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コーチのためのスポーツ心理学⑦アスリートのニーズとモチベーション:動機づけの重要性

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スポーツにおける動機づけ(モチベーション)は、選手がスポーツ活動に参加し続ける理由や、努力を続ける原動力となる要素であり、動機づけは、選手のパフォーマンス、持続性、満足度に大きな影響を与えます。

そして、アスリートの動機づけは、選手自身のニーズ(欲求)を満たすために大きな役割を果たします。Martens(2012)の研究では、アスリートの欲求をコーチが全てを満たすことはできないものの、特定の基本的な動機づけのニーズを理解し、サポートすることが重要だとされています。

加えて、アスリートは時に努力していないにも関わらず「試合に出してほしい」といったようなことを指導者に望む場合もあるのではないしょうか。(言葉にしないまでも多くのチームで多くの選手はそう思っているのではないでしょうか)

しかし、それはニーズ(欲求)ではなく、ウォンツであるということを指導者自身が理解し、選手にも理解させることが重要です。

アスリートがスポーツに参加することで満たそうとする4つの基本的な動機づけの欲求には、(1)刺激と挑戦、(2)受容と所属、(3)能力、(4)自律の4つの欲求が含まれており、それらが選手の「選択」、「努力」、「継続」に繋がり、それらが最終的には成功に繋がるとされています。

今回のnoteでは、アスリートが満たそうとする4つのニーズを理解するためにそれぞれについてまとめていければと思います。

⚠️全てを綺麗にまとめているととてつもない文章量になるためできる限り簡潔にまとめています。

刺激と挑戦の必要性

現在もスポーツを続けている人、過去スポーツを行っていた人は、なぜそのスポーツを続けていたのでしょうか。

色々な理由はあると思いますが、根底には

そのスポーツが楽しいから

というのが多くのアスリートに共通していることなのではないでしょうか。

大半のアスリートは刺激と挑戦を求めてスポーツに参加しています。

スポーツの楽しさやフロー体験は選手の情熱を育み、意図的な練習の動機となることからも、コーチとしては同じ練習を繰り返し行うだけではなく、練習に多様性や新しさを取り入れ、選手が楽しく挑戦できる環境を作ることが求められます。

そして、そのような多様性や楽しさを練習に組み入れていくための効果的な練習のガイドラインとして参考文献では6つのヒントが紹介されています。

多様性とペースの変化

練習が日常的で退屈にならないよう、新しいドリルや自己チャレンジを取り入れる。

質と効率を重視

長時間の練習を避け、集中力とモチベーションを維持するために練習時間を計画的に管理する。

活動的な練習

アスリートが常に活動的でいられるように練習を設計する。

目的と目標の説明

すべてのドリルやアクティビティの目的を明確にし、選手に納得させる。

選手からの提案を受け入れる

練習の振り返りを行い、選手の意見を取り入れる。

刺激的な指導

コーチ自身がモチベーションの模範となり、スポーツ環境を刺激的で挑戦的な場所にする。

受容と所属の欲求

アスリートが持つ受容と所属の欲求とは、集団に溶け込みたい、集団に所属したい、他者から認められたいという欲求のことであり、これらはスポーツを通じて容易に満たされる基本的な欲求だとされています。

コーチやチームメイトとの良好なつながりは、スポーツを続けるモチベーションになるため、コーチは、選手がチームの重要な一員であると感じられるよう努めるべきであり、それらの観点から選手のモチベーションを向上させるためのいくつかの戦略が紹介されています。

こちらも簡単に紹介させていただきます。

チームビルディング活動

結束力を高めるための活動を行う。

メンター制度

復帰したメンバーが新しいメンバーのメンターとなる制度を設ける。

個別の関心

選手一人ひとりに真摯な関心を示し、成績や成果に関わらず受け入れる。

偏見の理解

自分自身のバイアスを理解し、他者を誠実に受け入れる努力をする。

役割の明確化

アスリートがチーム内での役割を明確にし、その役割の価値を認識させる。

僕自身も、大学時代には、選手としては少し実力不足を感じていた際に、アナリストという役職に出会うことができ、チームに対して少し違う角度から貢献することができた経験がスポーツとの関わりを今も継続できている大きな要因だと思っています。

選手として試合に出ることを目指しながら、いろいろな関わり方がスポーツにはあるということをチームで普及していきながら関係性を構築し、チームを作っていけるような環境整備も指導者の大きな役割ではないでしょうか。

スポーツにおける有能感の重要性

スポーツにおける有能感の重要性は、選手の動機づけや行動に大きな影響を与えます。

以下では、有能感がどのように選手の成長とパフォーマンスに関わるかについて簡潔に説明します。

有能感と動機づけの相互作用サイクル

  1. 楽しむことが動機づけを高める: 楽しさを感じることで、その活動を続けたくなり、努力が持続します。

  2. 努力によるスキル向上: 継続的な努力によりスキルが向上し、有能感が高まります。

  3. スキル向上が楽しさを増す: スキルが向上することで、活動がさらに楽しくなり、このサイクルが続きます。

負の連鎖と動機づけの破壊

負の連鎖が発生すると、楽しさを感じられず、有能感も低下します。
これは以下の要因によって引き起こされるとされています。

  • 非現実的な期待やプレッシャー: アスリートが自分の能力に対して無能感を抱くことで、動機づけが破壊される。

  • 失敗への恐怖: 失敗を避けようとする動機づけは、自己価値を守るための行動を取らせ、結果としてパフォーマンスの低下を招きます。

マインドセットの影響

  • 固定マインドセット: 能力は固定されたものであり、証明する必要があると考える。

  • 成長マインドセット: 能力は努力と学習によって向上できると考える。これは、練習や学習に対する献身を促進し、長期的なパフォーマンス向上に繋がります。

コーチの役割

  • プロセスを褒める: 結果や能力ではなく、努力、準備、粘り強さを評価する。

  • ミスを学びと捉える: ミスを成長の一部として受け入れ、挑戦を楽しむ文化を作る。

  • 障害を通して指導する: 選手自身が問題を解決するための方法を考え、試行錯誤させる。

この中でも個人的には、マインドセットの部分が重要だと考えています。

自分の能力は練習などによって変容させることができる。というマインドを選手がしっかりと持っていることは非常に重要だと思います。

また、そのようなマインドを選手が持てるようコーチ自身もそのようなマインドを常に持ちながらコーチ自身も常に学びを続けながら行動していくということも非常に重要なのではないかと思います。

自主性の重要性と効果的なモチベーション戦略

アスリートにとって、自己決定感は非常に重要です。

自己決定とは、自分の行動を自分でコントロールできると感じることであり、これがモチベーションを高めます。

スポーツにおいても、コーチの指導の中で選手が自己決定感を持てるようにすることが重要です。

以前のnoteでもまとめているように、動機づけには内発的動機づけと外発的動機づけがあり、アスリートは両方の動機づけを持ち、それぞれの役割を理解することが重要です。

外発的動機づけには、自律的なものと統制的なものがあり、自律的な外発的動機づけは、選手が外部の報酬を自分の価値観と結びつけて内面化することです。一方、統制的な外発的動機づけは、外部からのプレッシャーや期待に応じたもので、自己決定感が低くなります。

効果的なモチベーション戦略

スポーツでは、内発的動機づけと外発的動機づけが同時に起こり、常に相互作用しています。

この相互作用の組み合わせによって、モチベーションが一定に保たれ、微調整されるのが理想的だとされています。

アスリートとしても一人の人として成長していく際にもこの過程は頻繁に生じるもので、それらが生じている際に個人の動機づけの源泉が、自己決定的であることで、メンタルスキルや競技行動を向上させることが示されています。

以下では、コーチがアスリートのモチベーションを高めるために、自己決定の連続体を効果的に上下させる方法についての紹介です。

  1. フックとチャレンジ

    • 楽しくエキサイティングな活動を提供し、選手の興味を引き付けることが重要です。

  2. TRY(Take Responsibility Yourself)を教える

    • 選手が自己責任を持つことで、モチベーションが高まります。親やコーチからの圧力ではなく、自分自身の意欲で行動できるように導きます。

  3. 選手が内なる指導システムを内面化できるよう、しつけを行う

    • ルールはシンプルで、選手との話し合いを通じて決定することで、選手の内発的な指導力を育てます。

  4. 自律を支援するコミュニケーションスタイルを用いる

    • 選手の意見を尊重し、選択肢を提供することで、選手の自己決定感を高めます。

報酬とモチベーション

報酬は、適切に提供されることで、アスリートのモチベーションを高めることができますが、報酬の意味合いや方法によっては、逆効果になることもあります。

  1. 外発的報酬の最良のタイプは、斬新で、創造的で、圧倒的なものである

    • 意味のある報酬を提供し、選手の内発的動機づけを高める。

  2. 外発的報酬は、具体的な達成を条件として、獲得し、与えなければならない

    • 報酬は達成に基づいて与えることで、選手のモチベーションを維持する。

  3. 報酬の支配的な側面を軽視することで、より多くの達成を期待するプレッシャーを与える

    • 正直な賞賛を与え、選手が努力したことを認める。

  4. シーズン終了後の表彰式では、個人的な報酬を与える

    • シーズンの努力やユニークな貢献について、個人的なコメントを添えて表彰することで、選手のモチベーションを高める。

このような戦略を用いることで、アスリートのモチベーションを高め、パフォーマンス向上につながることが期待されます。

終わりに

今回のnoteでは、まとめることができていませんが能力と自律性の欲求もアスリートのモチベーションにとって重要です。
これらの欲求については、別途詳しく説明します。

今回の内容もいつも通り、当たり前と言われれば当たり前のことなのかもしれませんが、何気なく忘れてしまうようなスポーツをなぜしているのか、などから選手のモチベーションに対してアプローチしていくという根本を振り返ることができるような内容だったのではないでしょうか。

スポーツの楽しさと挑戦、そしてチームへの所属感を大切にすることで、アスリートの動機づけを効果的にサポートしていけるようなきっかけになれれば幸いです!

↓参考文献はこちら↓

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