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眠らない東京

夜と朝のあいだ、眠らない東京

夜と朝のあいだに…/エレファントカシマシ


寮を抜け出し、女子3人で夜の新宿に繰り出した。
大学一年の夏のこと。

こっそり抜け出したわけではない。
ちゃんと前日に外泊届けを出している。

アケとトモとわたしの3人。

お目当てはデスコディスコ
田舎者、初めてのオールナイト。

田舎者と言ってもアケは違う。
関西のおしゃれな街から出て来たアケ。
中学からダンスをしていて、踊りはもう慣れたもの。

アケに先導され、恐る恐るついていくトモとわたし。

薄暗い地下。
話し声が聞こえないくらいに鳴り響く音。
ちかちかと回るライト。
男も女も音楽に身を任せ、ゆらゆらと揺れている。

踊り方がわからない。

アケを見ながら、なんとなく真似てみる。トモは楽しそう。

ダメだ。わたしは無理。

ちょっとだけ揺れてみて、すぐにスタンドテーブルに手を置いて休んだ。

あとはボーっと、そこで踊る人たちを眺めてやり過ごした。

「もうええのん?」

しばらくしてアケがそう言った。

「うん。満足」

わたし達は外へ出た。

新宿は歌舞伎町。
昼間は映画を観に来たカジュアルな若者で溢れているのに、夜はその顔を変える。

派手目のスーツに身を固め、クラッチバッグを抱えた目のきついお兄さん。

前歯の抜けた白髪はくはつの老婆。なぜかシュミーズ一枚着てるだけ。

街の灯りだけはいつまでも煌々と輝いている。

場違いな所に来たようで少し怖くなった。
あてもなく歩いていると、同じ3人組みの男子に声をかけられ、そのまま居酒屋らしき飲み屋へ入った。

ロングヘアーのイケてるアケがいなければ、声をかけられることもなかっただろう。

大学一年だったのにお酒を飲んだと言うことは、もう20歳はたちになっていたのかな。
今となってはあやしいものだ。

なんの話をしたのかも覚えてないが、まぁ、大したことのない、「いくつ?」なんていうありきたりな話から始まったんだろう。

店を出た時には、トモはへらへらといい感じに酔っていた。

「俺らのアパートすぐ近くなんだけど、行かない?」

トモはへらへらとついて行きそうになっていたが、間髪入れずアケが言った。

「もう終電なくなるから!」

今日は徹頭徹尾アケの仕切りだ。
実に頼もしい。

もちろん今日はオールと決めて来ているから、終電の時間なんて知らない。

そのあと、そう、たしか銀色のミスタードーナツに行ったんだ。
銀色?
なんだか知らないけど、やけに広くて、テーブルも支柱も銀色だった。
歌舞伎町仕様だったのかな。

楽しかった。少し怖さもあったけど。

甘いドーナツとコーヒーだか紅茶だかで酔いを覚ましながら、3人でたくさん喋った。笑った。
ほかにもどこかへ行ったかも知れないが、あまりよく覚えていない。

そのうち外が白んできた。

ゴミ出しをしているお店の人や、仕事終わりか仕事始めかわからない人たちが、ぽつぽつと駅の方に向かって歩いている。

「もう始発あるんちゃう?」

わたし達も駅へと向かう。

クラスが同じで、いつも一緒にいた3人。

眠らない東京、歌舞伎町で一夜を明かした日のことは、少しずつ記憶が曖昧になってはいるが、今も青春のひとコマとしてわたし達のココロに残っている。

そしてその約1年後、アケとトモとわたしは、すっとこどっこいな中国3人旅行に出かけることになるのだ。

それはまた別のお話







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