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いちいち長い、イタリア人の話

イルミネーションが輝き、人々の心がクリスマス一色になる12月のイタリアの、郵便局は、毎日、長蛇の列が出来ている。

コロナというご時世で、中に入れる人数が決まっているというのもあるけれど、なんとか経済政策をと、政府が打ち出したキャッシュバックサービスに、郵便局での手続きが絡んでいることもあって、その日も多くの人が並んでいた。

局員は、フル回転で働いてはいるけれど、なかなか、前に進まない。
一人一人にかかる時間というのが、やたら長いのが、その理由。
番号札を取るのには、急いても、自分の番になると、その権利を大いに利用して、やたらといろいろ聞きたがる。
そういうのが重なって、長くなるというわけだ。

とうとう、私の番がやって来た。

混んでいる時期だから、極力、手間は避けたいと、必要書類は既に書き込み、落ちの無いようチェックもしてある。
そのあたり、未だに、ザ・日本人。
顔見知りの郵便局員は、私の顔を見ると笑顔で迎えてくれる。
「彼女はね、いつもちゃんと記入してくれてるから、こちらは楽なのよ…」
隣に座っている新人らしき男の子に、そう語りかけていた。

隣のブースには、1人のおばちゃんがやって来ていた。
「あのね、記入してみたんだけど、あってるかどうかわかんないから、見てくんない? Per sicurezza 。」
Per sicurezza というと、「念のため」みたいな意味なんだけど、決して、自分を落とさないところが、典型的イタリアおばちゃんを表す。
「間違ってるわけじゃないのよ。念のため、念のため。」
おばちゃんの話は、止まらない。
「あの、今、眼鏡がないから、よく見えないのよ。ちょっと読み上げて。」
こうして、郵便局員の仕事を増やしていく。
「ねぇ、キャッシュバックって、どんな仕組みになってんの?」
郵便局員は、ただ入力する事が仕事であるから、政府が臨時で決めた政策の説明はしなくていいんだけど、いちいち、聞いていく。
それでも、優しいお姉さんはきちんと答えていった。
その辺り、イタリア人はちゃんと、イタリア人の対応をしていくところ、偉いなぁと思う。

おばちゃんの対応は、とっくに終わっていた。
早く次の人にまわしてあげたらいいのに…
隣でそう思いながら、見守る。

「ありがとう。あ、それからね、ちょっと聞いておきたいんだけど…」

おばちゃんの話は止まらない。
いちいち長い、イタリア人。

外に出ると、まだまだ長蛇の列だった。


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