『シスターシティーズ』をハイレゾで味わい尽くす ~早見沙織レビュー後編~

シンガーソングライターとしても高い評価を受ける声優・早見沙織さん。
アーティストデビュー5周年を迎える2020年、記念すべき第1作目としてミニアルバム『シスターシティーズ』をリリースした。

田淵智也、NARASAKI、Kenichiro Nishihara、堀込泰行、横山 克という豪華なサウンドクリエイター陣が、本気で”早見沙織サウンド”と向き合った本作。
改めてハイレゾで1曲1曲を味わい尽くしてみよう。

1.yoso
作詞:早見沙織
作曲:Kenichiro Nishihara、Michael Kaneko
編曲:Kenichiro Nishihara

軽やかなR&Bテイストの『yoso』。
あえて言葉をはっきりと発音しない、ちょっと気だるい歌い方が、春の陽だまりにちょうどいい。
早見さんがNHK FM「夜のプレイリスト」で流していたMISIA『陽のあたる場所』が思い浮かぶ。

ハイレゾで聴くと際立つのが、ベースラインへのこだわりだ。
R&Bらしいファンキーなベースラインを基調としつつ、冒頭(0:10~0:20)のみジャズ調のランニングベースを取り入れており、オシャレな遊び心が光る。

またよくよく聴いてみると、リズムもかなり実験的だ。
シンセサイザーやベースがややシャッフル気味で演奏しているのに対し、ハイハットは16分スクエアでリズムを刻み続けている。これが、オシャレながらも聴きやすいサウンドに仕上がっている秘訣だろうか。
早見さんもBメロではややシャッフル気味に歌っており、気だるい歌い方ながらも相当なリズム感だ。ジャズを習っていた早見さんにしか歌いこなせない楽曲だろう。

2.mist
作詞:早見沙織 作曲・編曲:横山 克

本作の中でも最もハイレゾで聴きたい1曲、『mist』。

ボーカルやコーラスには高音を中心に柔らかいエフェクトがかかっており、声の空気感がよく伝わってくる。
エフェクトの加減は緻密に計算されているようで、箇所によって音の残り方が異なっている。例えばサビの「ゆらゆら漂う」は左右広めにディレイがかかっており、歌声が本当にゆらゆらと漂っているようだ。是非「ひらひら」(01:21)と「ゆらゆら」(01:30)で音色を聴き比べてみてほしい。
サビ前(01:18)ではプツンとエフェクトが切れるのもかっこいい。

またサビで、まるで楽譜がないかのように自由にひらひらと鳴り響く弦楽器の音色が美しい。
弦楽器にもボーカルと同様のエフェクトがかかっているため、印象的ながらも楽曲に馴染む音色となっている。

3.ザラメ
作詞:早見沙織 作曲・編曲:NARASAKI

『ザラメ』もボーカルにエフェクトが効いているが、2曲目『mist』とは異なって短くて丸みを帯びたリバーブだ。
カントリー調の楽曲に合わせて、少女が呟くような歌い口の早見さん。特に「ちょっと言ってみただけ」(02:08)が可愛らしい。

歌詞を沿うように、すっきりとしないザラメ道みたいなコード進行が遠くつづく。
そんななか、最後の「僕の人生 あの日に変わったようね」という言葉を合図にして、後奏(03:03~)からガラッと明るいコード進行に変わる。新しいサウンドも多く加わり、人生が明るく変わったことを示唆している。

そしてハイレゾだとクリアに聴こえるベースライン。
ずっと「低い音→高い音」という順で刻んでベースラインが、同じく後奏(03:03~)のタイミング「高い音→低い音」という順に切り変わっていることに注目。
たぶんザラメ道は緩やかな登り道で、「あの日」に登りきったようだ。そんな風に聴こえる。

4.遊泳
作詞:早見沙織 作曲:堀込泰行 編曲:倉内達矢

”堀込泰行節”が唸るような『遊泳』。
冒頭から、堀込泰行さんならではのコード進行が光る。

本作の中では、最もストリーミングサービス(圧縮音源)で再生しても遜色のない楽曲だと思う。
例えばパーカッションが右からはマラカス、左からはトライアングルが鳴るように振り分けられていたりと、坂本真綾さんの『今日だけの音楽』と同様に全体的に横の広がりを意識したMIXだ。またベースラインも比較的音域が高く、圧縮音源でも聴きとりやすい。

最後は、ドラムのフィルインが入りながらフェードアウト。ライブで演奏する際は、衣装チェンジ前の1曲になるだろうか。遊び心満載のアレンジに期待が高まる。

なお『遊泳』は、そのシュールなMVでも話題になった。
本作は「Creator's MV」として5曲すべてに女性クリエイター陣によるMVが作成されたが、『遊泳』では謎の着ぐるみが登場する。
個人的には、着ぐるみの中の人と女性との間に何か悲しい過去があったのだと想像している。素顔を出しては会えないため、着ぐるみに扮しているのだ。着ぐるみの中では本当は泣いていて、だから女性は「もう大丈夫だから気にしないで!」と優しく抱きしめているのではないだろうか。

5.PLACE
作詞:早見沙織 作曲:田淵智也 編曲:大久保 薫

『遊泳』がライブの衣装チェンジ前の曲だとすれば、『PLACE』はライブの最後を飾る曲だろう。
UNISON SQUARE GARDENの田淵さんが作曲を手掛けた、軽やかながらも壮大なサウンドが特徴だ。

メロは、シャッフルのリズムとゴーストノートが印象的。
ベースラインはどこかR&B調でもあり、『yoso』につながるものを感じる。まるで『yoso』で始まって『PLACE』に戻ってくるような、5曲を通じて姉妹都市を一周したような光景が思い浮かぶ。

サビでは楽器の数が増えて、グッと広がりが出る。ギター、ベース、ピアノ、弦楽器、厚みのあるコーラス……。ハイレゾで聴くと、それぞれの音が色鮮やかに浮かび上がる。
しかしこれだけの音数を背景にして、けして埋もれることのない早見さんのボーカルは圧巻だ。優しいながらも強さを持っているのだ。ミックスなどを担当するエンジニアも「何も調整しなくていいんじゃない?」と言いたくなるであろう歌声に、改めて早見さんの圧倒的な才能を感じる。


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