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競馬の面白さをこの機会に知ってほしい(2)衝撃の馬なり~画面越しでも鳥肌を立たせた最強牝馬~

それは約14年前。僕を競馬好きにさせてくれた衝撃の出会い。今でも忘れない。数多の馬を丸ごと飲み込むかの如く、うなりをあげて駆けていった平成の最強馬ディープインパクト。そのままゴール板前を先頭で駆け抜けた。

画面越しで見ていた僕は、レースが決着しない4コーナーの時点ですでに鳥肌が立っていた。

もちろん、4コーナーで圧巻の動きを見せたところで、そのまま1着になるとは限らない。だが、ディープに関してはそんな不安は一切なかった。もはや4コーナーの動きを見ただけで1着になると確信した。現役最強馬が有馬記念で迎える引退レース、鞍上はデビューから騎乗しているジョッキー武豊。圧倒的1番人気・・・。何もかもそろっている舞台で、あの4コーナーの走りを見れば、僕と同じようにゴール前で確信をし、鳥肌がたったひとも多かったはずだ。そして、これに似た衝撃はなかなか現れない、こんな最強馬を見るのは何十年も先になるだろう、そう僕は当時思っていた。

しかし、昨日5月17日。ほとんど同じような衝撃をテレビの前で感じることとなった。

第15回ヴィクトリアマイルに出場した、アーモンドアイ。

3冠牝馬の称号を獲得、3歳で日本最高賞金のレース「ジャパンカップ」で世界レコードをたたき出した現役最強牝馬である。

今年が引退年。最強牝馬の名を確立し、歴代名馬を超える活躍が期待されたが、そんな彼女でも勝てない相手がいた。

新型コロナウイルス。

今年の初戦とされていた3月末開催のドバイターフ。日本だけではなく海外でも圧勝劇を見せてくれるだろうと期待されたが、コロナにより中止に。

直前まで中止かどうか協議されていたため、中止の発表前には、彼女は現地に到着していた。長距離の移動がストレスになるのは人間だけではない。競走馬もまた、長距離の移動はストレスを抱える。そして人間以上に体調・メンタルにダメージを与える。

だが、中止が発表されたことで、レースをすることなく帰国することとなってしまった。彼女がどう思っているかなどわからない。ただ、実力を出し切って帰国するのと、やる気を出していたにもかかわらず突然中止となり帰国するのでは、これまた人間と同様馬にもストレスがかかっていたはずだ。調教師の方々は、また再度馬の様子を見ながら次のレースを決めていかなければならない。この状況は調教師の方々にとっても初の経験で気を使うことも多く大変だったと思う。

4月、彼女陣営から、ヴィクトリアマイルへの出場が発表された。

そして昨日。レース当日を迎えた。

数字上はオッズ1.4倍と圧倒的1番人気で迎えた。だが、彼女のレベルをもってすればオッズは最低の1.1倍であってもおかしくない。それだけの成績を過去に残しているからである。

仮の話だから何とも言えないが、無事にドバイが開催され優勝し、帰国してこのレースに臨んだとすれば間違いなく1.1倍だったはずだ。

だが1.4倍となったのも、競馬ファンの中では、「臨戦過程に不安がある」「さすがに何もしない遠征後だから、馬に負担をかけないよう軽めにやったのではないか」などとささやかれ、不安視されていたからだと思う。

そんな不安視しているファンも、本音は彼女が優勝することを望んでいたはずだ。あくまでも馬券という観点で本命視していなかっただけで、競馬ファンとしては彼女が強さを見せつけてほしいと願っていたと思う。

そんな一抹の不安もレースを見たら完全に飛んでしまった。

そして僕は、ディープのラストランと同じような衝撃を感じた。

最後の直線。各馬の鞍上がゴール目掛け必死にムチで馬を鼓舞しラストスパートをかけていく中、中団から抜け出した彼女は、まるでレース前のアップかの如く東京の直線をかけていった。鞍上のルメール騎手もムチや必死に前を追うそぶりもない。一頭だけ違うレースかの如く、全く騎手が追わない馬なりの状態で各馬を抜き去っていったのだ。

まだゴールまで100m以上ある中でのその様子。僕は完全に鳥肌が立ってしまった。まばたきを忘れるほど画面の前で固まってしまった。あのディープインパクトでさえ、最後の4コーナーは武騎手がスパートをかけるために追っていた。しかし彼女に関しては、鞍上がほとんど指示することなく、自分の能力で他馬を軽々抜き去っていった。

そして最後は4馬身突き放す完勝。ゴール板を過ぎてもまだ、画面の前で動くことが出来なかった。気づいたときには、肌だけではなく、目も口も体のいたるところが開いたままだった。

衝撃としかいいようがないレースだった。

僕自身も前述のとおり、彼女の臨戦過程を不安視し本命にはしていなかったため、馬券は完全に外してしまった。しかし、その悔しさなどみじんも感じさせない衝撃だった。そしてディープのラストランを思い出し、同じぐらいの衝撃を受けていることを感じたのだった。

今、コロナで各スポーツが時を止めてしまっている。スポーツに携わっているものとしても、非常に寂しくもどかしい日々が続いている。

そして競馬ファンとしては、例年なら、東京競馬場の現地に赴き観戦しているはずだが今年はそれが出来ない。生の迫力を感じられずテレビで観戦。開催だけでもありがたいことなのだが、やっぱり寂しさを覚えてしまう。

だが、昨日のレースだけはテレビ観戦でよかったと思ってしまった。

現地観戦では、あそこまでアップに映る彼女の走りを見ることができない。自分の本命馬を応援しつつ、上位の着順も確認したりと視点が1点に定まらない。

ただ、テレビは当然彼女に注目するため、基本的には彼女中心で画面は遷移していく。ゆえにテレビだからこそ彼女の圧巻の走りを確認することができたのだ。

それほどの衝撃ゆえ、最後の直線からゴールするまでは、コロナで現地に行けないことを忘れていたのだった。

外出自粛によりなかなか心から楽しむことが出来なくなった中、競馬だけはスポーツの中でも続けてくれており、いち競馬ファンとして本当に関係者の皆様には感謝したい。

そしてアーモンドアイ、彼女については競馬が見れるという楽しさだけではなく、圧巻のパフォーマンスを見せてくれたことにより感謝したい。

今年で引退となる彼女。あと何回彼女のレースを見ることができるかわからないが、最後の最後まで勝ち続けてほしい。私たちに毎回衝撃を感じさせてほしい。そして歴代最強馬に君臨ほしい。そう切に願っている。

(レース映像も乗っけておきます。最後の直線のアーモンドアイに注目してみてください。

また、写真は昨年の凱旋門賞です。アーモンドアイは関係ありません)



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