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不思議な声

Sさんは職場関係の人だ。
私より年は10ほど上だが、
職場の重要な役職に長く就いていたので
今でも時々お話しするし、
在任中はとてもよくしていただいた。
のんびりしていて、優しくて、癒やし系。
奥さまのおっしゃる通り少しシャイな方だ。

さて、そのSさん、
シャイだからか声が小さい。
目の前にいたら普通にお話しできるけれど、
会議で遠くに座られたら
ほとんど声が聞こえないのだ。
ある日、大きな会議があり、
議事録を書かないといけない私は、
ひとこともSさんの言葉を聞き逃すまいと
議長のSさんの真ん前にICレコーダーをセットした。
これで議事録は完璧だろう。

年に一度の大きな会議は無事に終わり、
後日、議事録を書くために
私はICレコーダーを再生した。


無音だった。


いや、正確に言うと
Sさんの声だけが無音なのだ。

ウソやろ⁉
こんな事あるんか?と
ICレコーダーにイヤホンをつけて
何度も聞いてみたのだが、
ホントのホントにSさんの声が
Sさんの声だけが聞こえないのだ。

マジかーーー!

しょうがないので議事録は
紙より薄い私の記憶を掘り起こして
なんとか書いた。
その次の年からは
ICレコーダーじゃなく
私のメモが頼りになり、
私は会議の間中、Sさんの発言を
シャーペンで机をカツカツ言わせながら
書きに書きまくった。
こんがらがったメモを
ある程度適当にまとめても
Sさんは議事録にOKをくれたので
そこは助かった。

その後、私以外の人も
何度か場所を変えたりして
チャレンジしてくれたけれど、
やっぱりSさんの声は入らなかった。
ICレコーダーをそのために買い替える訳にもいかず、結局Sさんの声はICレコーダーに入らないまま、
任期は終わった。

今でも多分ご本人は
ICレコーダーに声が入らないことをご存じないと思うが、
実は職場ではその話が伝説のようになっている。
何も知らない人が
「あれ都市伝説じゃなかったんですか!」
とたまに驚いている。
周波数の関係で鈴虫の声が電話では聞こえないというが、Sさんの声とICレコーダーは
そういう関係なのかもしれない。

ホントにホントの不思議な声の話だ。

(了)






















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