アスリートにとってのオリンピックとは

フォローしてくださっている皆さん、お久しぶりです。

そして初めてこの記事を読んでくださる皆さん、こんにちは。

定期的に書いていきたい、と宣言していたのにかけてなかった自分を恥じます。またここから、定期的にかけるようにしていきたい。

よろしくお願いします。

今回は、どうしても書きたいことがあった。

水泳の関係者として当然僕もこの記事を読んだ。

自分も胸が締め付けられる思いをしたし、コロナを恨み、早く落ち着くことを心から祈った。

ただ、今回伝えたいのはそんなことではない。

問題はこの記事のヤフコメだ。

ヤフコメは戯言が多いから気にするな・無視すればいい、とよく聞くのだが、それにしてもこの記事のヤフコメを見たときに、あまりにひどい、そして彼の気持ち、ひいてはアスリートの気持ちを全く分かっていないコメントが多くて悲しくなった。

瀬戸選手がわざわざヤフコメなどに対し反論することはないだろうから、スポーツに関わる一人として彼の気持ちを代弁させていただきたい。

まず大前提、オリンピックレベルのアスリートにとって、オリンピックとは何事にも代えがたい夢の、そして一番成果を出して輝きたい場所だ。

ここはまず間違いない。同じようなレベルの大会に世界選手権などあるが、オリンピックは4年に一度である。

4年に1回しかチャンピオンになれない、数が限定された特別な舞台だからこそ、どのアスリートもそこに全力を注ぐのだ。

さて、瀬戸選手についてお話ししたい。

彼は4年前のリオオリンピックの時、初のオリンピックで400メートル個人メドレーで銅メダルを獲得した。初出場で銅メダルを獲得というと、普通に考えればすごく喜ばしいことなのだが、彼にとっては違う。

彼が3位に入った400メートル個人メドレーで優勝したのが萩野公介選手だ。

瀬戸・萩野は小さきときからライバルとして切磋琢磨しあっていた。

ここでは詳細は割愛するが、このレースにて瀬戸選手は萩野選手に完敗とも呼べる状況で3位となっている。

おそらくこのレースに関しては、潔く負けを認めていたに違いない。だからこそ、次の東京は俺の番と心で堅く誓ったのだろう。

彼にとっての東京オリンピックはここから始まったのだ。

そこから常に2020年の8月を見据え動いてきた。

彼はこのTOKYO2020に人一倍標準を合わせていると何よりもわかるのが、昨年の世界水泳だ。

2020年の代表選考で内定を得るためには、競泳では2回チャンスがあった。

1:世界水泳で金メダル  

2:2020年の日本選手権で標準記録突破かつ2位以内

この中で、瀬戸選手は1での内定しか考えていなかった。

しかも、ただ内定をとるのではなく、あくまでも東京で【金メダル】を取れるという確約・自信を得られる結果を残すことを考えていた。

だから、400メートル個人メドレーに関しても、過去の国際大会とはまるで違う泳ぎ方で挑んだ。ちょっとだけ解説したい。

通常なら、前半のバタフライで相手を引き離し、背泳ぎでその差をキープ、最後の自由形に力を温存するため、その前の平泳ぎは90ぐらいの力で泳ぐのが彼のスタイルだ。

しかしこの試合では、彼はその選択をしなかった。

平泳ぎの前半の50(250メートル)泳いだ時点で2番手と32.5秒もの差を離していた。こうなれば、後半の50は少し抑え自由形に力を残しておくこともできた。より確実に金メダルを取るには十分な戦略である。

だが、彼は2020での金をとる自信を確かなものにするため、自由形でばてることを見越して、平泳ぎも100の力で泳いだのだ。結果平泳ぎ終了時点で3秒以上の差を広げた。

結果、自由形では相当ばてて、2番手にいた選手からの猛追を受けることになった。観戦していた人たちの中には、まさか・・・?ということも頭によぎった人もいたのではなかろうか?しかし、最後は腕半分の差をもって逃げ切ることに成功した。

レース差だけを考えれば辛勝だ。しかし彼の前回五輪からの3年間を考えれば、金メダル以上の大事なものをこの大会で得たのである。

そこから彼の快進撃は止まることを知らない。

昨年末に行われた短水路の国際大会では、世界記録を更新。

水泳関係者のほとんどが彼の2020の金メダルを確信していたに違いない。

だがしかし・・・。

2020年3月24日。

東京オリンピックの正式延期が発表された。

多くのアスリートが、何も先がわからない真っ暗な洞窟へと放り込まれた。

2週間後、今度は緊急事態宣言が出され、ほとんどの選手が練習すらできない状況へ、洞窟のさらに奥へとアスリートたちは押し込まれた。

真っ暗闇に放り込まれたアスリートたちだが、そこはやはり世界を戦ってきた素晴らしい方々だ。

1年後には東京があると信じて、この1年間はさらに強くなれる期間ととらえ、地道なトレーニングに励む選手が多くいた。

そんな中瀬戸選手は、この状況に相当苦しみ、メディアにもなかなか登場せず、発信するに至るまで時間がかかった。

オリンピックアスリートとしてはほぼ一番最後の発信だったのではないだろうか?

今の自分の現状を発信したのは、緊急事態宣言が施行されてから4日後の4月10日、延期が決まってから2週間以上たったタイミンだった。

しかもその内容に関しては、他の選手たちとは違い、自身の気持ちを正直に吐露した、お世辞にもポジティブとは言えない内容だった。

「喪失感で抜け殻になりました。今でもまだ完全に切り替えられない日々が続いています。」と。

彼がなぜほかの選手のように切り替えがなかなかできていない状態なのか。

ここからはあくまでも僕の想像で見解をお伝えしたい。決して彼を代弁できます、というつもりはない。そのつもりで読んでい頂きたい。

大前提、多くのオリンピックレベルのアスリートたちと、瀬戸大也選手のおかれている立場は同じようで全然違う。

彼のように昨年の世界水泳で得たオリンピックでの金メダルがとれるという確信を、同じように持っている選手は、今の日本ではほとんどいないのではないか?(いるとしたらバトミントンの桃田選手ぐらいか)

瀬戸選手とそのほかのアスリートとで大きく違うのが、「現在地」

いうなれば、瀬戸選手はすでにエベレストを登頂している。しかしほかの選手は、今まさにエベレストの頂上を目指し登っているところだ。

ほかの選手が今の状況に求めているのは、登頂であり、頂上を目指して地道に地道に登っていくところだ。ということはつまり、登頂期間が長くなればなるほど、もちろん登山中の期間は辛いが、より登頂成功のチャンスが広がる。

しかし、瀬戸選手はすでに登頂済みだ。あと彼がやることは、登頂成功しようとする選手に追いつかれないように、エベレストにさらに土をもって自分だけが一番上の頂に居続けられるようにしていくことである。

エベレストの頂上に居続ける、ということは空気の薄い状態にずっと身を置かなければいけない。相当の体力・気力を使うのだ。そのような過酷な状況でも、昨年の優勝からの自信からくるアドレナリンで、彼は1年間その環境を乗り越えて優勝できるイメージがわいていたに違いない。

そんな彼にとって、オリンピックの延期、そして中止もありうるこの状況は、残酷以外の何物でもない。登頂成功したという事実がまるで夢の話だったかのような、喪失感が彼を襲ったのだ。

そして、もう一つの別観点でも苦しい思いを彼はしていると思う。

妻である優佳(旧姓:馬淵)さんの存在だ。

ゆかさんは、彼の夢を応援するため、アスリートフードマイスターの資格を習得している。

オーストラリアなどどんなに遠方の合宿でも必ず帯同し、栄養面でのサポートを実施ししている。

子育ても大変な中、夫の栄養管理も行い献身的に彼の夢のサポートをしている。

瀬戸選手はどんな状況でも勝てる最強の男になろうとしていたため、世界水泳の前年から海外を常に転戦し続け、長期の合宿もたびたび行っている。できるだけ彼女もそこに帯同しているのだ。

1人の奥様としても当然大変な中で、さらに毎日の献立も考えたくさんの料理を作り、そして子育ても実施。並大抵のことではない。

夫婦二人三脚でこの2020年に臨んでいた。

彼にとって、献身的にサポートをしてくれる奥様の存在はありがたいものだったが、だからこそこの延期という状況は、さらに1年大変な思いをさせなければいけない、という申し訳ない気持ちもあったと思う。


長々書いてきたが、僕がこの文章で言いたかったのは、

瀬戸選手が、日本人の誰も経験したことのないような環境に身を置いており、この2020年に命を懸けて臨んでいた、ということだ。

このヤフコメにあるような「所詮その程度」「そんなんじゃ勝てない」などといった心無い言葉を見て、本当に瀬戸選手がどのようなステップでこの2020年に挑んでいるのかをわかっていないくせに発信されているということに非常に悲しくなった。

4年間で積み上げてきた、確固たる自信、それも直前に確固たるものにしたのではなく、絶対王者になるために昨年に確固たるものにした、その驚異的なプロジェクトの成果に対し、経験したこともないような人たちの軽はずみな発言がされていることに大きな怒りしか覚えない。

もちろん低俗な発言ということで処理をしてしまえばいいのだが、それにしても目に余ったので、文章にしたいと思い書かさせていただいた。

彼が発した正直な気持ちは、彼が弱いからではなく、

最強の座をあと数センチでつかみかけていた時に、根元から崩されてしまったことによるものだからだ。最強だからこその思いなのである。

最強の座をつかみ取る瞬間を目の当たりにするために、彼を温かく見守り応援してほしいと心から願っている。





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