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人新世の「資本論」:第7・8章(最終回)

とうとう、この本の最終章をまとめる時がやってきました。

第7章では、脱成長コミュニズムをどう実現させるべきか?について具体的な筆者の考えが述べられています。

そして、第8章では、実際に筆者の目指す「脱成長コミュニズム」を掲げる具体例として、スペイン・バルセロナの「フィアレス・シティ」の取り組みが取り上げられています。

これまでの章を読んでみて、「結局、筆者はどんなコミュニズムを目指しているの?」と疑問に思う人もいるのでではないでしょうか。そんなあなたに、答えがズバリと示されている第7章で全体像をつかんでから、前章をおさらいしてみるのもいいかもしれません。


■コミュニズムを掲げる理由

まず、脱成長コミュニズムの実現方法を述べる前に、なぜ筆者がコミュニズムを支持するのかについてまとめたいと思います。

①「コミュニズムか野蛮か」

まず、筆者は危機の時代になるほど、国家への依存が強まることを懸念しています。気候変動やパンデミックによって国人の生活が脅かされるほど、国家の存在力は大きくなり、国民の生活に介入することになります。

このことによって懸念されるのが、トップダウン的な政策体制である気候毛沢東主義に陥ること(第4章に詳細があります)。さらに、医療崩壊や経済混乱を目の前にすれば野蛮状態に陥る可能性も。

「コミュニズムか野蛮か」つまり「手遅れになる前に!国民自らの手で、平等で自由な社会を!」という筆者の思いがこめられています。

②トマ・ピケティさへも社会主義を支持

代表作「21世紀の資本」の著者トマ・ピケティは「経済的不平等の解決策として、所得に応じた税率を課す政策」を推し進めることを推奨している、リベラル左派です。

筆者は、そんな彼でさえも生産における「参加型社会主義」を要求していることに目を向けています。

「参加型社会主義」つまり「労働者が自分たちで生産を自己管理し、共同管理する社会」。これは、まさしく筆者が望む社会です。

では、この参加型社会主義を達成するためには、どのような改革が必要なのでしょうか?

ポイントは、これまでの章でも何度も唱えられてきた、「労働と生産」にあります。

■労働と生産の改革のための5つの柱

資本主義によって、これまで、労働のオートメーション化と生産の効率化が重視されてきました。

しかし、この「労働と生産の変革」こそが、脱成長コミュニズムの目指す「経済成長のスローダウン」を達成するためにとても大切になります。

第7章の問い「コミュニズムをどう達成するか」の答えとなる、5つの柱について簡単に説明します。

【目的】
経済の成長のスローダウン

【目的達成のための5つの柱】
 ①使用価値経済への転換
 ②労働時間の短縮
 ③画一的な分業の廃止
 ④生産過程の民主化
 ⑤エッセンシャルワークの重視

①使用価値経済への転換
▪️使用価値を重視した経済を目指すことにより「大量生産・大量消費」かの脱却を目指す
▪️コミュニズムにより生産の目的を大転換
▪️価値ではなく、人々のニーズを満たすことを重視

②労働時間の短縮
▪️労働時間を削減して、生産の質を向上させる
▪️使用価値の重視によって、金儲けのための不必要な生産・労働の減少
▪️現在の労働の完全オートメーション化はエネルギーを大量に使う。二酸化炭素を増やすのみ。労働時間の短縮は、二酸化炭素の削減にもつながる。

③画一的な分業の廃止
▪️画一的な分業を廃止して、労働の創造性を回復
 ✖️退屈で無意味な労働
 ○個人の自己実現が目指せる
 ○やりがいや助け合いの追求ができる

④生産過程の民主化
▪️生産のプロセスの民主化を進めて、経済を減速させる
▪️生産手段を「コモン」として民主的に共同管理する
▪️エネルギーや材料を民主化に決定すれば、さまざまな社会的変化が生まれる可能性が高い

⑤エッセンシャル・ワークの重視
▪️使用価値経済に転換し、労働集約型のエッセンシャル・ワーク(例:ホームヘルパー、医療関係)の重視
▪️現在の低賃金・重労働を見直し、富の平等な分配をするべし

■脱成長コミュニズムの例:「フィアレス・シティ」

以上、筆者の考える脱成長コミュニズムを達成させるための核となる5つの柱を紹介しました。

実は、エコロジカルな都市構想を実際に行っている都市があります。その有名な代表例がスペイン・バルセロナの「フィアレス・シティ」。

▪️フィアレス・シティ
国家が押し付ける新自由主義的な政策に反対する地方自治
例:アムステルダム/パリ→Airbnbの営業日数を制限、グルノーブル→グローバル企業の製品を学校給食から締め出す

フィアレス・シティとして最初に活動が注目されたバルセロナでは2020年に市民の要請により、具体的かつ明瞭な「気候変動宣言」が発令されました。

気候変動宣言では、2050年までの脱炭素化の目標が掲げられ、細かい分析に基づいた240項目に及ぶ細かい行動計画表も立てられています

例:電力や食の地産地消、自動車の速度制限、自動車・飛行機・船舶の制限、都市空間の緑化、など。

これは、経済成長ではなく市民の生活と環境を守るための画期的な宣言であり、筆者の目指すところの「使用価値の転換」を達成させることができるものです。

では、なぜこのような宣言を市民の手によって成立させることができたのでしょうか。

成功要因①
市民プラットフォーム政党
「バルサローナ・アン・クムー」(2015に設立)の貢献により、市民+労働者+専門家による共同執筆が実現した

成功要因②
伝統的なワーカーズ・コープの制度により、自治体と協同組合の強い繋がりが可能であった

成功要因③
大都市が気候変動に与えている影響をしっかりと認める「気候正義」の姿勢があった

まさしくこの宣言は、市民をまとめるトップの地方自治体が市民の声を受け止め、自治体と市民が肩を並べて作成されたものであると言えるかもしれません。

そしてここで重要なのが、「気候正義」の姿勢です。大都市としての責任を自覚し、グローバル・サウス(グローバル化によって影響を受けるヒトやモノ)への眼差しが含まれています。

現状、気候変動問題によって引き起こされる諸問題を一番に体感しているのは、途上国の人たちです。例えば、南アフリカの食料問題。気候変動により、農家は水不足に悩み、不作により作物の価格上昇、といった重大な問題が起こっているのです。

このような世界の現状を含めて、大都市としての責任を自覚し、経済のスローダウンを目指す「気候正義」の姿勢を、筆者は「合理的かつエコロジカルな都市」として評価しています。

■まとめ

「SDGsは大衆のアヘンである」という強烈な言葉から始まった本書。

SDGsという見せかけの対策に人々が安心し、現在の危機的な気候変動問題に真剣に取り組まなくなるのではないかという懸念から、述べられた言葉です。

「グリーン・ニューディール(緑の経済)は単なるその場しのぎに過ぎない」。

電気自動車、脱炭素化を目指しながら経済活動を進めていこう、という姿勢に対しても、筆者は強烈に批判をしていました。

筆者の目指す世界は、「脱成長コミュニズム」生産と労働の転換による経済成長のスローダウンこそが、気候変動問題に取り組む唯一の方法である、と述べます。

そのためには、これからの私たちの未来を国家任せにするのではなく、私たち市民によって変えていく必要があるでしょう。

労働組合の設立、学校ストライキ、不買運動。

この小さな活動が、社会を大きく変えるために必要なのは3.5%の力である、と筆者は言います。

「3,5%の人が非暴力的な方法で立ち上がれば、社会に大きな変化をもたらす力になる。」

私も「100年に一度の〇〇」という言葉にはうんざり。日々感じる、異常気象が当たり前になる前に、これからも小さな行動を積み重ねていきたいと思います。


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