【読書】「ランニングする前に読む本 最短で結果を出す科学的トレーニング」田中宏暁

ランニングを続ける中で、個人的にこれはよかった、参考になると感じた本のことを書いていきます。自分の忘備録も兼ねて、特に印象的だった点やこれは覚えておきたいと思ったことに絞って記しますので、本の全体的な紹介にはなりません。もし興味を持たれた方がいらっしゃったら、実際に手に取って見てください。

最初に取り上げるこの本は、講談社が「一般向け科学シリーズ」と銘打っているブルーバックスの1冊です(2017年刊行)。著者の田中宏暁さんは、運動生理学を専門にする医学博士。自身もランナーで、50歳の時にフルマラソンの自己ベストタイム 2時間38分48秒を出されたという方です。サブスリーなど考えもつかない私にとって、そこからさらに数段レベルが上の記録を、しかも50歳で自己ベストを更新して達成したというのは、雲のはるか上のような話です。この本では、著者の47年間の研究成果とランナーとしての経験をもとに、理論・実践の両面から走ることが分析され、またランニングと食(栄養)の関係などについても項目が設けられています。ランニングのスタイルとしては「フォアフット着地」「乳酸がたまらない速度で走ること」が重要視されています。

参考になった内容、気になった記述

◎ランニングでは、移動距離1kmあたりのエネルギー消費量は体重1kgにつきおよそ1kcalで、これはどんなに速くなっても変わらない。
<感想>スピードと心拍数を上げればその分エネルギー消費も増えそうに思えるので、意外な記述でした。自分のランニングの記録をランニングウォッチの履歴で見返してみると、たしかに、ペースの違いが幾らかあっても(1kmあたり40秒とかそれぐらいのものですが)距離が同じ程度ならカロリー消費は似たような数値になっています。ただ、これはアップダウンがあまりない平地メインのところを走っている場合の話です。距離がほぼ同じでも山道コースになると、時間も長くなり消費カロリーも大きく増えていました。

◎フォアフット走法は、ストライドよりもピッチを稼ぐ走り方。同じ運動量に対してピッチで稼げば、一歩一歩の衝撃が少なくなる。歩幅を狭めてピッチを多くすると、着地時に太腿前面と太腿後面の筋肉群を同時に収縮させることになり、このような筋の使い方は膝を保護するように働くと考えられる。
<感想>フォアフット、ミッドフット、かかと着地は、「これがいい」という説がそれぞれにあり、研究者やトップランナーの中でも見解が分かれています。私自身はミッドフットでの着地を心がけていますが、ピッチをもう少し上げたいとも常々考えていて、フォアフットに寄せることでピッチが上がり膝痛の防止にもつながるのであれば、それには大きな魅力を感じます。

◎60kgの体重が57kgになれば、フルマラソン200分の人は189.2分になる計算。
<感想>著者は、ランニングの記録を伸ばすには、必要な筋力を落とさずに体重を落とすことが有効と繰り返し述べています。フルマラソンの自己タイムや体重を入れることで、何キロ減らすとタイムがどれほど早くなるかを試算できる式も、この本に載っています(単純に書けるようなものではないのでここでは書きません)。私はどちらかといえばやせ型で、普段あまり体重の変動もないので、ランニングの大会の前に体重を減らすということを意識したことがありませんでした。でもこの本を読んで、体重を減らすことで30秒でも1分でもタイムが伸びやすくなるなら、大会の前は多少でも体を絞れるようにしたいと考えるようになりました。あと、持ちながら走る飲料やエネルギーゼリーの分量も、タイムを狙う大会のときにはよりシビアに絞ろうということにも意識が向くようになりました。

◎走るのは朝食の前がおすすめ。一流ランナーは、必ず早朝の空腹時にトレーニングを行っている。多いときは早朝から30kmを走る。血糖値が高くなるとインスリンが分泌され、糖の利用が促進されるが、インスリンには脂肪の分解を抑制する作用がある。早朝の空腹時はこのインスリンが低濃度であり、脂肪の分解が促進されている状態。さらに空腹時の運動は、脂肪分解を促進するアドレナリンの分泌量が増す。早朝の空腹時にランニングをすれば、より選択的に脂肪をエネルギー源として利用でき、脂肪の燃焼能力の向上効果が期待できる。
<感想>この本を読んだ頃、ちょうど私も休日に朝食前のロングランをしばしば行うようになっていました。朝は軽め・短めのランに留めておいた方がよいだろうと最初は思っていたのですが、少し慣れてくると、心拍を上げすぎなければ朝食前に普通に20km, 30km走れることを体感として知りました。さらに脂肪燃焼能力が上がる効果もあるのであれば、朝食前のランニングにこれからますます熱が入りそうです(あまり張り切りすぎると、ラン後に気分が悪くなったりすることがあるので、朝食前のランでは自分の中の「ほどほど」を見極めることが大事だというのが、いまの私の考えです)。

◎乳酸閾値のランニングスピードの速い人ほど、マラソンを速く走れる。乳酸をためずに走る能力は、脂肪を使える能力に依存する。脂肪を使う能力は、ミトコンドリアの機能に依存する。ミトコンドリアには脂肪の酸化を助長させるPDKというたんぱく質が存在し、これが豊富だと脂肪を使える能力が高まる。
<感想>乳酸閾値と長距離を走る速さの関係はいろいろなところで目にしますが、それを掘り下げるとミトコンドリアまで行き着くという話は、私はこの本で初めて読みました。ミトコンドリアは、その機能低下が老化に結びつくのではないかといった点でこのところ注目されているようですが、人の若々しさとか運動能力にかなり深いところで影響を与えている、ということでしょうか。だとすると今度は、「体内のミトコンドリアを元気に、力強くするにはどうすればよいのか」ということが気になってきます。それはこの本には書いてなかったので、別の書籍などで調べてみようと思います。

長くなるのでこの辺りにしておきますが、このほかに著者はグリコーゲンローディングの有用性も説いていて、かなり具体的にレース前どのようにグリコーゲンを体内に貯蔵させるのかという解説がありました(私は、もともと炭水化物の多い和食が好きでよく食べているというのもありますが、大会前だからといって食事を変えたくないのと、意図的に体内に特定のものをため込むということにあまり共感できないので、著者の説明には一定の説得力があると思いましたが、自分ではグリコーゲンローディングは行わないつもりです)。

ここはちょっと…と感じた点

これまでは特に参考になった点を取り上げてきましたが、読んでいて「ここはどうなんだろう」と感じた点もゼロではありませんでした。そうした点についても簡単に記します。

▼タイトルの意味するところがわかりにくい。
→最初にタイトルを見たとき、「ランニング初心者が『走りたいけどいろいろ不安』と感じるときなどに読む本」なのか「ランニング経験者が、トレーニングに出る前に読む本」なのか、どちらなのだろうと思いました。私は前者の意味合いが強いのかと思って読み始めましたが、違ったようです。この本に書いてあることは、ある程度ランニングに慣れていて、自分の目標や課題がわかっている人でないと、十分にわが身に引き付けて読み解くことができないと思います。だとすると、別によりふさわしいタイトルがあったのではないかという気がします。

▼初心者向けのことと中・上級者向けのことがあまり整理されずに書かれている。
→この本では、歩くのと同じぐらいのペースで走る「スロージョギング」からサブ3を狙うための練習方法まで、幅広いレベルのランナーに向けたアドバイスが書かれています。ランニングのエネルギー消費とか栄養補給とか、レベルに関わらず役に立つ内容ももちろん多いのですが、スロージョギングからサブ3までというのはちょっと飛躍が大きいです。しかも、スロージョギングをもとにフルマラソンを完走したら、次は週に40~50km走ってサブ3.5を達成し、サブスリーを狙う人は週に70kmを目標にするといった記述があり、時間に色々と制約がある身としては、正直「そこまでとても走れません」と思ってしまいます。週に40~50kmとか70kmという距離を、著者が提唱するようなスロージョギング、あるいは乳酸閾値以下のペースで走ると、さらに時間がかかってしまいますし、このあたりの記述はよほど時間に余裕がある人でないと実践できないのではないかと感じます。

まとめ

こうしたHow to本は、自分でもちゃんと考えながら読むと「100%納得した」というよりも「納得できるところが多かった。でも。、ちょっと違和感を感じる部分もあった」となるのが自然なことなのではないかと思います。この本についても「ここはちょっと」という点も多少はありましたが、でもランニングを体の動きから栄養面まで、科学的な裏付けを示しながら解説していくというのは、医学博士でもあり相当速い市民ランナーでもある著者だからできることなのでしょう。全体的に見れば、とても説得力のある説明が展開されている本です。自分のランニングのレベルが上がって次のステージに入ったり、壁に突き当たったりした際など、一度ならず二度、三度と読み返す価値のある1冊だと思います。




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