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写真家レン・ハン / Ren Hang:29年間の葛藤の中、彼の追い続けた美とは


1987 年、中国・吉林省長春市生まれ。「性」がタブーとされる中国で、友人をモデルにヌードを中心に撮り続ける同国を代表する写真家。これまでに、北京、パリ、ニューヨーク、東京などで展覧会を開催し、パリフォトやフォトバーゼルなど数々の国際的アートフェアに出展。2010年にはイタリアTERNA現代芸術賞に入賞。2011年、自費出版による写真集『REN HANG 2009-2011』と『ROOM』を発表し、以降多数の写真集を刊行した。2017年2月14日、北京にて28階建てのビルの屋上から飛び降り、若干29歳の若さでありながらこの世を去った。

”毎年僕は同じ願望を持っている、それは早く死ぬことなんだ。そして、それが今年であることを願っているよ。” レン氏は2017年の1月に中国のソーシャルメディアサイト、Sina Weiboでこう答えました。

An untitled photograph by Ren Hang. Credit...Ren Hang, via TASCHEN Publishing

彼は短いキャリアの中で、大胆なビジュアル スタイルに磨きをかけましたが、その結果、しばし彼の作品は反体制的と見做されました。

そして2014年、フランスのファッションマガジン『Purple』のインタビューにて彼はこう話しました。

”ヌードの写真を中国で撮ることは極めて困難だ。ここでは人々は、身体というものに対して伝統的で極めて閉鎖的な考えに縛られている。彼らはプライベートな部分を見せることは堕落的で非道徳的であると見做している。彼らは裸というものに対して強く嫌悪している。我々の文化では身体は隠すものなんだ。”

Ren Hang, "Untitled" (2015)Credit...Estate of Ren Hang/Blindspot Gallery

コンパクトフィルムカメラを使用し、主に友人たちを撮影することで、彼は「性」や「身体」に対して真っ向から向き合った作品を作り続けました。高価な機材や著名なモデルは一切使用しませんでしたが、彼の作品から伝わる、美しさ、無邪気さ、曖昧さが見る人を魅了させました。

Ren Hang, via TASCHEN Publishing

彼が国際的な名声を得始めても、彼の写真はまるで路上でふと見つけたような着飾らないスタイルを維持し続けました。しかし彼の作品は「性」を全面に出した極めて挑戦的な作品であったため、彼はポルノ画像に対して厳格な規制をしている中国当局との間でしばしば問題に遭遇した。 2013年の Vice Japan とのインタビューで、彼は中国で開催した 1 つの展示会が ”セックスの疑い" で検閲によって閉鎖されたことを語りました。彼はまた、屋外でヌード写真を撮影したことで数回逮捕された過去があります。

彼が中国当局と何度も対立したことで、多くの人が他の反体制的なアーティスト、特に中国の活動家兼現代美術家であるアイ・ウェイウェイ氏と比較されするようになりました。しかし、レン氏はそのような比較に抵抗し、インタビューで自分の写真は決して政治的なメッセージはなく、中国や中国文化との深いつながりを強調していると何度も述べた。

”僕は自分の作品の中に文化的、政治的要素を全く取り入れていない。だから自分の作品が中国文化のタブーに触れているとは思ってない。故意にやっているわけではなくて、ただ自分がやりたいことをやぅているだけだ。”

Ren Hang, via TASCHEN Publishing

レン氏は1987年5月30日、中国北東部の省都である長春市の郊外で生まれ、比較的平凡な少年時代を過ごしました。 (”普通すぎた”と彼はかつて、記者が彼がどのようにうつ病に陥ったかを尋ねた際に語った。)

彼の父親は鉄道労働者であり、レン氏の印象的なシリーズ『My Mum』のモデルとなった彼の母親は、印刷会社で働いていた。 彼は17歳で北京に移り、広告学を学びながらヌード写真を撮り始める。

”私たちは 4 人の狭い寮の部屋に住んでいたので、ルームメイトが裸でいるのをよく見かけました。”と彼は 2014 年のインタビューで語った。

彼は2009年頃から主に中国の小さな展覧会で作品を発表し始めました。数々の展覧会と写真集を出版をするとともに、彼は国際的な注目を集め始めました。

A photograph image by Ren Hang on the cover of the book “Athens Love.”Credit...Klein Sun Gallery and the artist, Ren Hang, All Rights Reserved

その数年後、彼はより多くの仕事の依頼を受けるようになり、主要なファッションブランドや雑誌のほか、歌手兼ラッパーのフランク・オーシャンの『Boys Don't Cry 』の雑誌の撮影も行いました。

レン氏の死後、彼の作品は、ストックホルムのフォトグラフィスカ美術館とアムステルダムのフォーム写真美術館 での2つの個展、また、北京のKWM ArtcenterでアーティストのLi Xinjianとのコラボ展も行いました。彼の写真は、世界中で 20 以上の個展と 70 以上のグループ展で展示されました。

レン氏は作家であり詩人でもあり、彼のウェブサイトのブログ”My Depression”でうつ病の経験を綴っています。 2014年7月に書かれた詩『Gift』の中で、彼は中国語で次のように書いています。

”人生は本当に一回きり
貴重な贈り物
でもたまにこう感じる
間違った人に贈られたと”

Ren Hang, "Untitled" (2016)Credit...Estate of Ren Hang/Blindspot Gallery

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