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本当に怖くない猫の話 part.8

何でも屋が子猫を飼い始めて1ヶ月が経った。名前はまだない。いや、最初は世間で人気の名前にしようと思ったのだ。しかし、せっかく黒猫なのだから、見た目に合う名前にしたいと思った。

とはいえ、 某アニメの猫とか”クロ”という名前にしたら、脱走したときに他の猫と区別がつかないかもしれない。飼い猫じゃなくても、クロクロと呼ばれている野良猫がいたら振り返ってしまうかもしれない。今は子猫だから良いが、大人になって他の黒猫と区別をつけられる自信が何でも屋にはなかった。

とはいえ、他人に預けるならそろそろ名前が必要だろう。何でも屋は、いつも贔屓にしてもらっている依頼人に頼まれて、猫の捜索をすることになっていた。いわゆる猫の探偵である。そういう”同業者”の知り合いがいると依頼人に紹介され、猫専門ではないつもりだがとりあえず会って話を聞いてみることにした。猫の捜索に10日で20万円以上!金額に驚愕したが、交通費や宿泊費や捕獲機など諸々の経費で聞いてみればそれなりにお金がかかることが分かった。確かにホテルに9泊なら、朝食付き1泊4000円のビジネスホテル4万円弱かかってしまう。今度依頼を受けたところは九州なので、格安航空を使っても往復だけで4万円弱かかるのだ。それに食費に通信費、他の仕事に時間をさけないわけだから、10万円以上にしなければ赤字になる。しかし、一つの仕事に10万円以上請求する勇気がないと相談したら、依頼人の方から新規の依頼人に相場で希望の金額を聞いてみると話してくれた。延長4日まで無料の20万円。儲かるのかどうか微妙なところだが、お金をかけずに遠出ができると思えばよいのかもしれない。しかし、ビジネスホテルに猫を連れてはいけない。ペットを飼うと、遠出を手放しに喜べないものである。子猫を連れていくなら、余計に高く代金を請求しなければならなくなるから仕方がないのだが、それなら、知り合いの旅館に無料で泊めさせてあげるという依頼人の好意に甘えてしまう気にはなれなかった。このご時世、旅館の経営だって苦しいはずで、タダで居候するのは気が引ける。この際、今後同様の仕事を引き受けることもあるのかもしれないのだから、できるかぎりの経験を積んでおくに越したことはない。猫探しについては素人ですよというのは向こうも了解済みである。

まだ、飼って1ヶ月でいきなり10日の留守番である。留守番というより、依頼人の家に預けるのだが、その間に誰が飼い主か忘れられてしまいそうだ。とはいえ、猫と自分の食い扶持を稼ぐためである。

とりあえず、自分と頃の猫で猫探しの練習をしようと試みた。

「おーい、出ておいでー」

声をかけたが、何分一人住まいには広すぎる親戚からの無料の借り一軒家なので、どこにいるかわからない。というか、大抵その辺に転がっている箱の中で眠り込んでいるのだ。寝ている間は声をかけても返事をしないと決めているようだ。それはそれでヒントにはなるのだが、探し猫は飼い猫10年のキャリアの持ち主で名前もある。せっかくならとカクレンボの要領でやろうと何でも屋がまずは隠れ役になってみた。

猫にとっては大迷惑で、起きたらご飯が用意されていなかった。にゃあにゃあ鳴くがごはん係の姿が見えない。飼い猫の気持ちも知らず、チビクロが悲し気に泣いて近づいてきたタイミングで、バーンと何でも屋が飛び出してみた。

子猫はびっくり仰天である。手裏剣を投げられた忍者みたいに後ろに飛び退ってひっくり返った。何でも屋の方も子猫の驚きようにびっくりである。その日はよそよそしくなった子猫のご機嫌を取ろうとご飯の後には、猫が飽きるまで3時間ほどボール遊びをしてあげて後悔いっぱいで寝てしまった。

ところが、翌日の朝には子猫の姿が見えなかった。昨日驚かせたせいで嫌われたかと家中探し回ること数分、諦めて戻ったベッドの下から子猫が飛び出してきた。何でも屋は大して驚きはしなかったが、心配していたので心からほっとした。抱き上げて撫でてやれば子猫はいかにも得意げである。その日は買い物代行の仕事に出かけるまで、頭隠して尻隠さずの子猫とのカクレンボが延々と続き、新しい遊びを発見した子猫は大満足していたが、飼い主はくたびれ果ててしまった。

しかし、仕事から帰ってその日の夜に眠りにつく時には、ケージの中でジタバタ暴れる子猫を見ながら、この楽し気なやつを置き去りにして出稼ぎに出るんだなとなんとも言えず寂しい気持ちになったのだった。

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