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トスカーナ・オリーブの夢 14

6月の終わり。

ついこの間、花が咲いていた…と思っていたのに、オリーブは、小さな小さな緑の実をつけ始めている。
そんな時期に、フランコと出会った。


オリーブ畑の北側にある、2軒分のアパートの改装工事を担当してくれる…というフランコは、目のクリクリした、丸い感じのシニョーレ。
知り合いの知り合いというせいか、割とスグに、心の友と打ち解けて、話す会話のスピードに追いついていけない自分がいる。
分かったふりして、フンフン頷いているけれども、半分わかって、半分わかんない感じなのは、私の中の、‘イタリアあるある’で、聞いているうちに、違う事を考えていることも、あったりする。
それにしても、よく喋るなぁ…と、二人の会話を右から左に聞き流していた。

「ところで、ここのオリーブ、どうするつもりでいるの?」

突然、聞かれた。

どうするも、こうするも、
何も分からない。

「ここのオリーブは、彼女が担当するんだけれど、この辺り、よく知らないので、誰か詳しい人いないかなぁと思っているんです。」

心の友が代弁してくれた。

「うち、搾油所持っているんだよ。」
フランコが言った。

「え!?」

一瞬、聞き間違えたのかと思った。

「場所は、Campagnaticoカンパニャティコと言って、こっから車で30分ぐらいのところにあるんだけど、そこを取り仕切ってる。もし組合員になれば、いろいろ、面倒見れるよ。」

嘘みたいな、本当の話。
そんな事って、あるのだろうか。

オリーブ畑を借りるところまで、たどり着いたものの、
本当に先のことなんて見えてなくって、
これからどうしよう…と思っていた矢先の話。

「うちはね、組合員のオリーブオイルをそれぞれタンクに保管して、徹底的に温度管理してるし、必要な時に必要な分、ボトル詰めするシステムにしているから、経験のないうちは安心かと思うよ。イタリアの食に関する法律はいろいろうるさいし、違法な事はしたくないし、してほしくもないし…」

ペラペラと、オリーブオイルの話をし始めたら、止まらないフランコ。

これこそまさに、「縁」というもの。

「ここのオリーブ、どう思います???」
思い切って、聞いてみた。

プロならきっと、多少のことは分かるだろう。

「水も適度にありそうな地質だし、ザッと見たところ、悪くはないと思うよ。」

それを聞いて、ちょっと安心した。
借りた先が、見込みのない土地ならば、これからの頑張り甲斐もへったくれもない。

「まあさ、興味があったら一度、搾油所まで見に来なよ。」

そう言って、フランコは去っていった。

あれ!?現場監督なんじゃなかったっけか。
アパートの改装工事も、オリーブの面倒も、
全てが、フランコの手の内にある…
なんだか、そんな気がした、不思議な出会い。

7月も早々に、搾油所に行ってみよう…
断る理由は、ひとつもない。

私の心もオリーブの実のように、期待が少しずつ、膨らみ始めているみたいだった。

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