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虹 二宮和也 エッセイ

「もう知らないっ!」

強気な口調で、思ってもいない毒を吐く彼女。
そんな様子を冷静に見る僕。

あーあ、怒らせちゃった。
どちらかが全て悪いなんて事無いのに。
そうだね、でも僕が悪かったことにするから。

そう思い、苦笑いをしながらごめんね、と言う。

「っもう!なんで?何で悪いと思っても無いのに謝るの?!そういうところ、本当やってけない!!」

そう言い放ち、彼女は身一つで家から飛び出した。

彼女とは5年目の仲である。
お互いが惹かれあい、尊重し、今に至る。
ただ、嬉しいことに、僕たちは思考回路が同じ時がある。
だからこそ、違う時には言い合いになるのだ。

「携帯も財布も持って行ってないのか。危ないなぁ、相変わらず。」
見える所に置きっぱなしの彼女の貴重品を見て、呆れたように独り言を呟いた。
そしてソファーから重たい身体を動かした。

髪や服装をきちんと整え、僕は彼女の貴重品も持ち、追いかけるように外へ出る。

「あ、雨の匂いがする…。」
玄関を開けた途端に気付く。
あと少ししたら降り出すだろう。
僕は傘を2本腕にかけ、パーカーのポケットに手を突っ込みアパートに背を向けた。

歩いたら30分程の距離、路面電車を使うと13分程の距離に、小さく静かな高台がある。
そこはこの街を全て見渡す事が出来る、とまではいかないが、
僕たちの未来を見据えた約束をした大切な場所だ。

きっと彼女はそこに行く。
そう思い、僕は路面電車を使い、
夕日に追いつかれない様に
彼女より先回りをすることにした。


「っ、な、なんで居るのよー」
一人で歩いて落ち着いたのだろうか、先ほどまでの脅威は落ち着き、
柔らかい口調に戻っている彼女は
目を丸くしながら僕を真っ直ぐ見ては
またそっぽを向いた。

「そりゃぁ、僕、君の旦那さんだから」
堂々とそう言いながら数歩近づき、
「ごめんね?」
と再度改めて、顔を横向ける彼女に
優しく言葉をかけた。

「うん、もう、いいようー。私も悪かったからぁ」
そう言い放ち下を向く彼女を見て、ふふっと笑ってしまった。
拗ねながら、照れている。
やっぱり僕の奥さんは可愛い女性だ、と
自慢げに思った。

「私もごめん、言い方キツかった、と思いマス」
「あ、自覚はあるんだ」
「え、いや、ハイ、アリマス。」
最後の片言感が伝わってきたが聞こえないフリをした。
夫婦とは、
うまくやる方法を見つければいいだけで、深掘りする必要は無い。
僕は、そう思う。

高台に二人で横に並び、街灯が光り始めた街を見る。
息を吸い込み、吐く。気持ちがいい。
「僕、久しぶりにここに来た」
「あ、そうなんだ!私、なにかあったらここに来るの!知ってた?笑」
「(知ってたから、今ここに迎えに来れているんだけど)」

そんな事を話してると雨がゆっくり降り出してきた。
ちょうど良いタイミングだ、
そんな事を思いながら
彼女にそっと傘を差し出した。

「ありがとう」
にこっと柔らかく笑う君を見て思う。
やっぱり好きだ。
この子の笑顔だけは隠されたく無い。手放したく無い。

そう思っていると彼女もそう思ったのだろうか。
傘を持っていない手を差し出し、
こっちに来てよ、と言わんばかりの
照れる顔をみせてきた。

今すぐ抱きしめたくなる程、やっぱり愛おしい。

「どう致しまして」
そして僕も彼女に笑いかけ、
影が重なる様に、
手を握りしめそっと近づき、抱きしめた。


抱きしめながら話す。
「今日、結婚記念日なんだよ」
そう僕が話すと、すごく嬉しそうに、
分かり易いくらい彼女は早口になった。
「そう!覚えてたの!?そっか!!あ、だからここ(高台)に来たんだ?」
その様子を見て、お互いが雨に濡れない様に離れ、手だけ繋いでおく。

「うん、いつもありがとうございます。いつも好きだよ。」
そう素直に言うと、やっぱり彼女は
拗ねる様に照れながら下を向いた。

言葉にならない様なニヤニヤした顔をして、
でも決して僕に好きとは言わない。
口角が上がりまくる彼女を見ては、
可愛いと思えるこの関係が続いているから
別に僕は言葉は求めたりはしない。

でもいつか、
いつか言って欲しい。
そう思いながら、手をギュッと握りしめると、
彼女も握り返してきた。 

同じ苗字、同じ家、同じ好きという気持ち。
幸せだと、癒されると思っていた頃
通り雨が上がり、が顔を出した。

僕はきっと、これからも彼女が好きだ。


いつもそうよ。
拗ねるときみは。
私の大事な物を隠すでしょ。
その場所は決まって同じだから。
今日は先に行って待ってみるわ。
季節達が夕日を連れて来て
影が私をみつけて延びる・・・。
ビックリした顔で私をみつめては
急に口尖らせてプイっと外見るの。
ごめんね。と言うと
じゃあこっちに来てよと
ねぇ、ほら見て見て
影が重なった…。



歌:二宮和也(嵐)
リリース:2007
作詞:二宮和也
作曲:多田慎也

チョコレートに牛乳

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