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クロンのNPB完全適応には何が必要なのか?

プロ野球開幕から1か月以上が経過し、各球団/各選手の明暗がくっきり分かれ始める時期となってきました。
特に新戦力においては明暗の判定がなされやすい部分かと思いますが、広島の新戦力として最大の期待を集めたであろう、新外国人のクロンはここまで暗と判定せざるを得ない成績を残しています。

開幕前の練習試合からOP戦にかけては、29打席無安打が続くなど日本野球への対応に苦慮していた様子でしたが、故障離脱こそあったもののシーズンに入ってからは打率自体は上がってきており、多少は持ち直しつつあります。
しかし完全適応と言えるまでの活躍とはいっておらず、期待された鈴木誠也とのツインバズーカ結成は現状まだまだ先と言えそうです。

そこでクロンの現状の適応具合と、過去の外国人選手と比較して完全適応には何が足りないかについて考察していきたいと思います。

※成績は全て5/6時点でのもの

1.現時点での適応具合を探る

まずクロンの現状のNPBへの適応具合についてですが、それを探る手法としてAAAにて自身キャリアハイの成績を収め、MLBでも一定の打席数を確保した2019年の成績を、現時点でのNPBの成績と比較することで探っていこうと思います。

1-1.基本成績

まずは打率やOPS、K%といった基本的な打撃成績から、どのような差が生じているのかについて確認していきましょう。

クロン

パッと見で見ても、各指標はMLBで残した成績に近くなっていることが分かるかと思います。
特にK%から見える三振の多さと、BB%から見える四球の少なさは非常に酷似していますし、少し異なるのはNPBの方が打率が若干高く、ISOから分かる長打力が低く出ている点です。
OPSやwRC+を見ると、現時点ではAAAどころかMLBで残した成績にも及んでおらず、MLB時代と比較しても本領発揮とはいっていない状況が分かるかと思います。

よくNPBをMLB基準に組み込む際に「4A」と称されることがありますが、クロンのここまでの成績を見るとそれも頷けるのではないでしょうか。

1-2.球種別成績

続いて球種別成績を確認していきますが、ここではAAA時代の成績が取得出来ないため、MLB時代のものとのみ比較していきます。

クロン2

ここでMLBとNPBの間で大きく異なるのは、各球種の投球割合になります。
MLBでは速球系(フォーシーム、ツーシーム)が46.3%クロンに対して投じられ、wFBが3.9とクロン自身もそれをしっかりと打ち返すことで成績を稼いでいる様子が窺えます。
一方のNPBではMLB時代のこの傾向を洗い出されたのか、速球系の投球割合が40.8%とMLBとは異なる低めな傾向が示されています。
加えてMLB時代に苦手としていたスライダーを多く投じられており、wSLは-1.5と変わらず苦手としている様子ですし、スライダー同様に投球割合の増えているチェンジアップやフォーク系といった、いわゆる落ちる系のボールへの対処にも苦労している様子です。

NPBでは得意とする速球系の割合が低い攻め方となっていますが、まだその配球に対して戸惑いもあるのか完全には適応出来ていないことが以上より分かります。

1-3.コース別成績

クロン8

MLBでは距離の取れないインコースのボールやアウトローは苦手でしたが、その一方で腕の伸びる真ん中から外のボールに対しては非常に強さを発揮していました。
NPBでは今のところ低めのコースについては打率.040(25-1)と全体的にお手上げ状態なものの、距離が取りづらいであろうインハイのボールは意外と捌けていますし、真ん中から高めは打率.364(44-16)としっかり打ち返せています
この真ん中から高めに対する好成績を見ると、追い込まれるまではしっかりゾーンを上げて、低めを捨てる意識が必要なのかもしれません。

1-4.打球傾向/打席内アプローチ

クロン3

フライ性の打球が多い傾向は変わっておらず、どちらかというと引っ張り傾向なのも変わりません。
好成績を収めたAAA時代はよりセンター方向に打球を返せているため、NPBでも引っ張りにかかりすぎずセンターから右に打ち返す意識が必要なのかもしれません。

打席内アプローチも大きな変化はありません。
ストライクだろうがボールだろうが積極的にスイングを仕掛け、長距離砲らしくコンタクト率は低く空振りの多い結果となっています。

まとめ

・MLB時代から打撃性質に大きな変化はない
・唯一の大きな変化は攻められ方にあり、NPBでは得意の速球系の投球割合が低く、スライダー系や落ちる系の球種の投球割合が非常に高くなっている

2.完全適応に必要な要素を過去の外国人選手から探る

以上より、現状ではMLB時代と打撃性質に大きな変化はありませんが、得意の速球系が投じられず、苦手なスライダーや落ちる系の球種が多めのNPBの配球に苦労している様子が窺い知れるかと思います。
それでは、クロンがこの現状に対してどうアジャストしていけば良いのでしょうか?

過去NPB各球団に在籍した外国人選手の中で、クロンに似たアプローチの打者や似た攻められ方をされた打者を引き合いに出すことで、何が必要かを明確にしていきたいと思います。

2-1.クロンに似たアプローチの打者

まずクロンに似たアプローチの打者の選別についてですが、
・積極的にスイングを仕掛けながら(スイング率50%以上)もコンタクト率は低い(コンタクト率70%以下)
というクロンと似たスイング率とコンタクト率の打者という観点から選出していきます。

クロン4

2014年以降で該当するのが上記7選手となりました。
よくクロンと引き合いに出されるエルドレッドですが、クロンと似た打席内アプローチだったようです。

この中だとエルドレッド、ブランコ、マーティン、スパンジェンバーグはOPS.800を超える打撃成績を収めており、打撃面では成功の部類に入ると思います。
一方のパラデス、A・ロドリゲス、ビヤヌエバといった面々は決して成功とは言えない打撃成績に終わっています。
この両者にどんな壁があったのかについて、データから更に深堀りしていきましょう。

ここでは球種別のPitchValueを用いて、各球種を速球系、曲がる系、落ちる系の3種にカテゴライズし、各カテゴリーに対してどれほどの対応力を見せていたのかという点を確認していこうと思います。

クロン9

A・ロドリゲスを除く打者は速球系のPitchValueはプラスと、基本的にはどの打者も速球系に対しては強みを発揮しているようです。
曲がる系、落ちる系はそれぞれ強み弱みが分かれていますが、どちらも苦手としていたのはパラデスのみで、基本的にはどちらかのカテゴリーに対しては一定の対応力を見せていたことが分かります。

ここで本題である成功した打者と成功できなかった打者との差異について考えてみると、成功した打者は2つ以上の球種カテゴリーで強みを発揮しているのに対し、成功できなかった打者は1つの球種カテゴリーでしか強みを発揮できていません
特に成功した打者はいずれも速球系に対して高い対応力を見せているため、速球系への高い対応力をベースとして、曲がる系、落ちる系いずれかの球種カテゴリーへの対応力を見せられるかが成功と失敗を分けてしまうと考えられます。

これをクロンに当てはめると、現状は速球系がプラスマイナスゼロの値で曲がる系、落ちる系はともにマイナスと、成功しなかった部類の打者に当てはまってしまっています
ですので、唯一のプラスの成績であるカーブ対応を突破口にまずは変化球対応を底上げする必要があるでしょうし、速球系で大きくプラスを作れていないことを考えると、ここの対応力もMLB時代並みに高めていく必要があると考えられます。

まとめ

・クロンと似たアプローチの打者は、速球系、曲がる系、落ちる系の3つのカテゴリーに対して、速球系に大きな強みを見せながら、曲がる系、落ちる系のどちらかに一定以上の対応力を見せられることが成功する特徴
・現状のクロンは得意の速球系を捉えきれず、変化球にも水準以下の対応力と成功する打者の特徴は出ていない

2-2.クロンに似た攻められ方をされた打者

クロンの攻められ方というと、上述のように速球系が極端に少なく、スライダーが多いという攻められ方ですが、同様の攻められ方をされた打者をピックアップして、過去の打者はどのような対応を見せていたのかについて確認していこうと思います。

速球系が極端に少ない攻められ方ですが、
・速球系(ストレート/ツーシーム/シュート)の投球割合が45%以下の少なさの打者
スライダー系が多い攻められ方については、
・スライダーの投球割合が25%以上の多さの打者
と定義し、ここに当てはまる外国人打者をピックアップしていきます。

クロン5

2014年以降で該当するのはこちらも7選手となりました。

この中だとレアード、メヒア、ゴメスは打撃タイトルの獲得経験があり、バティスタやジョーンズもシーズン25本塁打以上を放った長距離砲で、成功の部類に入る選手と言えるでしょう。
一方のロサリオ、ミランダはOPSがそれぞれ.658、.701と期待に応えられたとは言い難い成績に終わってしまっています。
ここでも、彼らの間にどのような違いがあって成績に差が生じたのかについて考えていこうと思います。

手法としては再び球種別のPitchValueを確認することで、この攻められ方によって各球種に対する反応がどのようなものであったのかをチェックしていきます。

クロン10

いずれの打者も速球系の対応はプラスと、速球系を投じられることが少ない中でも高い対応力は見せていたようです。
ただ変化球対応になると話が変わってきて、特に多く投じられたスライダーを含む曲がる系の値がマイナスの打者が多い様子が窺い知れます。
しかし曲がる系を苦手としている打者はその他の球種でしっかり強みを作れており、例えばレアードは落ちる系の球種に対して高い対応力を見せていますし、バティスタはここには表れていませんがカットボールやチェンジアップに対しては高い対応力を見せています。
曲がる系は苦手とするのは仕方ないながら、その他投球割合が低い球種の中で確率高く仕留められる球種がないと活躍は難しいのでしょう。

総合的な傾向となると、アプローチ面で取り上げた打者と同様に2つ以上ののカテゴリーで強みを持つ打者がNPBで成功している傾向は変わりません。
ここにクロンを当てはめてみると、既に取り上げたように当然成功した打者の特徴には当てはまらない結果となります。
この手の攻められ方をするタイプの打者は、速球系への高い対応力を軸としながら、この球種なら確実に仕留められるというような「一芸」が必要なのでしょう。

まとめ

・クロンに似た攻められ方をされた打者は、投球割合が低い中でも速球系に強い一方で投球割合の高い曲がる系には弱いが、成功する打者は確実に仕留められる球種を持っている

3.クロンのNPBへの適応に必要なこと

3-1.適応に必要なこと

以上より、クロンについては得意なはずの速球への対応力がまだまだ足りず、変化球も得意なカテゴリーがない状態で、完全に成功しない外国人打者の例に当てはまってしまっていることが分かるかと思います。

ということから適応に何は必要かについては、何度も触れていますが速球系の投球割合が低くなるのは仕方ないながら、先人のようにその中でも速球を確実に仕留めつつ、その他の緩いボールでも対応できる球種を見つけるということになってくるでしょう。

4/25に巨人・今村信貴の118㎞のスライダーを左中間スタンドに運び、4/30に阪神・秋山拓巳の112㎞のナックルカーブをレフトスタンドに運ぶなど、少しずつながら課題の変化球対応には改善の兆しが見え始めています。
ここで捉えた緩い変化球については、練習試合からOP戦にかけて苦労していたところであるので、徐々にではありますが対応力が上がってきているのは朗報と言えるでしょう。

また速球系の対応について、フォーシーム系とツーシーム/シュート系に分解すると、フォーシーム系のPitchValueは0.8なのに対し、ツーシーム/シュート系については-0.8とフォーシーム対応の良さを相殺してしまっています。
特に右投手のインコースを抉るボールに詰まるケースが非常に多いため、追い込まれるまでは真ん中からアウトコースに目付をするといった工夫が必要かもしれません。
苦手なツーシーム/シュート系は捨てて、フォーシーム系をしっかり捉えることに注力すれば、自然と速球対応の数値も向上していくはずです。

まとめ

・成功する打者の土俵に乗るためにも、徐々に向上している緩いボールへの対応を口火にしていきたい
・速球系ではツーシーム/シュート系に詰まらされるケースが多いため、アウトコース中心に目付をしながらフォーシームをしっかり捉えていく必要がある

3-2.猶予はどれほど残されているか

最後に、シーズンに入って100打席消化が近付いている中、活躍までの猶予はどれほど残されているのかについて、少し考えていきたいと思います。

これについては上記記事が非常に参考となりますが、全体的な傾向として200打席~250打席が新外国人打者が実力を発揮するために与えられる猶予とされています。
とすると、当然使い続ければ必ず浮上してくるという保証はありませんが、クロンの実力を測る上で必要とされる打席数には、まだ満ちていないことが分かります。

また、似たような攻められ方をしているレアードも来日1年目は非常にスロースタートで、6月終了時点で273打席に立ちながら12本塁打/OPS.630と苦しい成績ながら、7月以降爆発しトータルでは34本塁打/OPS.789まで成績を押し上げています。
そう考えると、クロンはまだ100打席にも立っておらず、ここからの上昇に少なからず期待を抱いてもよいのではないでしょうか。

今季の広島においては、長距離打者が鈴木誠也とこのクロンの2名のみで、クロンの成否がチームの浮沈を握っていると言っても過言ではない状況です。
ですので、今季あくまで勝利を追求するのであれば、クロンと心中するくらいの覚悟を持って起用する必要があるでしょうし、クロンもそれに応えるような活躍を期待したいところです。

まとめ

・一般的に外国人打者の実力発揮までの猶予である200~250打席には、100打席にも満ちていないクロンはまだ猶予がある状態
・クロンと似た攻められ方で来日当初は苦しんだレアードは、300打席近いところから爆発したため、同様の活躍をクロンにも期待したい

データ参照


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