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広島の内野守備力の低下について

4連覇も期待されて始まった2019年シーズンの広島ですが、投打バランスがまるで噛み合わず最下位に低迷するなど、ここまで思いもよらぬ苦戦を強いられています。

低迷の要因としては、2年連続MVP獲得の丸佳浩の移籍に伴う打線の火力の低下、精神的支柱であった新井貴浩の引退によるチームリーダーの不在、大瀬良大地・床田寛樹以外頼りない先発投手陣、勤続疲労の見え隠れするリリーフ陣と様々挙げられると思います。

そんな中で、上記要因と同じくらい大きな要因として挙げられるのが、内野の守備力の低下ではないでしょうか。

ここまでチームトータルの失策数は、両リーグダントツトップの18を数え、4/10の1イニング12失点時に内野手の3失策が失点に直結したように、失策が致命的な失点へと結びついているケースも散見されます。

2018年まで6年連続ゴールデングラブ賞を獲得し、守備の名手として知られる菊池涼介を中心に、堅い内野守備を誇ってきた広島に何が起きているのかについて分析していこうと思います。

1.UZR推移から紐解く

広島の内野守備力の変化点を探るために、守備力を表す指標であるUZRの数値を用いて紐解いていきます。

2014年から2019年(4/12終了時データまで)までの広島の内野手のUZRをまとめたものが表①となります。

2019年は僅か13試合の消化にも関わらず、内野手トータルで-8.2を記録しリーグ内でも最下位に低迷するなど、非常に低調な出足となっています。

それとともに、年度別推移を見ていくと、2014年~2017年までは常にプラスの値を叩き出し、かつリーグ内での相対的な順位も高かったことが分かります。しかし、2018年にはその値は大きくマイナスへと振れ、リーグ内でも下位の部類まで落ち込んでいます。

今季に入り、失点や勝敗に直結するようなミスが相次いでいるために守備力の低下がクローズアップされることが多いですが、実情としては昨年から既にその兆候が現れ始めていたことが分かります。

ポジション別に見ると、「タナキク」コンビが務める二塁手と遊撃手に関しては、毎年大きくマイナスを作ることなく安定した数値を示していますが、一塁手と三塁手については落ち込みが大きくなっています。

一塁手については、2017年までは新井・エルドレッドの両名が基本的には守備機会を分け合うような形(チーム総計1290.2イニング中1011イニングは両名)を取っており、守備範囲は広くないものの的の大きさと安定したハンドリングでチームの内野陣を引き締める役割を担っていました。

それが、昨年両者ともに出場機会を大きく減らし、その代わりに松山竜平とバティスタが一塁手としての出場機会を増やします。(松山はチームトップの430.2イニング、バティスタはチーム2位の291.2イニング出場)

松山は、2013年に一塁手として1試合3失策を記録した経験があることからも分かる通り、お世辞にも一塁手としての守備能力が高いとは言えず、実際のUZRの数値も-6.0と両リーグ最下位レベルの数値です。

一方のバティスタは、初年度に見せた左翼守備のお粗末さとは打って変わり、一塁手としては水準レベルの守備を見せ、UZRも0.5を記録しています。

2017年→2018年で、上述のような新井・エルドレッド体制→松山・バティスタ体制へと移行したわけですが、メインは守備能力の高くなく的の大きさやハンドリングもイマイチな松山が担うことが、大きな数値の低迷に繋がっているのは間違いないでしょう。

それに加えて、松山が一塁守備につくことで、他の内野陣の送球面にも悪影響を与える可能性も考えられるため、数値では表せない心理面でも影響はあると思われます。

三塁手については、2018年の数値の落ち込みは、前年にUZR+9.7を記録した安部友裕の故障や不調により、西川龍馬が主に三塁手のポジションについていたことが要因でしょう。(西川は2018年三塁手としてUZR-11.1を記録)

しかし、今季は安部が主に三塁手を務めているにも関わらず数値は低迷しています。2017年を頂点に、腰痛の影響もあるのか守備範囲は狭くなり、確実性も欠く場面が目立っています。

現状、守備面以外にも打撃面でも、守備面のマイナスを取り返すほどの打撃は見せられておらず、かつ代替可能な存在もいないため、三塁手は完全に穴となってしまっています。

以上より、一塁手や三塁手といったコーナープレイヤーの守備に明確な劣化が起きており、とりわけ一塁手の守備の劣化は内野陣に影を落としている可能性があることが分かります。

2.投手への影響

上述のように、内野の守備力の低下が見受けられる中で、昨年以来チームの総失点数も増えていることから、守備力の低下が投手陣へどのくらい影響を与えているのかについて考察していきます。

そもそも広島投手陣の特徴についてですが、天然芝でゴロの球足が遅くなりがちな本拠地球場の特性を考慮し、以前からおそらく意図的にGBPを集めており、2014年から毎年チーム単位で見たGB%は両リーグ3位以内にはランクインしています。

この高いGB%を誇る投手陣に、高い守備能力を持つ内野陣を組み合わせることで、他球団に比べ長打のリスクを減らしつつもゴロアウトを取る確率を高めてきました。

そのような傾向は今季に入っても継続しており、GB%は両リーグでもダントツの55%をここまで記録しています。

しかし、上述のように内野守備は一塁手・三塁手を中心に乱れが生じており、それがゴロ処理能力にも影響を及ぼし、失点増にも影響しているのではないかとの推測が働くのは当然でしょう。

実際にその影響を確認するため、打球性質がゴロだった際に守備側はどれだけその打球を処理できているのかという観点から確認していきます。

2014年~2019年の打球性質がゴロだった際のDER(グラウンドに飛んできた打球の内アウトになった割合)とHard%(強い打球を打たれた割合)についてまとめたものが表②となります。

UZRで見るとプラスからマイナスに転じた2017年→2018年では、DERには大きく変化はなく、Hard%も22.3%→21.3%とほぼ変わらないことから、ゴロ処理能力は前年とも相違ないことが分かります。

コーナーの守備力は落ちたものの、ゴロを処理する機会の多い二遊間の守備力は前年以上のものがあったために、トータルのゴロ処理能力はキープできていたのでしょうか。

しかし、2018年→2019年という点から見ると、DERは実に.100以上の落ち込みを見せており、失策増や二遊間の守備力もイマイチ発揮されていないことによるゴロ処理能力の低下から、今季ここまでに関しては内野守備で投手陣の足を引っ張っていると考えても致し方ないでしょう。

ただ、Hard%が21.3%→31.3%と10%悪化しており、投手側も全体的な球威の劣化や、打者にきっちり強い打球を飛ばされている面も否定できません。

今季ここまでは、GB%が高いにもかかわらず、投手側は強い打球を飛ばされ、かつ野手側は守備能力の劣化が見られることの両面から、ゴロ処理能力が低下し、今季の失点増の遠因となってしまっているということでしょう。

3.まとめ

まだまだシーズンは始まったばかりで、DERやUZRといった数値で議論できるほどのサンプル数も集まっておらず、一時的に出ている傾向とも取れるでしょうが、昨年から内野守備の劣化の傾向が出ていることは確かであり、また出場している面子も基本的に変わらないことから、今季も同様の傾向が更に進行した形で表出すると考えられます。

内野の守備力を高めるために現状の駒で行える施策としては、一塁手に松山を起用するのを止め、田中や菊池の疲労を考慮し、時には曽根も起用しつつといった具合でしょうか。

いずれにしても、昨年レベルの得点力の見込めない中、あまりにお粗末すぎる現状の内野守備では勝利の二文字をただ遠ざけるだけであり、内野守備の立て直しは、ここから広島が浮上していく上で大きなテーマとなるのではないでしょうか。

#野球 #プロ野球 #広島 #カープ #内野 #守備

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