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小園海斗の将来像を探る

2018年ドラフトでは、甲子園春夏連覇を果たした大阪桐蔭から藤原恭大・根尾昂、報徳学園から小園海斗、天理から太田諒と、実に4名の高卒野手がドラフト1位で指名されることとなりました。

その中でも、最も早く一軍への定着を果たしたのが、4球団競合の末に広島に入団した小園でした。

昨季まで遊撃には不動のレギュラーであった田中広輔が君臨していましたが、今季は故障の影響もあり打率が1割台に低迷するといった予想外の事態が発生。かつ代替要員も存在しなかったことから、小園が大抜擢される形となり、後半戦は56試合中48試合でスタメンを務めるなど、レギュラーのような扱いとなっています。

このような扱いを受けるのも、トッププロスペクトが故ですが、成績自体も.211/.240/.319/.559というスラッシュラインを残し、既に4本塁打を放つなど、高卒ルーキーの遊撃手の一軍成績としては、出色のものを見せつけています。

そんな紛いもないトッププロスペクトである小園は、今後どのような成長曲線を描き、どのような選手へと成長していくのか、将来像を現在の成績及び過去の事例から可能な限り迫っていきたいと思います。

※成績は9/22時点でのもの

1.現時点での選手タイプと課題

1-1.打撃

【現時点】

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上述のように既に4本塁打と一定の長打力を見せ、かつ一軍の舞台で一定の基準となる打率.200を超えるなど、高卒ルーキーにしては高い適応力を見せています。

もう少し詳細に打者としてのタイプを探ると、BB%が3.1%と極端に低く、Swing%は62.8%と積極的にバットを出していくタイプで、見境なくボールにバットを出していくいわゆるフリースインガーと呼ばれるタイプであることが分かります。

とにかく初球から積極的にバットを出していっていますし、このようなスタイルはチームに勢いをつけるトップバッター向きではないかと個人的には感じています。

さすがにもう少し選球眼を磨く必要はあるでしょうが‥

小園海斗コース別打率

コース別の打撃成績を見ると、ベルトから上のゾーンには強く、ベルトハイの6ゾーン中4ゾーンにて打率.300を超えており、打者のタイプとしてはハイボールヒッターであることが窺えます。

ハイボールヒッターとのことから、今後トップバッターに定着すれば、立ち上がりの先発投手の高めに浮いたストレートを捕まえて先頭打者本塁打なんてシーンも多く見られるかもしれません。

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最後に球種別のPitchValueを確認すると、何か特別強い球種があるわけではなく、とりわけカットボール系とスプリット系に弱いことが分かり、現代の高速変化球への対応にはまだまだ課題を残すといったところでしょうか。

以上をまとめると、積極的にバットを出していくフリースインガーで、ハイボールヒッターという特徴を持ち、一定の長打力を持つことから、現時点ではチームを鼓舞するトップバッターの素質を持っていると言えましょう。

【課題】

三振が多く四球が少ない一方で、一定の長打力を見せるような現状の打撃スタイルとなっている要因としては、前捌きが強いことが大きいのではないでしょうか。

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この画像は7/28のヤクルト戦で2号本塁打を打った時のものとOP戦のヤクルト戦で本塁打を放った時のものですが、ボールを前で捉えていることがよく分かると思います。

これにより、速いストレートや緩い変化球への対応力は上がりますが、現状では前捌きが強すぎるために、現代のピッチトンネルにボールを通していくのが主流の投球スタイルには合わないでしょう。

ですので、スイングスピードを上げて、もう少し身体の中にボールを入れて捌けるようになれば、ボールを長く見ることができるようになり、率も上がりますし三振も減るのではないでしょうか。

また、打球を力強く引っ張り切れていない点も課題でしょう。

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引っ張りの打球は強い打球が飛ぶ傾向が強いため、打率も高く出がちですが、小園の引っ張り時の成績は、通常時の打率よりは高いものの.241にとどまり、Hard%も29.1%と低く(リーグ平均は41.8%)力強く引っ張り切れていないことが分かります。

中でもGB%が非常に高くなっていることから、弱いセカンドゴロやファーストゴロが増えていることが窺えますし、能動的ではなく受動的に引っ張らされている状態なのでしょう。

これを改善するには、スイングスピードをもっと上げることや、よりインサイドアウトの軌道のスイング軌道に近づけることでしょうか。

兎にも角にも、筋力トレーニング等を精力的に行い、スイングスピードを上げるなどして根本的な出力を上げることが今後の大きな課題となってくるでしょう。

1-2.守備

【現時点】

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守備指標を並べてみると、UZRはマイナスの数値で失策数も50試合で9つを数え、現時点の数値上では決して守備面は通用しているとは言えないでしょう。

しかし、近年高卒ルーキーながら一軍で遊撃手を務めた、平沢大河や西巻賢二のUZRを確認すると、平沢は-20.1(UZR/1200)、西巻は-77.1(UZR/1200)に対し、小園は-8.7(UZR/1200)と相対的には優れた数値ですし、平沢や西巻より3倍のイニング数守備についてこの数値ですから、高卒ルーキーとしては素晴らしい数値と言えましょう。

高卒ルーキーという面では通用している遊撃守備ですが、強肩を生かした守備で併殺奪取力は高さを見せている一方、思いのほかレンジの数値は伸びてきていない様子です。

しかし、プロの一軍レベルの打球とスピードに慣れるのにはある程度時間がかかるでしょうし、50m5.8秒の俊足と遠投110mの強肩という身体能力の高さに加えて高校時に芝生にかかるような深いポジションニングを取っていた意識の高さを見るに、慣れれば一気に伸びる要素はあるのではないでしょうか。

【課題】

課題としては、やはり9失策を重ねていることから分かる通り、守備の堅実性の部分でしょうか。

ただ、一度目の昇格時に3試合で4失策を喫した後は、50試合で5失策と安定した守備を見せているため、シーズン中に堅実性は増しており、今後に期待が持てます。

更に課題を挙げるとすると、上述の通りプロの打球やスピードに慣れることでしょう。

ただ、これも上述の通りですが、根本的な能力や意識の高さは問題ないので、後は本当に文字通り慣れるだけでしょうし、そうすることで自然と指標の数値も改善されることでしょう。

将来的には、俊足・強肩を生かしたレンジの広さと併殺完成力の高さをウリにしていくような選手となっていくのではないでしょうか。

1-3.走塁

【現時点】

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走塁面では、50m走5秒台の俊足を持っているため、その俊足を生かしたプレースタイルも期待されていると思いますが、一軍ではここまで1盗塁企画で1盗塁とそこまで足を生かしたプレーは見られていません。

二軍では8盗塁10盗塁死を記録していることから、盗塁技術はまだまだ勉強中と言ったところでしょう。

しかし、走塁指標の一つで盗塁以外の走塁を得点化した指標であるUBRを見ると1.8を記録しており、走塁においては広島伝統の先の塁を奪いにいくことが既に出来ています

【課題】

来季以降は、盗塁面では企画を増やしながら一軍レベルの駆け引きを覚えていき、走塁面ではより高精度で一つ先の塁を積極的に陥れられるような走塁を身につけていくことが課題でしょうか。

こと盗塁においては、ここ数年のチーム全体での成功率の低さから、今の広島に真の技術を持った選手やそれを教えられるコーチがいると思えないため、闇雲に数をこなすだけで技術が向上するか不安ではありますが…

総合的に見ると、盗塁技術はまだまだ未熟だが、走塁能力は高く先の塁を奪う走塁が出来るため、伝統的な広島の野球にピッタリ合う存在と言えましょう。

2.過去の高卒ルーキー遊撃手

ここからは趣向を変えて、過去の高卒ルーキーながら一軍で遊撃手を任された選手について、その後どのような成長過程を描いたのかを確認することで、小園の将来像を解き明かすことに繋げていきたいと思います。

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上記はドラフト制導入以降、ルーキー年に遊撃手として一軍で10試合以上出場した選手の一覧です。

人数的には当然ながら非常に少なく、ドラフト制導入当初の1965年~1966年を除けば、小園含め僅か13名と高卒即一軍で遊撃手を務めるのは狭き門であることが分かります。

この中でも、小園と同様に100打席以上を経験した選手は藤田平、三村敏之、掛布雅之、湯上谷宏、立浪和義の5名となります。

この5名中、湯上谷を除く4名は1000本以上の安打を放ち、ベストナインや首位打者といったタイトルを獲得しているため、大成するパターンとしては、小園に多く打席を積ませている現状はあながち間違いではないのでしょう。

ということで、ここからは遊撃手として出場を重ねながら100打席以上に立った、5名の選手の成績推移を詳細に分析することで、より解像度の高い将来像を導き出していきます。

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対象5選手について、ルーキー年とその後3年の成績推移を追っていくと、いずれの選手も高卒4年目には遊撃手とは限りませんが、100試合以上に出場し一軍でレギュラーポジションを確立していることが分かります。

ですので、小園もこのままレギュラーに定着していく可能性は非常に高いと言えましょう。

また単純に打撃成績を見ると、現状の小園は三振が多く四球は少ないものの、ISOは.108とこの5選手の中で最も高い数値を記録しており、パワーツールのポテンシャルを感じさせる成績となっています。

これを他の5選手と比較すると、右投左打ということを考慮して、四球は少ないものの二桁本塁打を放つ長打力を見せる藤田平の成績が最も近い状態にあると言えるのではないでしょうか。

藤田は、その後早打ちの中距離打者として活躍しており、小園の現状の成績から感じさせるポテンシャルと何となく合致します。

守備面では、数値として比較できるのが失策数や守備率となってしまいますが、多くの失策数を数えてポカの多い守備であった藤田の守備成績も、現状の小園とマッチする部分があり、ここでも何となく合致しています。

といった点から、過去の高卒ルーキー時から一軍で遊撃手として出場を続けた選手では、藤田平が小園と最もリンクするような選手と言えるのではないでしょうか。

3.将来像とは?

178cm/84㎏と均衡の取れた体格で、高卒ルーキーの多くから感じる線の細さはまるでなく、既に試合に出続けられるだけの体力は備えているように見えます。

ですので、稼働率が高く計算しやすい選手で、坂本勇人のように高卒2年目から一軍でフル稼働させても問題ないようでしょう。

あとは、試合に出続けながらも出力を上げるためのトレーニングを継続できれば、自然と素晴らしい遊撃手が誕生するのではないでしょうか。

最後に将来像をそれぞれの分野ごとに確認すると、打撃面ではチームOBの野村謙二郎であり藤田平といった、積極的に打って出て安打を量産する安打製造機のリードオフマン、かつ年間10~20本塁打を見込めるようなパンチ力のあるタイプでしょう。

守備面では、俊足・強肩を生かした守備でレンジの広さや高い併殺完成力を保ちつつも堅実性も兼ね備えるような、ハイレベルな守備力を持つ遊撃手となる可能性を持ちます。

走塁面では、盗塁数は多いが失敗が多く盗塁技術は高くないものの、先の塁を奪う走塁を得意とする、赤ヘル野球の申し子のような存在と成り得るのではないでしょうか。

全てが上手く行った場合ですが、上述の要素を兼ね備えた非常にハイレベルな遊撃手が生まれることとなるでしょう。

広島は意外にも近年遊撃手を務めてきた選手はいずれも高卒であり、小園と同様に一年目から一軍で経験を積んだ東出輝裕の遊撃手育成を失敗した過去があるため、一抹の不安は残りますが、東出より上の均衡のとれた体格やパフォーマンスを見ると、恐らく問題なく遊撃手として定着してくれることが高確率で期待できます。

あとは、小園に批判の矢が飛ばないように、周囲の選手がしっかり成績を残し盾となることで、より小園の成長しやすい環境が生まれることに期待したいと思います。

※データ参照:1.02-Essence of Baseball(https://1point02.jp/op/index.aspx)
       データで楽しむプロ野球(https://baseballdata.jp/)

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