「イベント中止」のその先へ ~コロナウイルスと音楽ビジネス~

コロナウイルスの影響で様々な対応が取られ始めてから、1ヶ月以上が経過した。
イベントやライブの中止が相次ぐなか、一方で無観客ライブの生配信やAbemeTVでの特番などが増えてきて、なんやかんやで充実した日々を過ごしている人も多いだろう。

「exit strategy(出口戦略)」

BBC Newsで「The world is shutting down. (世界が閉鎖しかかっている)」というなかなか強烈な文章から始まる記事を見つけた。
記事内では、「exit strategy(出口戦略)」がないことが最大の問題点だと指摘されている。つまり「どのような対策を取るか」ということに加えて、「どのように対策を終了するか」ということが重要だという。

エンタメ業界も然り、だ。
イベント中止の”その先”を、そろそろ本腰を入れて考え始めないといけない。

逆に”その先”が見いだせない限り、私たちの大好きな作品やアーティストが、どんどんなくなってしまう可能性すらある。
特に個人で経営しているような事務所やインディーレーベルなどは、既にイベント中止による大規模な赤字を被って、身動きできない状態だ。

次世代のエンタメビジネスとは?

コロナウイルスは、エンタメ業界に挑戦状を叩きつけた。
次世代のエンタメビジネスとは?
日本のエンタメ業界がずっと考えることを後回しにし続けてきたツケを、コロナウイルスが突いてきたのだ。

次世代のエンタメビジネス。
キーとなってくるのは、やはり動画配信サービスだろう。
実際、コロナウイルスが一足早く流行った中国では、2月末の時点でエンタメ業界は配信に舵を切っていたという。

しかし現状生配信やら特番は、「出演者とか会場とか抑えちゃったから仕方なく」という“次善策”として使われているに過ぎず、持続可能なものではない。
今後のエンタメ業界を想うと、いかに配信で収益を上げていくかということが大事になってくる。

動画配信サービスにおける2つのアプローチ

ここで質問。
家で過ごすことが多くなってから、皆さんのライフスタイルはどのように変わっただろうか?

料理をするようになった人、運動不足解消グッズを買った人。
私個人としては、Netflixで突然海外ドラマにハマったり、YouTubeライブでまぁまぁ好きなアーティストに投げ銭したりしていた。
共通項としては、「今までそこまで好きではなかったが、始めてみたら案外ハマった」という点だ。つまり”相対的趣味”みたいなものが増えたのだ。

①動画配信サービスは浅く広いファン層に向いている
動画配信サービスを通じてターゲットとすべき層は、”相対的趣味”を持っている人、つまり「現地まで行くほどじゃないけど、家で見れるなら見てみようかな」という人だ。
作品やアーティストの立場からすると、「1,000人から10,000円もらう」のではなく「10,000人から1,000円をもらう」という戦略になってくる。

浅く広いファン層を抱えた作品やコンテンツは、再生回数に伴う広告収入をそれなりに稼ぐことができると思う。
だが「CDやBlu-rayを買って、高いチケット代を払って現地に行って、さらにグッズを購入する」という濃いファン層だけをターゲットにしてきた作品やアーティストは、なかなかつらい現実が待っている。

②濃いファン層とはうまく向き合えていない動画配信サービス
一方で、動画配信サービスが濃いファン層とうまく向き合えていないことには疑問を感じる。
例えば、私の大好きな早見沙織さんが3月25日にニューミニアルバムを発売した際の話だ。もちろんリリイベは中止。代わりにAbemaTVとニコ生で生ライブ配信を行い、ラジオ番組でも歌を披露したが、それらの感動をアーティスト側に還元できる機会がなかなかないことに歯がゆさを感じた。総じてもニコニコのプレミアム会員費くらいしか支払っていない。

動画配信サービスでも、アーティストに寄与できる仕組みがもっとあれば…。
サービス側に寄与する会員費のみではなく、作品やアーティストにダイレクトに寄与できる投げ銭のようなシステムをもっと増やしてほしいところだ。

「健康」が大前提

とはいえ、ここまで語ってきたことは健康であることが大前提だ。

いろいろな動画配信を見てきたなかで、スタッフが数十人規模で必要そうな企画や、密室空間での撮影収録など、見ていて心配になるような番組も見かけた。
「こういう時期だからみんなを楽しませたい!」という気持ちは分かる。でも無茶は禁物だ。

大声や歌声で感染が広がる、という話もある。
少なくとも、「密閉、密集、密接」の「3密」は絶対に避けてほしい。
スタッフの方々は、プロモーションプランが一気に崩れて大量の代替案を考えなければならず、ものすごい忙しい日々を過ごしていると思うけれど、それでも健康を大前提とした企画を立ててほしい。

志村けんさんが亡くなった。
アーティストでもチラホラと感染の話が出てきている。

音楽関連の仕事をしている中で、過度にポジティブ思考のスタッフなどを何人か見てきているので、ちょっと心配である。

「イベント中止」のその先へ

イベントが続々と中止になるなか、その出口戦略として、エンタメビジネスは大きく変わろうとしている。
コロナウイルスが終息する頃、新たな成功者と新たな失敗者の間で顕著な差が出てくるような気がしてならない。

それぞれの作品やアーティストが、新たな成功者になれるかどうかは、今にかかっている。
苦しいときだと思うけれど、無理のない範囲で踏ん張るんだ、エンタメ業界!
そして身動きすらできないほどの生活を強いられている作品やアーティストのために、支援をお願いします、政府の方々!

みんなで力を合わせて、コロナウイルスに立ち向かってやろうじゃないか。

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