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「Story Seller」ではなく「ストーリー・セラー」

新潮社の”面白いお話、売ります”の多様な作家の短編集ではなく、有川浩さんだけの幻冬舎から出版された「ストーリー・セラー」本である。新潮社の方にも有川浩さんの名前があるので、もしかしたら、そちらにも収録されている話なのかもしれない。

空想の世界の空想の病。考えることが命を縮める病気
寿命を削っても書きたいという欲求。
書くことで得られた愛と書くことで訪れる別れ。
空想の世界に没頭することで、浮き彫りになる現実の醜さ。
専業作家の妻を理解してくれる理想の夫。
夫という読者のために書く妻。
書くことに専念する時間ができるほど、削られていく現実の時間。

書くことに悩み、苦しみ、幸せを感じる人の話2本・・・なのかもしれないが、結局は悲劇である。
Side:Aは、作家になった途端口を出す家族。金の無心。そして、気づかされる壊れた家族の現実。目を背けていた祖母の現状。
親がしっかりしていないとわかっていて、好きだった祖母の家に全く何年も訪ねていないというのはいかにも用意された悲劇という感じはした。しかし、作者が書きたかったのは書き手の苦悩だろうから、多少家族の悲劇とか介護の現実とか現実と乖離があってもいいのだ。
物語を書くとこで削られる病気というのは、作家自身か知り合いに命を削って物語を紡ぐような人がいて、そのことを読者に伝えるために生み出した設定なのかもしれない。
売れる本であることの幸せと不幸。
金にならない芸術家とどちらが不幸かと言えば、比べられないようなそれぞれの悲劇があるのだろう。

それにしても、病院の売店で買った本の帯のうたい文句がちょっとおかしい。
”嬉しいときも、悲しいときも。「有川浩」改め 有川ひろの本”
正直、さっぱり意味が分からない。
そもそも、話の中身は悲劇であり、多少の幸せな場面は悲劇のよりそれらしくするための演出に過ぎない。嬉しいときってどこかにあったか?むしろ、旦那さんが好きという割に女性はずっと苦悩している。
そして、名前をひらがなにするとなんか違うんですか?
以前、Webマーケティングの本にひらがなの効果についてが書いてあった。作家の名前をひらがなで読むと何か伝わるものがあるかといえば、私には分からなかった。
単行本が600円以下なのに、宣伝されている有川さんの別の本が1500円以上では読者の購買意欲が刺激されないのでは?
ちょっと帯が理解できずに、買っておきながらつっこまずにいられない。病院の売店では文庫本が平積みでなく、縦置きだったので、入院中の母から回収して自分が読むまで、帯を見ていなかった。

Side:Bでは作家の夫が病気になった。彼女の世界には夫しかいないのか。それ以外の人に対する感情がずいぶん乱暴。旦那さんの世界に奥さんだけしかいなくていいのかとかいろいろ思うが、それは人によるかもしれない。それに愛と悲劇の話なのだから、二人だけいれば話は完結するのではないか。

愛オンリーの話は読者の私としてはちょっと共感性が薄くて面映ゆいよなと感じたが、有川浩さんらしい作品。

ちなみに入院中の母がこれを読んだら、とても感動して一気に読めたと言っていた。私がちょっと偏屈なのかもしれない。

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