見出し画像

トスカーナ・オリーブの夢 13

いよいよ暑くなってきた、6月の終わり。
「剪定はちょっと無理そうだね…」
不動産屋のステファノがそう言った。


良質のオリーブを作るためには、剪定をして、栄養を行き渡らせる必要がある…
ということは、YouTubeで知った。
ちょっとネットであたれば、情報が得られる良い時代でもあるけれど、実際に向き合ってみないと、わからないことも沢山ある。
いや、分からないことだらけである。
どんなふうになっていくんだろうか。
運は天に任せっぱなし。

「収穫グループみたいなのが、いくつもあるから、心配しなくても良いよ。」

ステファノは、そう言っていたけれど、どこでそのグループを見つけてくれば良いのだろうか。
知らない土地、知らない人。
ステファノには、不動産以外のアレやコレやを手伝ってもらっていて、
おんぶに抱っこでは申し訳ない気さえしてくる。

一方、心の友は、要改築のアパートを早くなんとかしたくて、奮闘していた。

イタリアでは、建築の必要な役所への手続きは、全て、geometraジオメトラという測量士が担当する。
地元の役所申請には地元の人間の方が良かろうと、その人もステファノが紹介してくれた。
融通の効かないイタリアの公共機関。
地元で有力な測量士であれば、手続きを蔑ろにされることもなかろう…という考えからであった。

「なんといってもね、あの、レンゾ・ピアノと仕事をした人だから…」
小さな小さな田舎町で、知らない人はいないらしい…かった。
測量士の元へ挨拶に行くと、レンゾ・ピアノの工事計画の看板が壁にしっかりと貼られていた。
内心、おぉぉ と思う。
建築の仕事をしていた頃の、血が騒いだ。

「ところで、現場を担当するのは、誰がやるんですか?」

測量士の質問に、
「フィレンツェの知り合いにお願いしようと思ってます。」
そう答えていた心の友だったけれど、
結局のところ、心の友の親戚の友人がやってくることになった。

知り合いの知り合いの、知り合い。
イタリアっぽい流れだなぁと思わずにはいられない。

「明日、現場を担当してくれる人が来るんだけど、一緒に来る?」

心の友に誘われて、二つ返事で了解した。
イタリアで改装工事を見るのも、興味がある。
測量士と現場担当だけで進めていく工事。
日本とは全然違う建築事情に、個人的に興味もある。

翌日、私たちは、現場へと向かった。

「ボン ジョルノー」

その日、私たちは、初めて、フランコと出会った。



6月の終わり。
オリーブ畑では、小さな実がつき始めていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?