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本当に怖くない猫の話 part.12

何でも屋は、月に1回依頼人が病院に行く日に猫を預かっている。預かるといっても、彼女の家に行くので留守を預かる形だ。依頼人は通院の日に髪を切ったり甘味を買ったりあらゆる用事を済ませてくるのでいつも帰りが遅い。

お手伝いさんもいて、3食には困らないが、屋敷の主人のいない家で1日を過ごすのは、何だか落ち着かない。普段彼女とお茶しているときには、彼女が食べきれなかったおかずをご相伴にあずかるくらい図々しいというのに不思議なものだ。

依頼人の屋敷は二匹と一人には広すぎる。一軒家に一匹を一人で暮らしている何でも屋がそう思うぐらいだ。東京の郊外にこんな自然に囲まれた屋敷があるなんて何でも屋は思っても見なかった。森の奥、どこか人里離れたこの場所には、何軒か家もあって、バスまで留まるのには驚いた。生活には何の不便もない。おかげで何でも屋はしょっちゅうこの依頼人の屋敷に来ている。

その日、出かける前に彼女から頼まれ事をした。いつも予定や都合を聞かれるのだが、その時は有無を言わせぬという感じなのが少し気になった。

「猫を飼えなくなった女性がいるんです。明日、その人から猫を引き取りに行ってもらえますか」

何故飼えなくなったのか事情を説明もされず、住所と連絡先を渡された。忙しい身でもないので、いつだって彼女の依頼を優先するつもりだが、ただでさえ愛想のない彼女の声がいつも以上に平坦なのが気になった。

翌日、何でも屋は依頼人の地図を頼りに猫を引き取りに行った。似たようなアパートがたくさんあって、迷いに迷ったすえ、汗をかいてしまった。このアパートの部屋の号室であっているだろうかとドキドキしながら待っていたら、扉が開くと同時に外以上の熱気が何でも屋の顔を襲った。

「どちら様でしょうか」

「依頼を受けて猫を引き取りに来たんですが」

何でも屋が簡単に玄関先で事情を話すと、部屋に住む高齢女性は最初は面食らった顔をしたものの、部屋に上がるよう言った。外より熱気でむんむんしていそうな部屋の中に入るのはためらわれたが、台所を抜けると、居間の中は冷房が効いてずいぶん過ごしやすくなっていた。

しかし、ひやりとした冷気を感じてほっとしたのもつかの間、シャーッという猫の威嚇の声がして、さっと足を引っ掻かれてしまった。

「こら!ごめんなさいね。他人をあげることなんてないもんですから、人見知りみたいですわ」

1LDK一間の小さな家の住人の女性の話し方は殊の外上品でおっとりして、自分の飼い猫が客人を傷つけたことに慌てもしないどこか浮世離れしたところを感じさせた。

「あの子が、あなたにお願いしたんですか?あの子は最近・・・いえ、ちょっと病気をしまして、入院することになりましたから、それで猫の引き取りをあなたに頼んだんでしょうね」

途中で言葉をきった先は、依頼人の近況を聞きたいようだった。依頼人は病院通いをしている。命にかかわるものではないと聞いているが、持病で病院通いが続いているのに、元気にしてますよと答えるのも違う気がした。

「そうだったんですか。それで、猫はどこか保護団体に預ければよろしいですか。しばらくだったら、私が預かりますよ」

依頼人の近況をどう伝えるべきか分からなかったので、何でも屋はとりあえず必要なことを聞いた。肝心の猫は部屋のすみで警戒しているのかどうか丸くなっていて、何でも屋が飼っている黒子猫と相性が合うかは未知数だ。

「え?あの子が引き取ってくれるんじゃないですか?」

女性に当然のように言われ、何でも屋は答えに窮した。どうこたえるべきか迷ったが、とりあえず引き取ってこいと言われたのだからと、「そういえばそうですね。とりあえず、どうするか聞いてみますか?」と依頼人にその場で電話することを提案すると、女性はそこまでしなくて良いと断った。

「引き取るというのは引き取るってことでしょうから、確認はいりませんよ。ただ、うちの猫は暴れん坊で手がかかるから、持て余さないかしら。本当は猫なんて飼うつもりなんかじゃなかったんだけど、居座られてしまったんです。私の弟に頼んだんですけど、引き取ってくれなかったみたいですわ」

女性の口ぶりからすると、彼女は依頼人の母親のようである。しかし、依頼人のあの維持にお金のかかりそうな屋敷でのお金に困っていなそうな暮らしぶりからして、女性の部屋も身なりもあまりに質素だ。ただ、女性の顔立ちには血縁を思わせるところがあるし、雰囲気も何となく似ている。依頼人の方がもっとざっくばらんな感じだが、女性は少し歳を重ねているせいか、言い回しが思わせぶりである。

娘に頼まず、猫を弟に頼むということは離婚でもしたのだろうか。娘との関係性がよくないのか。気にはなったが、話さなかったということは依頼人が詮索されたくなかったのかもしれないので、何でも屋は何も聞かないことにした。

女性の猫は確かに警戒心が強いようだった。何でも屋が近づくと、シャー威嚇する。それでも、何でも屋は最近かの動物王国を作った動物学者の先生の本にはまっていて、きっと捕まえられるはずだと信じて、しばらく女性の部屋に居座らせてもらうことにした。女性に捕まえてもらってキャリーにいれてもらえばよいのだが、触れもしない猫を持ち運ぶのはなるべくなら遠慮したい。

女性に寄ると猫は雄で、この2階建てのアパート周辺を縄張りにしたボス猫だったということだ。洋種の血が濃いのか、毛足が長く目が青く見た目が良いので近隣住民は飼おうと努力して餌付けしていたようだが、どうしても人前で餌を食べず、誰の手も受け入れない孤高の猫だったらしかった。それが、たまたまアパートの前の駐車場のある前庭で女性がふらついてうずくまっていたら、そのボス猫がすりすりと体をこすりつけてきた。その時はその猫がまだそんな怖い猫だと知らなかったから、猫に懐かれたのが初めてでうれしくなって撫でてやったら膝に飛び乗ってきた。どうしようかと迷った末、膝から無理に下ろすのもかわいそうで、アパートの裏手に回って、1階の彼女の部屋の縁側の窓を開けて、そこでしばらく抱っこして一緒にひなたぼっこしていた。それがよくなかったのか、ボス猫はその日から彼女の部屋の前に毎朝毎晩現れるようになった。餌はやらないつもりだったが、それを見た近所の人から差し入れられた。

「絶対懐かない猫だと思っていたのにうらやましいわ」

周囲にうらやましがられても、猫など飼ったこともないし一人暮らしで面倒みられるかも不安だ。けれども同じアパートの住人が勝手に大家に猫を飼う許可を取り付けてしまった。いきなり大家から電話がきて、「近所のアイドル猫を懐かせるなんてすごいですね」と言われて、初めてその猫がそんな凶暴猫だったと知った。女性は諦めて、その猫を飼うことにしたが、初めは慣れなくて、しばしば猫を脱走させてしまった。そして、猫は1度大けがをして帰ってきた。推定3歳の元気盛りのオス猫でも噛まれることがあるのだと女性は驚いた。ただでさえ皮膚病を患っていたのに、さらに病院代がかさんだ。風呂にいれるのも大仕事で、薬を塗るのも、ブラッシングも大変だ。猫は腹に毛玉を溜めてしまうというが、その猫は自分で毛づくろいをほとんどしなかったのだ。

ある日、女性が脱走した猫を駐車場で抱え上げようとしたところ、散歩中の犬の前に立ちふさがって威嚇した。多分、自分を守ってくれようとしたのだろうと、女性は信じている。大きな犬が泰然とした態度で怒りもしなかったので、事なきを得たが、興奮した猫は抱っこした後に女性に爪を立てた。どくどくと血が流れるほどのひっかき傷だった。守るつもりで怪我をさせられたら世話はない。女性は厳しく猫を叱った。すると、猫はそれ以来爪をあまり立てなくなった。

とはいえ、部屋の中は猫のひっかき傷だらけだ。部屋を退去するときの補修費用で頭が痛いと女性が言っていた。猫がいなくなっても、部屋の壁中の爪痕はなくならない。

こちらが寄っていくのではなく、猫が寄ってくるのを待てばいい。大先生本の中の言葉に従って恥ずかしながら猫の声まねをしておびき寄せたら、奇跡的に猫の方が寄ってきてくれた。

「さすがに、プロの方は違いますね。私以外にこの子が懐くなんて」

女性が感心してくれたので、まさか本の受け売りでプロなんかじゃないですよと何でも屋は言えなかった。猫プロ。そんなものあるんだろうか。

キャリーに入った猫は異様なほどおとなしかった。眠ってしまったのか、身じろぎの音すら立てなかった。初対面の人間に握られた籠の中で悠然と寝られるとは、確かに大物の気配がする。

猫と離れる女性の方が泣いた。もう3年も飼っていたというから情が湧いて当然である。退院されたら、また一緒に暮らしたら良いですよと何でも屋が言ったら、「どうせ薄情だから、猫の方が私のことなんて忘れてますよ。あの子の方が贅沢させてあげれれるでしょうしね」と女性は強がっていたが、依頼人ならきっと女性に猫を返すと何でも屋は思った。

もう猫と会えない病気なのかどうか、女性に聞くことはしなかったが、猫を引き取った何でも屋の気持ちは重かった。通い慣れた依頼人の屋敷の扉を開けるのに、緊張した。しかし、帰るときにはもっと扉が重く感じた。

「キャリーごとこの中に入れてください。その猫、エイズキャリアなんです。クロちゃんやうちのと一緒にできませんから」

部屋に入ると依頼人にそう言われ、何でも屋はキャリーの口を開けてすぐキャリーごと巨猫を3階建ての大きなケージの中に放り込んだ。猫はしばらくシャーシャー威嚇していたが、依頼人と別部屋に移ると猫の声は聞こえなくなった。

居間に入ると、いつになく黒猫と三毛猫に大歓迎された。夕飯をご馳走になった後に、今日の報告を依頼人にする間黒猫は何でも屋の膝に前脚をかけてくつろぎ、三毛猫はまるで飼い主にするごとく何でも屋の膝の上でまるくなっていた。

「伯母さんもぎりぎりまで何も言わないから。一緒に住もうって言っても聞いてくれないし、見栄っ張りで意地っ張りなんですよね。退院したら、聞いてくれたら良いけど。私が行ったら、いろいろと喧嘩になると思ったんです」

おばさん。その言葉を聞いて、決別した母と娘とかあらぬ想像をしていた何でも屋はとてもほっとした。もう依頼人とは茶飲み友達と言える間柄であるし、流石に母親が入院するのに会わないつもりであれば口を挟んだ方がいいのではないかと悩んだのだ。おばさんで、さらに見舞いに行くつもりもあるというなら何よりである。今更感があって聞けなかった依頼人の下の名前もその”おばさん”の口から聞けたのも収穫だ。

しかし、依頼人は猫が来てほっとした様子もなく、今朝と変わらず不機嫌そうであった。内弁慶らしく、話が乗れば饒舌だがそうでなければ無口な依頼人だが、今日は特に自分から世間話をする気がなさそうであった。その割に夕飯を食べていけというし、話が済んだらすぐ帰っていいような雰囲気でもない。

「もし猫が死んだら、わたしを引き取ってもらえますか?」

唐突な言葉だった。猫を撫でて見るともなしにテレビに視線を向けていただけの何でも屋は聞き逃さなかった。思わず口をついたのだろうか。言ったあと、依頼人は自分の言葉に呆然としたようだった。

何でも屋は依頼人を見た。彼を呆然と見ている彼女をじっと見た。ボーンボーンと壁掛けの古時計が時を告げる音がやけに大きく聞こえた。

「いえ、ちょっと間違えました。この茶トラの猫を飼うので、三毛猫を今日から引き取ってもらえませんか。エイズキャリアの猫と一緒に飼うのは不安ですから」

何でも屋が口を開く前に、依頼人の方がそれを遮って口を開いた。間違えたというのは、「私が死んだら、猫を引き取ってもらえますか」というつもりだったということだろうか。そういう風には聞こえなかった。彼女は間違いなく思ったことを言ったのだという気がした。そして、何でも屋は自分が口にしかかった言葉を改めて言い出す勇気はもてなかった。猫がいなくならなくてもー。

なぜ三毛猫のセミの方を手放すのか。一時的な措置だと依頼人は言ったが、何でも屋はそんな風には信じられなかった。何でも屋が連れてきたら、三毛猫にはいつでも会うことができるといえば確かにそうで、三毛猫は我儘でもなく、何でも屋の家にも慣れているのですでに黒猫を飼っている何でも屋にとっては巨猫よりずっと二匹は飼いやすいかもしれない。しかし、広い屋敷なのだから、猫二匹を引き離して飼うことは不可能ではなさそうである。それでも、万が一が心配なのか。

「あの巨大猫の方をうちで飼わないと。そうしたら、おばさんもうちで一緒に住むことの口実になるかもしれないし。ずっと通ってもらってるのも悪いと思っていたんです」

「通ってる?」

「何度か会ってますよね?・・・あ、家のことをいろいろ手伝ってくれて、助かってるんですけど、伯母は小言も多いし世話好きで。ちゃきちゃき働かれると、いつもここでぼうっとしているのが気まずいんですよね!」

何でも屋の気まずさを察したのか、依頼人がとりつくろうように明るい声を出した。お手伝いの家政婦さんか何かだと思っていた女性は、伯母さんだったのだ。ということは、以前聞いた台所の猫の饅頭の話も伯母さんとの出来事だったのだろうか。

それで、女性は、部屋を訪ねた時に驚いた顔をしたものの、すぐに部屋の中に入れたのだ。病気とか個人的な家族の事情をいきなり話し出したので、ずいぶん警戒心がないと思ったら、顔見知りだったからなのだ。名刺を出した時にこちらが初対面と思い込んでいることに気づかれなかったのは幸いだったと何でも屋は思った。いつもすれ違うだけで、屋敷ではいつもエプロンをつけて化粧もばっちりだったので、同一人物のように見えなかった。

ただ、初対面と思って彼女の伯母さんと接したことを依頼人に気づかれたのはいたたまれなかった。

もう今日はいろいろ気が思い。伯母さんがいない日は自分で料理するという依頼人がわざわざ夕飯を自分を待って多めに作ってくれたのだと思うと、さらに腹が満たされて重い。嫌な気分では決してないのだが、何となくもやもやするものがあって、キャリーの中ではしゃぐ二匹が恨めしかった。

機会を見て、三毛猫のことを依頼人に相談しなければならない。おばさんが退院するまで大きな屋敷で慣れた猫もおらず一人暮らすのは寂しいだろう。

何でも屋は彼女の部屋があるらしき明かりのついた2階の窓をなんとなく見上げた。

すると。

「ちょっといいですか」

後ろから声がかかった。何でも屋は振り返った。そして、驚愕した。人生で一番の驚きで、驚きすぎて初対面の相手に促されるまま二匹と一緒に車に乗ってしまった。

「娘から私のことは聞いていなかったようですね」

上品な感じのする高齢の紳士と、何でも屋はとにかく高級な感じのする料理店の個室で向かい合っていた。もう娘さんのところで、ご飯を済ませましたと言える雰囲気ではなかった。こんなところに猫を連れてきてよかったのかと思ったが、向こうもまさか猫連れとは思わなかったらしいので仕方ない。キャリーの中で二匹おとなしくしてくれているのが幸いだった。紳士も気を遣って、猫と早く家に帰らなければならないだろうと、1時間ほどで食事と話を終えてくれると約束してくれた。

「聞いていなかったですね」

家族事情どころか、娘さんの名前すら今日知りました、とは言い出せなかった。多分、相手は、自分があの邸に何度も通っていることを知っているのだろうと思った。ドラマに出てくるような身上調査みたいなものをされているとしたら、特にやましいところはないが、あまりに何もないしがない身過ぎて恐縮だ。何でも屋は初対面の気まずさで、とにかく食事を口に運ぶことに専念した。たとえお腹いっぱいであっても、この状況を早く終わらせるためには皿の上のものを早く片付けなければならなかった。

「娘は早くからあの家に暮らしていまして、家に帰ってくることがないからあまり会わないんですよ。私もわざわざ会いに行くには忙しくて。まあ、元気そうだから、いいんですが」

確かに忙しいに違いない。このご時世高齢を理由にするには、彼の仕事は責任が重大すぎた。

目の前に総理がいる。そのプレッシャーで何でも屋は食べた。彼女が総理の娘だと気づかなかった自分が悪いのか。いや、気づくはずがない。何でも屋は総理の名前を知らなかった。字面では知っているが、読み方が分からない。漢字一字だが、読み方が3種類くらいあってどれかわからない。まあ、わからなくても、こちらから名前を呼び掛けて良い身分じゃなさそうだから、困らないだろう。敬称がさんでいいのかもわからないので、絶対こちらから話しかけたくないなと何でも屋は思った。依頼人と同じ苗字なのだから同じ読み方だということは、緊張のあまり失念していた。

「ちょっと頼み事があるんだ。この人たちを調べてくれないか」

総理に頼みごとをされた!何でも屋の緊張は頂点に達したが、それでもナイフとフォークを持つ手は動いた。話しながら食べるのはマナー違反じゃないかと思う余裕はなかった。

「私は探偵ではありませんよ。身上調査とかできる技術も知識もありません」

身上調査するどころか、やっぱり日本の総理大臣に自分は身上調査されたんだと思った。思ったが、まあ本当に後ろ暗いところはないのでそれに不安はない。それより、買いかぶられる方が問題である。依頼人が何でも屋のことを父親に話しているとかは夢にも思わなかった。

「そうなんですか?いや、そんな特殊な技術はいらないと思いますよ。そうですね、それなら彼らに見合いを用意してあげてくれませんか?」

「見合い?私は、結婚相談所の社員じゃありませんよ。浮気調査はともかく」

何でも屋は断りつつも少し見栄を張った。浮気調査の経験なんてじつはほとんどない。一度そのつもりで行ったら、他所の旦那に今から妻と浮気相手との密会現場に踏み込むからと無理やり突き合わされた経験があるだけだ。まさに修羅場だったが、自分がいたことで警察沙汰になるような殺し合いに発展しなかったのであれば十分良いことをしたのだと思っていた。思っていたが、それ以来、浮気調査の類はぜんぶ断っていた。同じ調べたり探したりするなら、猫探しくらいで何でも屋は満足だった。

「そうですか。じゃあ、ちょっとプロにあなたのアシスタントを頼もうかな。とりあえず、引き受けてもらいたいんですよ。というか、見極めてもらいたいんです、彼らを」

総理は近くにあった丸テーブルを引き寄せて、高級そうなアタッシュケースから、4枚の履歴書のようなものと4人の男の顔写真を乗せて、何でも屋に見せた。

「彼らは、それぞれ家柄がよく学歴がよい。趣味はそれぞれのものもあるのだが、人好きのするところがあり猫好きで甘党。その人好きのするところが、私の娘の関心をひくためでないかは気になるところです。私の娘はもういい年ですが、多分結婚する気はないし、娘に結婚をすすめてやれるほど、いい父親をしてきてないんですよ。でも、娘の意にそわないことを無理強いする気にならないとはいえない。だから、私がその気になる前に、この優良物件たちに野心がないか見極めてほしい。そして、野心があるなら諦められるよう別の見合いを用意してやってほしいんです」

流石に何でも屋の料理を口に運ぶ手が止まった。猫の見合いの次は人間の見合いの依頼か。猫の見合いすらままならない自分にどうしろと?

疑問を口には出せなかったが、総理は結果は求めないと言った。見合いが成就しなくとも、それなりに努力して見極めてくれればよいと。なぜ、自分が見極めなければならないのか。自分が彼女の友達だからか。

多くの疑問を飲み込んで、料理も無理やり飲み込んで、何でも屋は痛む腹を押さえて家路についた。初めて食べた高級料理も高級外車の乗り心地も味わう余裕なんてなかった。ただ疲れて、猫たちをキャリーから解き放つと、遊んでやるのもそこそこに風呂にも入らず泥のように眠りについた。

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