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バリスタの意味とコーヒー屋の採用

僕は東京でコーヒー屋をやっています。

バリスタという仕事はとても意味があって、本当に楽しい仕事だと思います。

コロナもあって飲食を目指す人の流れは変化しているかも知れませんが、いつかカフェをやりたい、バリスタになりたい、コーヒーの仕事に関わりたいという方はたくさんいると思いますし、そうじゃなくても普段カフェなどでバリスタの仕事に触れる機会は多いと思います。

今回はバリスタの意味について、そしてコーヒー屋の立場としては採用含めてどう思っているのか、ということを書いてみたいと思います。

なぜバリスタになるか?

まず、何のためにバリスタになるのか、バリスタになってどんなことが達成できるのか、思いつくことや、バリスタ採用に応募してくれる方の動機や、僕の考えを書いてみたいと思います。


バリスタになる理由1:コーヒーを伝えるため

これは僕の考えでしかないので、人それぞれいろんなバリスタ像があると思うのですが、僕はコーヒーを通した「体験を届ける」ということがバリスタの仕事だと思っています。コーヒーをつくることが目的ではなくて、あくまで来てくれた方に満足してもらうことが目的なはずです。

なぜその味なのか、その美味しさを通してどんな気持ちになって欲しいか、どんなコーヒーをそもそも伝えたいのかっていう、「意思」や「意図」がきっとあるはずです。その意思を乗っけて、体験として伝えるということが、機械ではなく人が立っている意味なんだと思います。


いい体験にするために必要なことは、それぞれのお店で何をもっていい体験かというコンセプトによって異なるかもしれませんが、僕は、サービスと技術、素材の理解が必要だと思います。


サービスは、心地よいと感じてもらうためのコミュニケーション。
サービスについて書き始めると、書きたいことが多すぎてキリがないので別の機会にがっつり書いてみたいと思っていますが、相手は何を期待しているかを察してそれに沿った体験を届けること、可能なら期待以上の体験にすることがサービスの力です。例えば、レジに来たお客さんに最初どんな一言をかけるか、メニューに悩んでいたらどんなコミュニケーションをとるか、豆の種類に迷ったらどうやって満足する提案ができるか、コーヒーを出すときや飲んでいる時や帰る時にどんな声をかけるのか。モノを売ることではなくて、モノがある体験を届けるために、サービスの意識と工夫は本当に大切だと感じます。


技術はその通り、コーヒーが最も伝わる形にする技術。
美味しくすることはもちろん、スピードも大事です。コーヒーが気軽で日常的な飲み物だからこそ、提供するのは1秒でも早いほうがいいに決まってるし、注文して5分経ってまだできていなかったら1回お客さんは「そろそろかな」とカウンターの中を見るんじゃないかなと思います。ドリップの蒸らしをしている間に次のドリップの豆を測ったり、複数のメニューのオペレーションを最も効率的に組み合わせて同時並行で最短でコーヒーを提供していく力も求められてきます。そして慣れた手つきで素早く動く様子は、早く提供できる事実の他に、この人が作るコーヒーは間違いなさそう、美味しそうという、期待や安心にも繋がると思います。スピードも含めての技術です。


そして素材の理解
そのコーヒー豆で最大限美味しい、伝わる形にするためには、どんなコーヒー豆なのか、どんな個性や魅力があるコーヒーなのかという理解が必要です。その豆が持っている素晴らしい部分をより強調して伸ばしてドリップするとか、豆を選ぶときにどんな特徴のコーヒーなのか伝えて選びやすくするとか、素材の理解がないと伝えられません。
品種や精製方法、環境など、いろんな要素でコーヒーは風味がつくられています。なぜその美味しさなのか、どんな部分が魅力なのかをはっきりと理解できるほど、その魅力は理由とともに納得感をもって伝えられるんだと思います。

また、コーヒーの個性を捉えるということになると、何を持って個の性質なのか、どこからが個性なのかという意味で、たくさんのコーヒーを飲まないとそれが個性だとは認識できないはずです。いろんなコーヒーがあるけど、この部分はこのコーヒーの個性なんだって捉えられるためには、とにかく多くのコーヒーの経験が必要になってきます。いろんなコーヒーを飲んできた人ほど、コーヒーごとの魅力はバチッと捉えられるようになり、そして美味しいコーヒーのゴールは高くなり、それに合わせて自分の技術も上がっていくはずです。バリスタの成長は素材の理解と引き出しを多くすることからはじまると僕は思います。そのためにはやっぱりコーヒーを飲むたびに、なんでこの香りがするのか、なんでこの味になるのか、といった疑問を持つことが大事で、その源泉にあるのは純粋なコーヒーへの興味と、「コーヒーが好き」という気持ちなんだと思います。

バリスタはコーヒーを伝える仕事なんだって書いてきましたが、そんなバリスタになりたい、という気持ちはどこから来るのか、どう成り立つのかということを考えてみるために、「コーヒーを伝えるとなぜバリスタは満足するのか?」ということも考えてみたいと思います。

1.自分がいいと思ったものを共感してもらえる承認欲求
僕自身も最初はこの気持ちでした。苦手だと思っていたコーヒーを飲めるようになったり、美味しいと思えるコーヒーにであって、そんな今まで知らなかった美味しさを他の人にも知って欲しいという気持ちで、僕は家で淹れたコーヒーを大学に持って行って授業の合間に友達に配ってました。自分がいいと思ったことを、同じようにいいと思ってもらえるということは、ある意味自分の価値観や感性や発見を認めてもらえたということでもあって、純粋に嬉しいことだと思います。こうして認められた成功体験があるほど、美味しいコーヒーを伝えるというバリスタの仕事が自分にとって楽しいことだと実感できると思います。

2.生産者が持続的になるという社会性
これは、シングルオリジンコーヒーの大きな意義だと思います。何百、何千というたくさんの農家さんの豆を混ぜて大きなロットにして安定したクオリティで出荷されていくことが流通の大部分なのに対して、農家さんごとに分けて小さなロットで仕入れたコーヒーは、生産の努力も反映されて個性豊かな素晴らしい風味のコーヒーになっていきます。そしてその美味しさの分だけ高い対価で取引ができるため、生産者が持続的になり得るコーヒーなのです。そうやって、飲む人だけじゃなくてつくる人への影響も与えられることは大きなやりがいだと思います。ただ、この人にこういう影響が与えられているとかっていう実感は、コーヒー屋の中でバリスタをしているだけではなかなか得ることが難しいので、生産地に行って生産者にあってみたり、お店の規模が大きくなって1生産者からの豆の購入量が増えたりすると、そのインパクトや意味は感じやすいのかもしれません。

3.チャレンジへの興味と楽しさ
僕がもう1つ個人的に感じていることですが、コーヒーの新しさ、飲食の面白さというところです。コーヒーという普及した飲み物の中で、今バリスタが発信する、シングルオリジンコーヒーや、お店ごとに思う美味しいコーヒーって、まだ世の中に少ないというか、これから広まっていく文化の要素も大きいと思います。そうした新しいコーヒーを広めていくことや文化を作っていくことに寄与できること、そして五感に関わる飲食領域の面白さ、リアルを伝えることの意義。そんなところにもバリスタとしてコーヒーを伝えたいと思う理由はあると僕は思っています。


バリスタになる理由2:コーヒーを突き詰めたい

これはもう少し直感的でシンプルな理由です。とにかくうまいコーヒーを追求したい、もっとうまいコーヒーを作りたいという意思もあると思います。もちろん上で書いたように、誰かに伝わらないと、楽しんでもらわないと意味がないと思うのですが、その一方でコーヒーという液体自体をどこまで美味しくできるかという興味もあると思います。

ドリップやエスプレッソといった抽出もそうですが、焙煎も、もっと根本を考えると豆の仕入れ、生産についても。美味しいコーヒーを突き詰めるという要素は、ある意味職人的というか、アーティスト的な興味や表現なのかもしれません。僕もうまいコーヒーを突き詰め続けたいし、コーヒーに向き合う時間は夢中になれる楽しい時間だと感じます。


バリスタになる理由3:技術を習得して独立したい

いつかお店を出したい、という理由でバリスタに応募する方や、今バリスタとして修行を積んでいる方も多いんじゃないかなと思います。

どんなお店を出したいのかを考えて、そこから逆算して、必要なスキルや経験を積むべきお店が見えてくるんだと思います。

ただ漠然と、お店を出したい、というだけだと何から行動していいのかも見えづらいですし、お店をいつか出したいからここで働きたいとバリスタ採用に応募して伝えても、なぜそのお店じゃないといけないのかという理由が不明確で、ベストなマッチングだと判断されにくいんじゃないかなと思います。だからこそ、自分はどんなお店を出したいのか、どんな人生なら幸せなのかという、ビジョンを明確にしていくことが大事になると思います。

自分の強みを客観視できる能力、人は何を求めているのか認識できる能力、多少のリスクがあっても実行できる行動力、収益を考えられる能力、そんなところがあるほど、よりつくる意味のある、つづくお店がつくれるんだと思います。


バリスタになる理由4:その店、ブランドが好き

単純に好きな会社、チーム、ブランドの中で働きたいという理由もあると思います。お店側も、自分たちのブランドのことを好きでいてくれる人に入って欲しいと思うはずです。

こうした動機は確実にバリスタの応募の時には伝えるべきだし、たぶんバリスタ関係なくどんな業種でも会社の採用であっても、その会社が好き、サービスが好き、カルチャーが好き、人が好きという要素は、何にも変えられない重要な動機になるはずです。だからこそ、どんなところが好きなのか、ちゃんと言葉にすべきですし、好きかどうかを実感するためにもサービスをちゃんと受けて体験してから判断できるといいと思います。


熱を持ち伝えるということ

こういったバリスタとして働く意味や動機がある中で、僕は「熱」が大事だと思っています。コーヒーが好きで、本当に伝えたいと思う熱量があるバリスタを増やしたいし、そんなバリスタがたくさんいるコーヒー屋は絶対に美味しいしいい体験があるし最高だと思います。

熱を持つことと、熱を伝えることはちょっと違うと思います。興味はあるんだけどまだ開花していないパターンや、熱はあるんだけどうまく伝えられないパターン、伝える要素は大きいんだけど熱自体はまだ大きくない。いろんなパターンがあると思います。

熱を持っていると実感するためには、自分の興味にどんどん首をつっこんで行動して、自分の興味関心を深掘っていく経験が必要だと思います。誰もが最初から大量の熱は持っていません。どんなバリスタも最初からこんなにコーヒーを大好きじゃないはずです。面白いなと思ったままにいろんなコーヒーを飲んで、なんでだろうと思ったままに調べていろんな理由や原理を理解して、そうしているうちに自分の熱が大きくなって、そして熱量があるんだと自分で認識できて、自信を持てるんだと思います。

コーヒーの仕事だろうと関係なく、どんな仕事であっても、熱は大事なはずです。そしてその熱は周りに伝搬するし、仕事のクオリティにもあらわれるし、そのサービスの受け手にも確実に伝わります。そして、普段行く中でも、熱を感じる飲食店は最高です。熱があるコーヒー屋は本当に最高です。


バリスタになりたい人も、そうじゃない人も、熱をもって1週間の5/7を占める仕事の時間を熱中できる豊かなものにして、人生を楽しんでいけたらいいなと僕は思います。



川野優馬



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