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コスタリカのコーヒー農園に行って思ったこと

コスタリカに行ってきました!
人生初の中南米です。


なぜコスタリカにはるばる行ってきたかというと、僕が12年も連続で買わせてもらっているコーヒー豆をつくっている生産者がいるからです。今回はそのカンデリージャ精製所を訪問してきました。

コスタリカはアメリカの南、中米に位置しています。日本から見たらほぼ地球の反対側です。旅行ではなかなか行く人も少ないエリアかもしれないのですが、コーヒーにとっては大きな生産地です。

日本から30時間くらいかけてコスタリカにはるばる行ってきました


今回案内してくれたカンデリージャのリカルドくんと直接お会いしたのは2022年。毎年9月ごろに東京ビッグサイトで開催されているSCAJというスペシャルティコーヒーの展示会の際に来日して、その時に店舗に来てくれました。

僕たちは彼らのコーヒー豆を、LIGHT UP COFFEEを吉祥寺にオープンする前、僕が家でフジローヤルの1kg焙煎機を使いながらオンラインストアだけやっていた時代から買い続けさせてもらっています。そんなことを彼は商社さん経由で知って、お店まで来てくれたのでした。

左がリカルドくん、右がラウルくん。ちょうどその時彼らのコーヒーをお店で出していたので飲んでもらいました。両手で大切そうに持って飲んでくれたのがとても印象に残っています。


そこから直接やりとりするようになり、翌年2023年のSCAJのタイミングでもまた来日してくれました。その時は食事に行ったのですが、そこで農園の話、精製所の歴史などいろいろ教えてくれて、「来てくれたら案内するよ」ということで、次の収穫のタイミングで行こうとその時に決めて、今季収穫のピークを迎える2024年の1月、彼らがコーヒーをつくるコスタリカまで行ってきました。


農園まで

朝空港に着くと、そこから産地のエリアまで連れていってくれました。彼らの「ラ・カンデリージャ精製所(La Candelilla Estate)」まで車で2時間。コスタリカ最大のコーヒー生産地であるタラス地区に彼らの拠点はあります。

着いたらまずはランチ。チフリホという、トマトとカリカリ豚が入った混ぜご飯を食べました。酸が効いていてめっちゃ美味しくて最高でした。

Chifrijo


そしてそこから3日かけて、彼らの農園、そして精製の様子を見させてもらい、一緒にコーヒーのテイスティングもさせてもらい、地元の街も観光させてもらってフルに満喫してきました。


カンデリージャはコスタリカで最初のマイクロミルです。マイクロミルというのは、農園をやりながら自分達でコーヒーチェリーの精製まで行う精製所のことです。

コーヒー豆はもともとコーヒーの木という人間の背丈くらいの木に、年に一度熟すコーヒーチェリーという果実の種の部分を乾燥して脱穀したものです。その、コーヒーチェリーから皮を剥いて種を取り出して、洗ったり乾かしたりする工程のことを精製と呼びます。皮剥きの機械だったり、水洗の設備や乾燥の場所だったりが必要なので、農家さんではなかなか精製まで出来ないので、設備と場所を持つ専門の業者がまとめて今までは精製していました。

カンデリージャの看板。カンデリージャとはスペイン語でホタルという意味。ホタルが住み着くほど水が綺麗なことから名付けられました。確かに夜にはこの周りにホタルがたくさんいました!


カンデリージャの人々はもともとコーヒー農園だけをやっていて、収穫したチェリーを地元の精製業者に売るだけだったのですが、もっと付加価値をつけて売りたいと結託し、7人のコーヒー農家さんたちが集まって合同で1つの精製所をつくりました。そんな風にして、チェリーを売るだけだった農家さんが、自分達でリスクを取って精製の設備を入れ、農園での栽培から精製まで一貫してやってしまう流れは「マイクロミル革命」と当時呼ばれたりしていました。革命っていうほどなんで、1農家さんがその精製の工夫次第で素晴らしい風味のコーヒーをつくることができて、その分付加価値をつけてコーヒーを売ることができたというのはすごい大きいことだったんです。今ではコスタリカに150以上のマイクロミルがあるそうです。そんなマイクロミル革命の一番最初の精製所がカンデリージャ、時代の動きを考えてもすごい場所です。コーヒー好きとして興奮します。

そこから7つの家族が今では合計27所有する農園からコーヒーチェリーを収穫してきて、カンデリージャに集め、まとめて精製して素晴らしい風味のスペシャルティコーヒーをつくっています。

カンデリージャの精製設備。チェリーが水で流れ、皮剥きされ、浮いたものと沈んだものとで分類され、水流で洗われ、乾燥場所へと流れていきます。


カンデリージャの農園

そんな彼らがたくさんの農園を運営する中で、特に思い入れがあったり魅力的な農園を3つ訪問させてもらいました。

最初に行ったのがラス・コリナス農園。甘さがしっかり軸にある、カトゥアイ、カトゥーラ、カスティージョという品種や、コーヒー好きな方は聞いたこともあるであろうゲイシャという世界最高の風味を持つと言われる品種、まだ植えてる農園も少ない研究段階のセントロアメリカーノ、ミレニアムといった品種、ケニアのSL品種、エチオピアの品種まで、あらゆる品種が実験も兼ねて育てられている農園で、もうパラダイスのような場所でした。

Las Colinas農園
いろんな品種がたくさんあってもう最高
これはゲイシャの木。みんなで30分くらい収穫させてもらいました。チェリーはめっちゃ甘くて、桃の味。すごい。
背の高いこの木はティピカという品種。エチオピアから最初コーヒーの苗木がオランダの商人の手によってフランスのルイ14世に寄贈され、そこからフランスの植民地である中米の国々にわたった時にティピカと名付けられた、ルーツに近い品種です。


そして、リカルドくんが農園の中でコーヒーを淹れてくれました。生産地で生産者が淹れてくれるコーヒー、、。一番うまいに決まってる、、、。


もう1つ行ったのがエレンシア農園。農園を運営するパウロさんが案内してくれました。エレンシア(Herencia)とは現地のスペイン語で遺産(Heritage)という意味。おじいさんから遺産として受け継いだ農園だからそう名づけたそうです。

Herencia農園


ここは急斜面で見晴らしがすごく、遠くまで山々の景色が見えました。

パウロさん


腰のスマホケースかっこいい


そして、カシーケ農園。ここではピッカーと呼ばれるコーヒーチェリーを収穫する人が、ちょうど収穫の最中でした。

コスタリカでは、同じ中米のニカラグアから季節移動労働者としてピッカーさんを呼ぶことが多いらしく、ここでもニカラグアからやってきた人たちがコーヒーチェリーを収穫していました。経済的にはニカラグアよりコスタリカの方が豊かなため、ニカラグアの人たちにとっては出稼ぎに行くメリットがあり、コスタリカの人にとっても人件費を抑えることができるので助かっています。

12.5kgのコーヒーチェリーがちょうど入るボックスがあり、その分で約3USDを人件費として支払うと言っていました。1日1人100kgくらいは収穫してくるそうです。

収穫されたコーヒーチェリーはトラックに。黄色と赤が混ざっているのは、黄色く熟すイエローカトゥーラという品種と、赤く熟すレッドカトゥーラという品種を同じ区画で育てていて、混ぜて1つのロットにしているからです。


カンデリージャの農園らしい景色

Las Colinas農園の上からの景色

彼らの農園には、コーヒーの木の間にバナナの木も育てていました。自分達の家族で分けて食べる用だそうです。

コーヒーの木は背が低く深い緑色をしています。一方で間のバナナの木は背が高く薄緑色。遠くから見ると、深緑の中に薄緑が点々としていて、この色合いや景色がカンデリージャらしい景色だなと感じました。農園ごと、地域ごとの景色の違いも印象に残りますね。


Herencia農園からの景色


カンデリージャの精製

そして精製所。農園をやりながら、その後の精製までやっているのが彼らの特徴です。

まず最初に収穫したチェリーをトラックで運んできて、貯蔵タンクに入れていきます。その下には精製設備がつながっていて、水で流れながら皮剥き機へとチェリーが運ばれていきます。

流れるチェリーたち

そして、このコスタリカならではの設備として、「ミューシレージリムーバー」という機械があります。これは、皮剥きしたコーヒーチェリーの中の種の周りについているベタベタの半透明の膜である「ミューシレージ」を水圧で落とす機械です。

なんともマニアックな機械だなーと思われるかもしれないのですが、これはとても画期的な機械なんです。

ミューシレージリムーバー。この筒の中を皮剥きされたコーヒー豆が通り、そこに水圧がかかって外にミューシレージが出てきています。

このミューシレージリムーバーはコスタリカ以外では見ることは少なく、一般的には、皮むきしたあとのコーヒーチェリーは発酵タンクに入れて1〜2日寝かせて、発酵によって分解されたミューシレージを木の棒や時には手洗いなどで洗い落としてから乾燥させます。

このミューシレージリムーバーを使うことで、発酵の場所、手間も要らず、水洗のための労力や大量の水も必要なく、皮剥きしたらそのまま乾燥場にコーヒーを直接もっていけるというのがとても効率的かつ安定したつくり方だなと感じました。

一方で、コーヒーって発酵によってフレーバーが発達するものだと思っていたのですが、ミューシレージリムーバーを使ってコーヒーの糖分を物理的にはがし、発酵工程なくすぐに乾燥させている彼らのウォッシュトはりんごや紅茶のような風味がして美味しいのです。コーヒーの精製においての発酵の工程ってどのくらい意味があるんだろうとか、こんな楽な方法でコーヒーが美味しくなるならそれが一番いいなとか、まだまだ色々試してみたい気持ちになりました。

乾燥場の景色。大きなスピーカーを置いてノリノリのラテンミュージックをかけて楽しそうに作業していました。毎日16回ずつコーヒーを攪拌させてむらなく乾燥を進めているそうです。


思ったこと

コスタリカのカンデリージャに行って一番印象的だったのは、彼らがとても幸せそうにしていることでした。

好きなコーヒーの仕事を楽しくやっていて、創業者7人の家族同士はとても仲が良く、僕が訪問した時もお昼からみんなで集まってお誕生日パーティーをしていました。笑顔が絶えず、とても楽しそうにしていたことが印象に残っています。


僕らコーヒーショップは、コーヒー生産者を助けているというよりも、逆に助けられているのかも知れません。僕らに売ってくれるからこそ、僕らはおいしいコーヒーを提供できています。

これがもっともっと需要が増え、そして生産量が少なくなった未来ではどうでしょうか。生産者たちが僕らを選んでくれるおかげ、僕らに売ってくれるおかげで僕らはおいしいコーヒーを通した活動ができていきます。


僕は、コーヒーを通して貧しい人たちを救おう、というテンションがいまいち好きではありません。そう思っている人は少ないかもしれないですし、僕もそう思ってはいないのですが、もともとコーヒー生産が奴隷制度といった良くない歴史から始まり、発展途上国でつくってもらったものを先進国で主に楽しむといった流通の構造上、どうしてもそんな経済差や支援といったことを考えさせてくれる要素がコーヒーにはあると思います。しかし、僕らは対等であって、彼らには彼らの幸せがあるはずで、僕らには僕らの幸せがあり、お互い支え合っているからこそいい仕事ができる関係性だと思うんです。実際運営に苦しむ生産者や、仕入れるチェリーの価格高騰で難しい状況にある精製所もいると思います。でも続いている生産者は少なくとも幸せで、好きでコーヒーをやっていたりもします。僕らが救おうとしなくたって幸せで、幸せだからこそおいしいコーヒーがつくれていたりもするんです。

生産者がコーヒーをつくり、僕らはそれをうまく伝えていく、同じ立場の仕事仲間として生産者たちともっと関係性を築いていきたいなと、今回中南米に行って思いました。


コーヒーっておもしろいですね。もっといろんな生産地に行って、いろんな生産者に会って、もっとコーヒーのことを知りたいと思いますし、仲間である彼らと共に手を取り合ってコーヒーをもっと伝えていきたいと思いました。

とてもいい生産地への渡航でした!


川野優馬


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