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パパの日

どろどろブラックな重たい話なので、
ご興味ない方はどうぞスルーしてください。
こちらの話は5月12日に書いたものです。

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今日5月12日は、父の83歳の誕生日だ。
生きているかどうかは知らない。

5月12日が母の日になるのは
調べてみると5年に一度くらいはある。
その昔小さな私は、幼稚園の先生に、
ちちのひーと言って自分の乳をアピールし、
ははのひーと言って自分の歯をアピールしていたそうだ。
ということで、本日は私にとっては
母の日だが父の日だ。

父は私が小学生の高学年の時にいなくなった。
その前から少しずつ家に帰ってくる日は少なくなっていたので、そっと消えた感じだ。
父がもう帰って来ないことは
誰からも知らされなかったが、
何となくわかった。
私は布団の中で母に聞かれないように
毎晩声を殺して泣いた。

小林旭に似ていた父は子どもの私からしても
めんどくさい人だった。
酒に酔って母を殴るのは日常茶飯事で、
それを止める私も家を追い出されて
入れてくれと泣いてドアを叩く私を見た隣人が
「今度追い出されたらウチにおいで」と
言ってくれたこともある。
今は面前DVというらしい。
そんな人でも、私は父を嫌いにはなれなかった。
なんとなく気が合っていたのだと思う。
父は自分の母を早くに亡くしたので
その当時TVでやっていた行方不明だった肉親を探して会うという番組を見ていつも泣いていた。
そんなに肉親愛が強い人が
浮気して妻子を捨てて出て行くなんて笑える話だが。

父が出て行った後も
私は父に何度か会った。
一度は父と再婚した嫁の家に泊まりに行ったこともある。
父は「一緒に住まないか」と言ったが、
私は「パパにはあの人がいるけど、ママには私しかいないから」と言って断った。
それは嘘だった。
母には父と離婚する少し前から付き合っていた彼氏がいた。今の継父である。

まだ父が家にいた頃から
週末は母に彼氏の家に連れて行かれた。
行くのはイヤだと何度言っても無理だった。
彼氏と会う為に私をカモフラージュに使ったのだろう。
住んでいるマンションの窓を開けて軍歌を大声で歌い、酒を飲んで偉そうにしている自分勝手な彼氏やその友人達の宴会に付き合わされ、
妻のような顔をして甲斐甲斐しく働く母を眺めて、ただ流れる時間を耐えた。
帰るときには「パパには◯◯(いとこ)ちゃんのとこに行ってたって言いなさいね」と母に念を押された。
これもある意味虐待だったのかもしれない。

父には再婚した嫁、
母には彼氏がいた。
私には誰もいない。

果てしなく孤独だったあの頃の私の気持ちを
多分あの人たちは知らない。
体重は10kgほど減ったけど
成長期だからねと
男に夢中の母は気にもしてくれなかった。

死にたいと思って、でも怖くて何もできなくて
私は戸棚の尖った取っ手に手首を打ち付けた。
血など出るはずもなく、
ただ赤くなっただけだった。

父はその後、祖父が(祖父の)内縁の妻の息子の保証人になったため、借金を背負いかなり苦労をしたらしい。
祖父の内縁の妻の息子は商売をしていたのだが、
多額の借金とひとり娘を残して夫婦で死んだ。

最後に父に会ったのは
高校生の時だった。
どこかにドライブに連れて行ってくれるのだと
オシャレをして車に乗り込んだ私に
2万円を渡して
「お前どっか行くんか。ええ格好しとるのう」
と言って、そのまま帰って行った。
ちなみに父は私の養育費を一銭も払っていない。
離婚の慰謝料として母のために喫茶店を建てたので
それで満足したのかもしれない。
その後、新しい嫁への結納金がないと、
母の所に押しかけて、40万取って行ったとは聞いた。

最後に父の声を聞いたのは
就職して2年目の時だった。
母に就職先を聞いたらしく、
偽名で電話をかけてきた父は
開口一番
「お前に妹ができたぞ」と言った。
20以上離れた異母妹ができたと言われて
喜ぶ娘がどこにいるのだろう。
職場は私用電話は禁止なので、
もう電話をかけてこないようにと
複雑な気持ちで私は言った。


それからずいぶんの年月が経つが、
父が今どうしているのか私は知らない。
調べるつもりもなく、
二度と会うつもりもない。
実家が京都に引っ越す際に、
父が昔残して行った
父の子供の頃のアルバムをどうするかと
母に聞かれたが、処分して欲しいと頼んだ。
私が持っていてもどうしようもない。
私が死んだあとに誰かが捨てるだけだから。
久しぶりにめくってみた布の表紙のアルバムには
幼い父と家族の写真や親からの書き込みがあって、
父はちゃんと親に愛されていたのだなと感じた。


父には感謝の気持ちなど微塵もないので、
私という娘がいるということも忘れて欲しい。
そして次に生まれ変わっても、
私の人生には関わらないで欲しいと心から願う。



パパ、お誕生日おめでとう。

(了)























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