貴方の恋人になりたいのです 阿部真央 エッセイ
目覚めてすぐ、寝ながら枕元に置いておいた携帯を探す。
なかなか見つからないなと苛つきながら
探し当てた携帯の画面を見ると、求めていた返信メールは届いていない。
「はぁー・・・」
その深い息は、朝一の溜息になり、
爽やかな7月の今日、という大事な休日の
やる気が全て奪われてしまった。
"やっぱり昨晩に連絡したのが悪かったなぁ"
そう後悔が募り、でも、もう取り返しのつかない事が余計に心を追い詰める。
私は17歳の高校生だ。
今一番の楽しみは"好きな人と話すこと"
と言っても、直接話すことは少ない。
彼は今年から同じクラスの男子で、彼の存在は去年の夏から知っていた。
か学校の中で、何かで有名なわけでも、イケメンなわけでも、何でもない。
ぱっとしない方の男子だ。
しかし落ち着いて話している姿がを目撃した事が、彼に惹かれた始まりだ。
廊下でたまに、男友達とふざけている姿も目撃し、大笑いしている姿も好きになっていった。
彼と話してみたいーーー。
その一心である目標を立てる事にした。それは、成績を伸ばすこと。
私の学校は2年生になると、成績順にクラスが分かれる。
だから、どうしても、彼と同じクラスになるには、自分の成績を上げる必要があった。
なぜかと言うと、彼は平均点を上げる側の人間である。
つまり賢かったのだ。
もともと平均以上を保っていた私だが、
彼と出会ってからは、より勉強を重ね、成績を伸ばした。
もともと有名大学に進めるほどの進学校だが、
1年の夏から本気で勉強している学生は少なく、
私はちょっと目的は違うが、
有名大学に進む為の勉強に励む側の人間だ、と周囲に思わせた。
2年へのクラス発表を掲示板に見に行った時、
彼と同じクラスになった事が分かった瞬間、
感動と嬉しさで言葉にならなかった。
あくびで誤魔化したが、確かちょっと涙目だった気もする。
同じクラスになって1か月。
クラスの中でも仲の良い友達も出来、日常が安定した頃、
彼の恋人になりたい、とふと思ってしまった。
仲の良い友達には彼氏が居た。
学校のサッカー部で、確かにカッコいい。派手なカップルだ。
私はそうはならなくて構わない。落ち着いた関係が良いのだ。それはきっと彼しかいない。
6月、クラスの人気者の誕生日会がカラオケで開催された。
16人もの男女が集まると聞いていたが、実際は21人集まった。
そして、その中に何故か彼が居た。白と黒を基調とし、アクセサリーも身につけていないシンプルな服裝に目が釘付けになる。
楽しいカラオケだったが、彼の姿を目に入れようと必死だった。
無事お祝いも終わり、間もなく解散の頃、お手洗いの為に数人が一斉に外に出た。
そしてその時、たまたま彼が私の近くに座り直した。
今しかないーーー。そう思う前に言葉が出ていた。
「今日、村田くんが来るって知らなかった!」
「あいつ(主役)がサプライズ好きだから、內緒にしてたんだ」
「そうだったんだね!私、村田くんと話した事なかったけど、実は、話してみたかったんだよね!」
初めて話すのに、軽くカミングアウトをしてしまい、照れて下を向く。
「ありがとう。俺も、下野さんと話してみたかった。」
周りは騒がしいのに、この空間だけは驚く程静かだった。
え、私と話してみたかった?ハナシテミタカッタ?
脳内処理が追いつかない。目も鼻も毛穴も、すべての穴が開いてる気がする。汗が止まらない。
いい返事をしないと、そう焦り、言葉が詰まる。
その時、解散!!!とマイク越しで大きく鳴り響いたのが遠くに聞こえた。
「じゃ、グループ作るから、みんな寫真載せてねー!!」
誰かが大声で話しているのが聞こえる。
LINEにてグループが作られる、つまり彼の連絡先が自然にわかると言う事だ。
何という幸せ!そう思ったが、急に個人連絡するのも緊張するし、タイミングが分からない。
どうしたものか。
そう悩んでいた矢先、後ろから声をかけられた。
この声は、私の一番好きな声だ。
「下野さん、よく小説読んでるよね?ちょっと通学中に読みたいんだけど、ミステリーでおすすめあったら、LINE貰えないかな?」
今日この誕生日会に參加している中で、きっと一番有意義な時間を過ごしたのは私だろう。
そう思う事が出來るくらい、笑顔で応えた。
何気ないLINEが続いたり、小説の話をしたり。
ただ、私が一番聞きたい肝心な事は聞けていない。
「彼女はいますか?」
「バイトはなんですか?」
「どんな人が好きですか?」
聞きたいことは沢山ある。
どうすれば仲良くなれるだろうか。
どうすれば恋人対象として考えてくれるだろうか。
聞き過ぎたら引かれるだろうか。
そう思いながらも昨晩送った、後戻り出來ないLINE。
「花火大会、一緒に行きませんか?」
この返事を待ち続けるのは、心臓が幾らあっても足りない。
あぁ、早く、相思相愛になって、早く
貴方の恋人対象なりたい。
昨日送ったメールの返事はやはり
夜が明けた今も来ないまま
あぁ送らなければ良かったな
悔いだけが募ります
貴方をもっとちゃんと知りたいけれど
今よりもっと仲良くなりたいけど
深入りしたら嫌がりませんか?
そう思うと聞けなくて
「バイトはなんですか?」「彼女はいますか?」
聞きたいことはたくさんあるわ
夏は貴方と落ち合って一緒に花火を見たいです
厚かましい願いではありますが、貴方の恋人になりたいのです
歌:阿部真央
リリース:2010年
作詞:阿部真央
作曲:阿部真央
「俺も下野と一緒に行きたいって思ってたんだ!誘ってくれてありがとう!」
その返事が届いたのを確認したのは朝食後。
私は今もなお、彼と幸せが続いている。
チョコレートに牛乳
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