わたしのクリスマス
メリークリスマス!
いつものおてんきおねえさんが嬉しそうに言う、
きれいな笑顔、綺麗に作られた笑顔。
クリスマスは、イエス・キリストの誕生日って最近知ったよ。
メリーってどういう意味だろう?
- merry (形) 陽気な 愉快な お祭り気分の
陽気な、キリストの誕生日。
こんどのわたしの誕生日は、楽しくお祝いされるのかなあ、お祭りになるのかなあ。
今日はわたしの誕生日だから、お祭りなんだよ!
お部屋のなかに屋台があって、わたがし、ポテトフライ、アイスクリーム、それから、お待ちかねのケーキにプレゼント。ケーキはわたしがとりわけるの、上手に切れないかもしれないけれど、いちばん大きいのはパパに、その次に大きいのは、ママに。それから、ピンクの紙とリボンでラッピングされた大きなプレゼントを開けて、中からわたしの体と同じくらいのくまさんが出てきて、おおよろこび。それから、それから…
わかってる、そんなの絶対、ありえない。
ママは、パパはもういませんって、言うに決まってる。
ママより全然可愛くなくて、ずっとおばさんに見えて、おんなじマークが丁寧に並べられたバッグを持った女の人に真っ黒い大きな車でお迎えに来られたパパ、
帰ってこないパパ、
でもわたしは知ってた、
ママもほんの少しだけ知ってた、
わたしのほうがもっとたくさん、知ってた。
もう少ししたら、ちょっとの間だけ会えなくなるかもしれないけど、でも大丈夫、上手にお金貰って帰ってくるよ、って。
あの日の少し前、パパはわたしのベッドで内緒話みたいに教えてくれたんだ。
パパはすっごく格好よくて、みんなが羨む、自慢のパパ。ママはそんなパパのことが大好きで、とっても可愛いママ。
友達のお父さんとお母さんだって、わたしのパパとママの横に立ったら、どんな人でもなんだか残念に見えるの。
もう帰ってこないかもしれないパパ、
わたしのために頑張るね、って言って、連れて行かれたパパ、
わたしからパパを奪っていった女の人は、パパのことが好きで、でもママみたいな好きじゃなくて、思わずたくさんお金を渡したくなるくらい好きみたい。パパもそういう人のことは嫌いじゃなくて、「じょうずにやれば怖くない」んだって、
でも、わたしのほうがパパのこと好きだよ、
なのにわたしにはお金なんてないから、パパのこと、買えないよ。
どんなに大好きでも、買えないの。
わたしはもう子供じゃないから、サンタクロースなんて信じないよ、
いないってわかってるよ、
だってちょっと前、ママに欲しいもの聞かれたんだ、誕生日なんてまだまだ先なのに。
ママには、赤い靴が欲しいなって言った、
バレエシューズみたいにつま先にリボンがついてて、少しだけかかとに高さのある、歩くとコツコツ音がする赤い靴。
でも、サンタさん、
一パパに会いたい
クリスマスなら、今日なら、言ってもいいと思うのは、今日の夜なら叶っちゃう気がするのは、わたしがまだまだコドモだからかなあ?
でも、
言葉にしたら、いけない気がするんだ。
だからやっぱり、ママにも言えない。
サンタクロースに来てもらうため、ママと一緒に用意した靴下に、小さいおもちゃのゆびわをこっそりを入れておいた。このゆびわは、パパに買ってもらった、たからもの。
パパ、
いまどこにいるの?
メリークリスマス、っていう言葉が
パパに会うための魔法の呪文になるように
今日はたくさんの人と
キリストさんの誕生日をお祝いするんだ。
メリークリスマス、
今夜は、パパに会えますように。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?