薮田和樹

薮田和樹の復活はあるのか?

薮田和樹の名前を野球ファンの間で一躍有名にしたのは、薮田自身が指名された2014年ドラフトではないでしょうか。

亜細亜大学時代は、故障に苦しみ、リーグ戦通算登板数は僅か2試合と実績と呼べるようなものが皆無な中、広島がドラフト2位指名を行ったことで、大きな注目を集めることとなりました。

色眼鏡で見られるようなキャリアのスタートとなった薮田ですが、当時の佐々岡真司二軍投手コーチの元、順調に力を付け、ルーキーイヤーの2015年には早速プロ入り初勝利を挙げ、翌2016年にはシーズン終盤に先発として3連勝し、翌年以降の飛躍に期待を持たせます。

そして迎えた2017年、シーズン当初はリリーフだったものの、交流戦前から先発に転向すると、150㎞を超えるストレートとカットボール・亜大ツーシームを武器とし、瞬く間に15勝を挙げ、広島の次期エース候補に名乗りを上げました。

ここまでは、順風満帆だった薮田のキャリアですが、翌2018年シーズンは、制球難に苦しみ、僅か2勝でQSすら一度も達成できずシーズンを終えることとなり、一気に暗転することとなってしまいます。

そして、迎えた2019年シーズンも不調は続き、ここまでほとんど一軍での出番はありませんでしたが、9/1に久々の一軍の先発マウンドに立つと、6回3失点と負け投手ながらまずまずの内容の投球を披露し、復活へ向けて希望を抱かせました。

そんな薮田の9/1の投球を詳細に分析することで、本当に復活への一歩を踏み出したのかについて検証していきます。

1.昨季の不振について

9/1の投球を分析する前に、なぜ昨季大不振に陥ってしまったのかを改めて振り返りたいと思います。

昨年、「薮田がおかしくなったのなんで?」とのnoteにて簡単に分析しましたが、大不振の要因はストライクゾーンにボールが行かなくなり、四球が増加したことではなく、球威の劣化にあります。

確かに与四球率を示すBB%は2017年から2018年にかけて9.5%→23.9%と大幅に悪化していますが、ストライクゾーンにボールを投じる率(Zone%)は、43.1%→43.3%と横ばいです。

ですので、ストライクゾーンにボールが行かなくなったことが要因ではないことが分かります。

ではなぜBB%が悪化したのかを考えると、ボールゾーンのボールを振らせる率(O-Swing%)が31.9%→18.6%と大幅に低下しており、ボール球を振らせることでカウントを稼げなくなったことがBB%に寄与していることが推測できるでしょう。

そして、なぜボール球を振らせることが出来なくなったのかを考えると、全体的に平均球速が3㎞以上低下しており、球威が低下することで打者がよりボールを見極めやすくなるなど、対応しやすくなったと考えれば合点がいくように感じます。

このような要因で、昨季薮田は大不振に陥ってしまいました。

2.9/1の投球分析

上記要因を踏まえて、9/1の投球はQSを達成しながらも、昨季レベルの投球であったのか、もしくは一昨季レベルの投球であったのか、将又全く別人の投球となっているのかを詳細に分析していきます。

2-1.相変わらずの制球力

まず、BB%やZone%を確認することで、課題とされている制球力が現状どれほどのレベルなのかをチェックしていきます。

各年と9/1登板時のBB%とZone%をそれぞれ確認してみると、傾向としては昨季と同様にストライクゾーンにボールは行っているが、ボールゾーンのボールを振ってもらえないために、四球が増えてしまっていることが分かります。

ある程度の四球は許容すべきですが、当然限度がありますし、今回の登板は6回3失点でQS達成と許容範囲の結果でしたが、今後その結果が昨年レベルに悪化してしまう危険性すら孕んでいる内容と言っても良いのではないでしょうか。

2-2.威力十分なカットボール

続いて、昨季の不振の主要因となった球速がどうであったのかを、確認していきます。

一昨季、昨季、そして9/1の登板の各球種ごとの平均球速を比較して見ると、全体的に一昨季ほどではありませんが、昨季以上の平均球速を叩き出しており、球速は復調傾向にあることが窺えます。

球種割合には大きな変化が生じており、ストレートの割合が47.5%から34.0%まで減少し、代わりにカットボールが29.5%から38.0%まで増加と、カットボールへの依存が強まっていることが分かります。

Pitch Valueを見ても不振であった昨季ですら3.4を記録し、効果的であったボールですし、コマンドも安定していることから、困ったら自然と使いたくなるボールなのでしょう。

実際に、9/1登板時のカットボールの投球コースを確認してみると、右打者にはアウトコース、左打者にも外から曲げるバックドア的な使用法でアウトコースへ、きっちりコマンドされていることが分かります。

空振り率を見ても、一昨季から14.2%→14.8%→16.2%と安定した数値をマークしており、質の高さが窺い知れます。

2-3.壊滅的な対左打者

その一方で、ストレートの空振り率とツーシーム(ここではスプリット表記)の空振り率が昨季を境に急落しており、9/1の登板でもその傾向が続いていることも分かります。

特にツーシームは、9/1の登板では一度も空振りを奪うことが出来ず、しまいには甘く入ったボールをソトにスタンドに運ばれるなど、ほとんど機能していないボールとなっていました。

左打者対策としては非常に有効であるツーシームがこのような状況なためか、左打者への顕著な苦手意識を持っていることが数値にも表れています。

対右打者、対左打者、それぞれのK%・BB%をまとめたものを確認すると、左打者に対しては昨季からBB%がK%を大幅に上回る事態となっています。

9/1の登板でもそうでしたが、左打者に対しては得意のカットボールを投じる割合が少なく(対右打者:59.0%、対左打者:21.4%)、質が良いとは言えないストレートとツーシームが中心となるため、このように苦しい投球となってしまうのでしょう。

以上にて、一昨季、昨季、9/1の登板をそれぞれ比較する形で分析していきましたが、QSこそ達成したものの昨季からの課題は継続して残ったままであることが分かります。

3.まとめ

・ボールゾーンのボールを振ってもらえず、四球が増えている
・カットボールは威力十分で、他の球種がイマイチなためか昨季から依存が強まっている
・ツーシームが全く機能していないため、左打者に対して極端な苦手意識が見られる

昨季一度も投げ切れなかった6回を投げ切ることに成功し、確かな進歩を感じさせましたが、投球の詳細を上記のように掘ってみると、本質的には昨季と大きく変わらないことが分かりました。

15勝を挙げた一昨季の状態まで戻すには、復調傾向にあるとはいえストレートの球威を戻すことと、ツーシームの精度を上げるもしくは左打者の膝元へカットボールを決められるようにすることはマストでしょう。

もし薮田が復活すれば、直近で苦境の続く広島投手陣にとって、ポストシーズンに向けての明るい材料になるでしょうし、来季以降にも貴重な戦力として計算できますから、ここからの登板で何かきっかけをつかんで欲しいものです。

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