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天機

雨滴の音を聴く
竜胆の花が見る夢の合間と
仄暗く染まった窓辺の街

狂気に翻弄された儘、街路を歩いて居る
テールランプの残像が私の眼を破壊する

ラジオから流れる知らない歌に共鳴して
彼方に膨らんで消えていく黒い雲

郵便物が幾つにも重なり合って光を遮る
貴方からの来信は見当たらない侭

遠くに見える月の光が目映い
私の犯した罪を清めてくれるかと期待為る
昨日から消えない鈍痛は私の生命を唯々削ってゆく

排気口から黒黒しい怨霊が覘いて居る
目を瞑ると其処には無数の霊の顔が浮かび
私に助けを求めて居る

街路は黒い海に飲み込まれ
足元から引っ張られていくこの感覚は最早狂気が齎すものではない

剥がれていく自意識
屹度、彼れが私を狂わせて居るのだろう

感情や思考は遺灰の中へ消えて
様器から零れる黒い水に記憶は無い
山の様に積まれた郵便物からずっと貴方を探して居る

あの時の記憶を狂ったこの精神の中に再生して
残夢の続きに貴方の叶わない希望を沈めてゆく儀式
其れは誰かに知られてはいけない秘事の夢
花びらが風に乗って飛んでゆく
永遠に此処に春は訪れないのに




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