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トスカーナ・オリーブの夢 8

フィレンツェに戻ってきて、なんとなく、時が過ぎてゆく。

正直いうと、14ヘクタールもの土地は大きすぎるし、アパート2軒分という民家もピンとは来ていない。
いつか、いつかは、将来よりもっと先の、夢の話なのだと思った。
すでに植わっている320本のオリーブの木は、とても魅力的ではあったけれど。

世の中がコロナ、コロナで停滞している状況の中、建設的に,近い将来のことを考える。それはひどく、贅沢なことのような気がした。

「ねぇ、もう一度、あの物件見に行かない???」

心の友から、そう誘われたのは、あれから10日ほど過ぎた頃だった。
見晴らしのきく丘の上。
値段が近郊の田舎に比べたら安いことも、気に入ったらしかった。
心の友は、海に近い田舎に住みたい…という夢を抱いている。

私は二つ返事でついていく事にした。
その頃はまだ、トスカーナ州はオレンジゾーンで、移動の制限があった頃で、私はただ単に、外の空気を吸いたかっただけなのかもしれない。

再び、不動産屋のステファノと、所有者である80を超えているシニョーレと再会する事になった。

「やあ、元気かい?」

握手も出来ないから、腕と腕を合わせて、軽い挨拶をする。
前回は見る事のできなかった倉庫やら納屋なども見せてもらいつつ、いろんな話をする。
シニョーレがガレージの鍵を取りに行っているすきに、ステファノが言った。

「もし、14ヘクタールの土地が大き過ぎると言うんであれば、土地を分割して販売することも可能だと思うんだけど…」

敷地は、既存の民家がある3ヘクタールと道を挟んで残りの11ヘクタールで構成されていた。
都合の良いことに、状態の良いオリーブの木320本は、既存の民家に属した3ヘクタールの方に植わっている。
道を挟んだ向こう側の11ヘクタールは、主に麦の生産に向いた土地であるとシニョーレが言っていた。

「やっぱり、海の近くってのがいいなぁ。」

ぽそっと、心の友がつぶやいた。
以前から、田舎に住みたい…と願っている私には、ひどくしっくりとくる独り言だった。

そんなことより、とりわけ、何がというものはなく、最初こそピンとは来ていなかったこの土地が、なぜか、次第にジワジワときている。
これは、なんなのだろうか。
私は、不思議な感覚の中にいた。

「分割した土地を購入したいと言う人に心当たりがあるんで、確認が取れたらまた、連絡しますわ。」

帰り際にステファノがそう言った。
心の友は、何か考えてるらしかった。


続く

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