知りの看護師さんもいるので「あら、今日はどうしたの?」とすぐに対応してもらえたが、まずは膀胱を一杯にした状態で超音波検査をするとのこと。

「だから出かける前トイレ行っちゃダメだったのよー」「でも車の中でトイレ行きたくなっても困るじゃないの」「そうなんだけどさー」と親子で愚痴り合いながら近くの自販機で飲み物を買い込み、母に飲んでもらいながら膀胱に尿が溜まるのを待つこと約一時間。

ようやく検査できそうな状況になったため、母を連れて診察室へ。超音波検査では膀胱や腎臓などに大きな所見はなかったそうでひとまずホッとしたが、婦人科医の所見を伝えると「ちょっとお母さんお股のところ診せてねー」とペンライト持って視診開始

「あー、これは大変。だいぶ赤くなってるねー」と医師が半ばホッとしたような脱力したような感じの声を出す。どうやら出血の原因が分かった模様。

「これね、尿道に血豆状のものができてて、それが破けて出血したの。わりとよくあるの。良性の腫瘍だから基本経過観察だけど、お母さんのはかなり大きいから根本的な治療は手術しかないよ」と言われ、ひとまず命に関わらないものと分かってその場にいた全員がホッとした空気に包まれた。

帰宅後ネットで「尿道 血豆」で検索したらあっという間に尿道カルンクル(カルンクラ)と病名が出てきた。中高年の女性には割とよくあるものとのこと。

それでドクターもホッとしたのか、と妙に納得してケアマネさんたちにも事情を伝えて情報を共有した。

コロナの影響

「手術するなら紹介状書くけど、この近くの総合病院の泌尿器科はコロナの影響もあって癌の手術以外はほとんど受け付けてくれないから、少し遠いけど〇〇センターか△△センターだね」と言われた。母を連れて遠い病院へ行くのは体の負担も考えないとだし、入院すると多分コロナで面会もできないから…と年末年始の間様子を見ていたが、やはり泌尿器科系疾患はQOLの低下に直結する。

母と話し合って年明けに泌尿器科へ連絡して紹介状を受け取り、翌週母を連れて車で少し離れた総合病院へ。初診はひたすら待つのみ!とのことなので、本やら編み物の道具やらを持参してとにかく待ちの姿勢を貫いた。

朝10時過ぎに受付を済ませたが、お昼を回って待ち合いスペースがだいぶ閑散としてきた頃ようやく診察室へ。経過を説明した上で過去の血液検査のデータなどを示すと「では患部を診てみましょう」となり、少し待ってから母だけ処置室へ。それが終わってさらにしばらく待ってから診察室へ呼ばれた。

理由は不明だがカルンクルが小さくなっていたそうで、患部は手術不要で経過観察でいいとのこと。ホッとして脱力しそうになったが、医師も「本当に小さいんですよ。なんであの先生(最初に診た泌尿器科医)が紹介状出したのか不思議なんです」と困惑気味の顔をしていたため、発症時撮影した画像を「当日はこんな状況だったからかと…」と見せると先生の顔色が「ええ?」と変わった。撮影した私、グッジョブ!

「今日お時間ありますか?念の為膀胱や腎臓に問題ないかCT検査と尿検査をします!」とそれまでとは明らかに違う様子で検査の指示をテキパキと出してくれた。

母が検査のエリアで「またいっぱい飲まなきゃ。トイレのタイミング悪かったかも」と再び飲み物をたくさん飲みながら話すのを「仕方ないよ。もう帰れるって思ったし」と慰めつつ、検査の人が母を呼びに来るまで付き添い、母が検査に呼ばれてからは帰ってくるのを待った。

すべての検査が終わって医師から「膀胱や腎臓に異常は見つからず、尿検査も問題なかったので、再出血や排尿障害などのトラブルがなければ経過観察でいいです」と告げられた時は夕暮れが差し迫る時刻となり、「お昼食べなかったし、ホッとしたからお腹空いたねー」「もう夕飯だよ」と母と口々に話しながら帰宅の途についた。

ケアについて考える

今回のことで母は自分が弱っていくスピードを実感したようだ。今後のことを色々相談されたが、はっきりしているのは

・いつ車椅子生活などになってもいい状況にする

・タイミングを見てベッドの位置を移動させる

・そのためには物を整理し、不要品を処分する

・使う物を出し入れしやすい場所へ入れる

・他人の助けを借りやすいよう物の入れ場所を明示する

ということだ。本人も「やっぱりそうよね。思い切って整理しよう!」と決意したようで、早速洋服を整理してくれた(私は母の手が届かないところから物を出し入れするのをサポートし、不要品をゴミに出したりリサイクル店へ持っていく)。

幸い母は元々シンプルに暮らしたいという願望が強かったので、本人の意向に沿ってできているが、これが父のようなタメコミアンだったらそうは行かなかっただろう。

しかし、介護保険を本格的に始める前準備として家の整理整頓は必須だと私は考えている。実際入院した親が退院して自宅介護を始める際、介護用ベッドなどを置くスペース確保に家族が奮闘するという話は事欠かない。

特に親たちは自分が子どもよりも物事を理解していると思っているから、自分たちが納得行かないことにはてこでも動かない面がある。母N子さんも入院中に私が勝手に部屋のレイアウトを変えたら後で色々言われるのは目に見えている。

なので、私がお勧めしたいのは

・できたら親が元気なうちに親の家の片付けを一緒にする

・それが無理ならせめて自分の家だけでも整理整頓しておく

ということだ。ミニマリストとまでは行かなくても定期的に不用品を見直し、身軽に動けるよう手はずを整えておけば、いざという時自宅だけでも家族や外注サービスの助けを借りられる。

少し前のようなケアは家族に丸投げというのはもう無理な話だということをもっと自覚しないといけないのだが、やはり面倒くさいのか先延ばしされることが多いので、今後も折に触れて話題にしたいと思う。

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