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『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』徹底評論

今回は毎年公開される度に日本映画興行収入年間上位に食い込んでくる、現状日本映画のドル箱中のドル箱映画『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』を鑑賞してきましたので、こちらの感想を語っていきたいと思います。

ちなみにネタバレはします!!

『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』について

基本データ

  • 監督 永岡智佳

  • 脚本 大倉崇裕

  • 原作 青山剛昌

  • 出演者 高山みなみ/山口勝平/山崎和佳奈 他

あらすじ

北海道・函館にある江財閥の収蔵庫に、怪盗キッドからの予告状が届いた。今回キッドが狙うのは、幕末を生きた新選組副長・土方歳三にまつわる日本刀だという。
ビッグジュエルを追い求めるキッドが、なぜ刀を狙うのか....?

一方、西の名探偵・服部平次とコナン達も、函館で開催される剣道大会の為に現地を訪れており、犯行予告当日、平次がキッドの変装を見事見破り追い詰めるが..!?

時を同じくして、胸に十文字の切り傷がつけられた遺体が函館倉庫街で見つかる。

捜査線上に浮かび上がったのは、“死の商人”と呼ばれ、アジアー帯で武器商人として活動する日系アメリカ人の男。
彼は戦時中の軍需産業に深く関わっていた斧江家初代当主が函館のどこかに隠したとされるお宝を探していた。

それは、当時、日本の敗色濃厚だった戦況を一変させるほどの強力な兵器だという噂も...そして、そのお宝とキッドが狙う刀はどうやら関係があるようで、刀を狙うキッドに対し、謎の“剣士”の影が迫り...

天下分け目のお宝争奪バトルミステリー、
今、その幕が上がるー!

公式サイトより引用

まずは「コナン映画史」を振り返る

むしろ最近が異常な好成績

さて、今回の『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』は「劇場版名探偵コナンシリーズ」としては27作品目。
2020年コロナ禍での劇場版の上映延期を除いて、毎年新作が公開されている、長寿人気アニメ映画の最新作だ。

しかも恐ろしいことに、ここ10年間はシリーズ最高興行収入記録を更新を繰り返している。
そして、日本映画の興行収入ランキングでも上位に毎年食い込む、日本を代表するモンスターコンテンツとなっているのだ。

例えば「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」など、長寿人気シリーズの劇場版は他にもコンスタントに毎年公開されてはいるが、「名探偵コナン」はそれらとは一線を画すほどに成功をしている。

しかしそんな「コナン」もずっと好調だったわけではない。
まずは最新作の評論をする前に簡単にシリーズ全体の歴史を包括しておきたいと思う。

第1期 あくまでベースはミステリ

  • 『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』(1997)

  • 『名探偵コナン 14番目の標的(ターゲット)』(1998)

  • 『名探偵コナン 世紀末の魔術師』(1999)

  • 『名探偵コナン 瞳の中の暗殺者』(2000)

  • 『名探偵コナン 天国へのカウントダウン』(2001)

  • 『名探偵コナン ベイカー街の亡霊』(2002)

  • 『名探偵コナン 迷宮の十字路(クロスロード)』(2003)

これらの時代は監督を「こだま兼嗣」が務めている。
基本的にはベースは原作・アニメの通り「ミステリ」であり、基本的に殺人事件が起き、それらを捜査していく中で原作・アニメでは描けないスケールの大きな事件が展開される。
あくまでミステリがベースの時代で、雰囲気も非常にシリアスな展開が多い。
映画として見応えもあり、コナン歴代人気投票などを行うと、ランク上位に食い込む作品も多い。

第2期 前期踏襲をするが、低迷

  • 『名探偵コナン 銀翼の奇術師(マジシャン)』(2004)

  • 『名探偵コナン 水平線上の陰謀(ストラテジー)』(2005)

  • 『名探偵コナン 探偵たちの鎮魂歌(レクイエム)』(2006)

  • 『名探偵コナン 紺碧の棺(ジョリー・ロジャー)』(2007)

  • 『名探偵コナン 戦慄の楽譜(フルスコア)』(2008)

  • 『名探偵コナン 漆黒の追跡者(チェイサー)』(2009)

  • 『名探偵コナン 天空の難破船(ロスト・シップ)』(2010)

これらは「山本泰一郎」が監督を務めた時期だが、確かに第1期時代を踏襲しているのだが、物語の舞台などが被り出したり、物語のずさんさなど、問題が目立つ作品も多く、特に「紺碧の棺」の頃は興行収入的にも苦戦をした。しかし「漆黒の追跡者」で黒の組織とコナンの直接対決を描くなど、後の劇場版での盛り上がりのヒントになる作品もある。この頃の低迷、それによる試行錯誤は後の作品に大きな影響を与えている。
ちなみに「金曜ロードショー」で「銀翼」「水平線」「鎮魂歌」「紺碧」の4作は放映されておらず、この時期の作品の不遇さを物語っている。

第3期 原作キャラクターのクロスオーバーで再起!

  • 『名探偵コナン 沈黙の15分(クォーター)』(2011)

  • 『名探偵コナン 11人目のストライカー』(2012)

  • 『名探偵コナン 絶海の探偵(プライベート・アイ)』(2013)

  • 『名探偵コナン 異次元の狙撃手(スナイパー)』(2014)

  • 『名探偵コナン 業火の向日葵(ひまわり)』(2015)

  • 『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』(2016)

  • 『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』(2017)

この時期は「静野孔文」が監督をしている。(「沈黙の15分」・「11人目のストライカー」に山本泰一郎も参加している)

この時期ゲームチェンジャーとなったのは、原作で人気のキャラクターをメインにした「異次元の狙撃手」だろう。
ここでFBIである赤井秀一が登場する点だ。(正確に言えば彼が変装をしている沖矢昴が面ではあるが)

というのもここまでのコナン映画では、メインはあくまでコナンであり、そこに怪盗キッドや服部平次といった原作でも初期から活躍するキャラクターの参加はあったが、あくまで彼らをメインに据えることはなかった。
「異次元の狙撃手」で赤井をメインに据えて手応えを感じた中で、2017年の「純黒の悪夢」で赤井、安室を共演させることで原作ファンや声優ファンなど、多くのファン層を獲得する方法を見つけたとも言える。
(逆に言えば原作のキャラクターの関係性をキチンと理解しておく必要も、この辺りから必要になってきている。)

「純黒の悪夢」は2016年当時でコナン映画の歴代興行収入1位を記録、いよいよコナンはここから黄金期を迎えることになる。

第四期 黄金期到来!

  • 『名探偵コナン ゼロの執行人』(2018)

  • 『名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)』(2019)

  • 『名探偵コナン 緋色の弾丸』(2021)

  • 『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』(2022)

  • 『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』(2023)

  • 『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』(2024年)

今に至るこの時期は、誰か1人がメイン監督としてシリーズを作るのではなく、様々な監督が作品監督を務めている。

基本的にはコナンの原作で人気の出たキャラクターをそれぞれの作品のメインに据えて、他のキャラクターとの絡みを多く描く。
そして、これまでの劇場版以上にアクションやアトラクション的に起きるとんでもないで事態のインフレで盛り上げるていくスタイルを確立している。その分、ミステリ的謎解き要素は脇に追いやられるなど、個人的には言いたいこともある。

だが「純黒の悪夢」までは最高で30億から40億程度の興収だったが、「純黒」で60億円突破。
その後90億突破、ついには前作「黒鉄の魚影」では138億円と、とんでもない成績を更新し続けるコンテンツに成長したのだ。

ということで、ここまでの歴史を駆け足で振り返った上で『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』がどういう作品だったのか語っていきたい。

ここ最近で一番「謎解き」しようとしている!

「謎解き」をきちんと描く

さて今作だが、最近のコナン映画では蔑ろにされていた「謎解き」つまり「ミステリ」をきちんとやろうとしている意志が見えた点はハッキリと評価したい。
もちろんその「謎解き」が割とご都合主義的な展開もあったが、それでもキチンと「謎解きのキーアイテム」を集めていく点などが描かれている。
それだけで、最近のコナン映画にありがちな「派手な場面の応酬」「謎解きの形骸化」を打破してくれているのは、本当に長年のファンとしては感謝をしたい。

さて、今作は怪盗キッド、服部平次をメインに据えてコナンと3者が協力し謎解きを行なっていく物語だ。

ちなみに冒頭では斧江財閥から刀鍛冶「東窪榮龍」が作った脇差を盗もうとする怪盗キッドと服部・コナン対決が描かれる。
ここで服部とキッドが本格的に初めて交わるのが今作の最大の見せ場ではある。

ちなみに「世紀末の魔術師」でも冒頭の大阪でキッドVS服部は描かれる、当時はシリアスな戦いを描いていた。
だが原作も当時よりだいぶストーリーが進み、特にキッドが悪人ではないこともあり、この辺りは基本コメディベースになっている。

そこから東窪榮龍の作った6本の刀を集めることで、かつて函館に隠された「大量破壊兵器」のありかが分かるという大風呂敷が広げられ、そこに武器商人「ブライアン・D・カドクラ」が絡んできて、函館市内での「お宝争奪戦」が展開されていく。
そして同時に斧江財閥の顧問弁護士が何者かに斬殺される事件も並行して起きていく。

その謎にコナン・服部・キッドが協力し挑んでいく物語になっている。

今作は基本的にこの刀6本のありかを推理、そして刀に付随する謎を解く為の暗号を解読し、「大量破壊兵器」の争奪戦が描かれる。

なのでここ最近の「とにかく派手な出来事」を描くのではなく、キチンと謎を解くためにアイテムを集めていく、割と真っ当な「謎解き」を描いているのだ。
このアイテムを集めて函館を巡っていく展開は、傑作「迷宮の十字路」の雰囲気を纏っており、個人的には感慨深く作品を見ることができた。

ただし、それでも物語運びは強引なところも非常に多く、特に武器商人との応酬は最近のコナン映画同様、銃撃戦・カーチェイスと見せ場は盛り盛りで描かれ、どうしても事件全体の規模感がデカくなりすぎている。

元々「名探偵コナン」という作品の面白さの肝は、「子供にされてしまった名探偵が小五郎の影に隠れて事件を解決する」という、ある種の「人知れず感」だったはずだ、だが最近の劇場版はそこは完全にオミットされている。

つまりあまりに表立って活躍することは、そもそものコンセプトとズレているのでは?と毎年思うのだが、そのようなことをいうのも野暮だということは重々理解はしている・・・。

謎解きが終わると、いつものお祭り映画

まぁ、とは言えキチンと謎を解いて、宝のありかが明らかになると陣営同士に分かれての争奪戦。
ただし、そこに無理やり少年探偵団を入れ込むなど、無理やり感は否めないが、ここから敵陣営との戦いで、なんと青山剛昌先生の過去作『YAIBA』とのクロスオーバーを描いている。
そもそも怪盗キッドも、彼の過去作からの参戦ということも考えれば、この劇場版は「青山剛昌ユニバース」における「アベンジャーズ」的な要素もあり、この辺りからいつもの「馬鹿映画展開」が加速していく。

函館山のロープウェイをスケボーで駆け上がる。
なぜか今作でコメディリリーフとして登場している大岡紅葉が空から閃光弾を投げつけるなど、ツッコミどころは置いておいても、眼を疑う光景が繰り広げられる。

さらにセスナ機で大量破壊兵器を函館ごと消し去ろうとする展開、阻止するためにセスナの上でチャンバラ対決など、とにかくありえない展開が続く。
特にセスナ機で大量破壊兵器を破壊のためにミサイルを撃つ・・・。
その思想自体にツッコミを入れたいが、もうそれは許す。

とにかく終盤はいつものように展開を盛りに盛るのだ。
この辺りの「とんでも映画感」は「今年もコナン見てるわ」という気持ちにさせてくれるし、最早醍醐味の一つとして受け入れるしかないのかも知れない。

昔のコナン映画も終盤は派手になりがちだったが、それでも「事件」の規模に対して逸脱しない派手さだったが、もう「起きていることが馬鹿デカすぎて」笑うしかない。
それももう「コナン映画の魅力」なのかも知れない。
とにかく終盤、謎解き後は脳死状態で楽しめることは保証します。

「兵器」のオチのつけどろは良い

今作のマクガフィン「兵器」だが、実際は敵軍の暗号を解読する為の機械だったことが描かれる。
最早それは使い物にならず、それを破壊しようと躍起になっていた男は、「こんなもののため」と膝から崩れ落ちる。

個人的にはこの「オチ」は悪くないと思った。
というのも、「名探偵」にとって一番重要なのは情報だ。
情報こそが彼らを「名探偵」たらしめている。
その情報を集めて繋ぎ合わせることで、彼らは真実を導き出すのだ。

この情報を結果として軽視するような発言をしたために、結果彼は探偵によって犯人であることを証明されてしまってもいる。

もう使い物にならない暗号解読機ではあるし、今作のヴィランはそんなものに価値を見出しはしない。
だが、コナンたちは違う。
その情報こそが重要であることを理解しているし、彼らの武器なのだ。
この「暗号解読機」に対してのスタンスの違いを描いたのは、非常に良い対比描写として機能していたのではないだろうか?

このオチのつけどころは個人的に評価したい。

衝撃!?のオチ

さて、今作でもエンドロール後に恒例となった「コナンシリーズの根底を揺るがすパート」が用意されている。
最近のコナン映画では「原作」でも未発の情報を入れ込んでおり、それが後に原作でも重要なキーになる。

今回は工藤新一の父、優作に双子がいたことが明らかになる。
それが怪盗キッドの父、黒羽盗一だ。
つまりキッドとコナン=新一はいとこだったことが判明する。

作中何度も「兄弟」「双子」「似ている」というワードが描かれるが、ここまで大きな情報が今作で描かれたことにはコナン界隈ではザワつきが起きている。

しかも盗一はすでに死んでいると思われていたが、どうやら彼も生きていることが描かれ、今後コナンシリーズに大きな影響を及ぼすのは必至だ。
例えば優作の妻、有希子と黒の組織のベルモットは彼の下で変装術を習っているなど、実は影響力は大きい。
怪盗キッドの活動も、実は父の死の謎を追っていることがベースな点もあり、生きているとなれば『まじっく快斗』から続く謎にも迫るなど、割と大きなネタバラシが用意されていた。

そういう意味でも今作は「コナン」「快斗」「YAIBA」という青山剛昌の描いた作品たちが一堂に介する「クロスオーバー」映画だったとも言える。

まとめ

ということで、個人的には今作品は「大量破壊兵器」というマクガフィンお巡っての対決。
そこに至るための「謎解き」をキチンとやろうとしており、そこに関しては最近の映画の中でも「名探偵」要素が多くあり、そこは高く評価したいと思った。
もちろん謎解きの強引さなどは指摘せざるを得ないが。
それでも「名探偵」というタイトルの付いている作品として、久々にその要素を描いたのは良かったと思う。

ただし本当に必要だったのか疑問の出る大岡紅葉の登場、終盤の展開など大味なところはキチンとそれなりにあった。
これはもう最近のコナン映画として割り切るしかないのだろう。

今作はさらに青山剛昌の過去作の登場人物がクロスオーバー的に出てくるのも特徴だ。
「コナン原作」でのストーリーの進展具合も加味すると、実はかなりキャラクターの関係性を理解するのにハードルは高いとは言える。

だが、最後の超展開・怒涛のクライマックスの盛り上がりで、そこらで振り落とされても楽しめることは間違いない。

何やら公開から数日ではあるが、歴代コナン映画の記録を早くも更新している今作品。
ぜひ鑑賞してみてはいかがでしょうか?


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