24年目の七夕night
7月7日
今日は札幌の別荘に来ている。
あまりの暑さに頭がおかしくなりそうだったから、自家用ジェットで西日本を脱出した。
札幌の気温は22℃。
明日の最高気温は23℃らしい。
快適だ。
とりあえず、屋内プールでさらに涼をとる。
クロールをするでもなく、平泳ぎはそもそもできないし、ただただ冷たすぎない水の上で大の字になってボーっと浮いている。
仕事も家事も、気になる諸々のことも全部忘れて。
「梅ももジュースを持ってきたよ」
珍しく、夫が私のために気を利かせて、自分は飲まないであろう私好みのジュースを持って来てくれた。細長いグラスにストローとハイビスカスもどきのよくわからない花を一輪添えて。
「わぁ!ありがとう!どうしたの?」
浮くのを中断し、パシャパシャとプールサイドまで戻る。
「今日は結婚記念日じゃないか。君はなにもしないで好きに過ごすといいよ」
結婚記念日を覚えているなんて!
改心したのか?
生まれ変わったのか。
いや、夫のふりをした加瀬亮なんじゃないか?
この際なんでもいい。
冷えた梅ももジュースを飲みながら、夜の食事はどうするのか聞いてみた。
「君の好きなものでいいよ」
「じゃあ、すしざんまい!」
札幌でもすしざんまいかよ。
庶民はどこまでいっても庶民だ。
ま、地元にはないからいいだろう。
カラになったグラスを夫に返し、よいしょっと水からあがる。
近頃じゃ、なにをするにもよいしょが必要だ。
薄緑の軽やかなワンピースに着替え、
いざお寿司を食べに出かける。
ワンピースだとウエストが楽で、心置きなく食べられる。
すしざんまいは、すすきの駅から徒歩1分。
とはいえ電車には乗りたくないから、ハイヤーを呼ぶ。最高級レクサスだ。
正直車のことはよくわからないが、レクサスならたぶん間違いないだろう。
知らんけど。
ここでも滲み出る庶民み。
🍣
マグロマグロマグロ。
マグロを食べ進めていてふと気づく。
夫はそんなにマグロが好きじゃない。
付き合わせて悪いね…と彼の方を見ると、呑兵衛の夫の前には、すでに空のジョッキがいくつも並んでいた。
相変わらず飲むピッチが早い。
札幌では生ビールもよく進むようだ。
ジョッキを下げてもらう時にまた注文しようとしていたから、そこはさすがに制した。
だって食事が終わったら星を見にいかなくちゃいけない。
今日は七夕なんだから。
なんてったって七夕。
なんてったって結婚記念日。
「星のよく見えるところに行ってください。満天の星を見たいんです」
運転手さんにそうお願いする。
「それなら支笏湖ですね、お客様。
1時間ほどかかりますが」
1時間くらい平気だ。
夫の酔いも幾分覚めるだろう。
ああ、七夕の日に満天の星。
夢にまでみた、いや実際によく夢に見る満天の星、天の川。
素敵。素敵すぎる。
「しかしお客様、あいにく今日は曇りのようです……」
運転手さんが曇り顔でそう言った。
がーーん
漫画みたいな音がした。
そういえばこの前、職場でちょっとしたミスをし、思わず「がーん」って言ったら、若い社員さんが笑って言った。
「リアルに“がーん”て言う人初めて見たわ」
んなことは今はどうでもいい。
あー、わざわざ今日ここへ来た意味が。涼しさは充分堪能したが……。
別荘に戻り、自家用ジェットで西日本に帰ることにした。
暑い西日本へ。
しかし、天気はいいから星は見えそうだ。天の川はさすがに無理だろうか。
✈️
蒸し暑い現実が戻ってきた。
そう、全てマボロシ。
札幌も、別荘も、すしざんまいも。
ましてや自家用ジェットなど。
いちいちルビ打つの面倒くさいなそして。
さ、ちくわとピーマンの簡単オイスターソース炒めを食べよう。
頭が飛んでるあいだにすっかり冷めちゃったよ。
そのあとローズの湯船に浸かって、ちょっくら夜空を見上げてみよう。
🎋
25周年へ。
まだ旅は続きそうだ。
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