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『たびらのたび』 プロローグ

「なぜ核兵器は悪なのか」―あなたはこの問いにどう答えるだろうか。

 私は長崎大学経済学部の3年生だった2013年、大学で核問題の講義を受けている時にこう問われた。教員から学生全体への問いかけで、皆が真剣に考えたと思う。私なんか今までそんなこと考えたこともなかった。

 そんな私は現在、「被爆体験継承講話[1]」を全国各地の学校で行っている。2019年5月、大阪府門真(かどま)市の中学校で上記の質問をしたところ、
「核兵器はあらゆるものを破壊し、憎しみや悔しさとなって心の中に存在し続けるから」
「被爆者の方々の人生を狂わせ、二世や三世の方へも被害を出すから」「人々を傷つけて悲しませる道具だから」という答えが出た。中学2年生がここまではっきり言語化したことに感心した。

 私もこれらの答えには賛成だし、一つひとつが的を射ている素晴らしい意見だと思う。個人的には「生命の尊厳を脅かし、否定するものだから」と答えるが、それでもまだ言い足りない気がする。
 無論このような答えだけではなく「核兵器には抑止力があり、世界の平和を守るから必要だ」とする、いわゆる「核抑止論[2]」に基づいた意見もいまだ根強い。

 この問いをきっかけに、私は核問題に関心を持ってしまった。当時20歳、大学3年生だった。その後、人生はいろんな意味で思わぬ方向に進んでいった。29歳になった今、その9年を振り返ってみると、不思議なほどに自分が平和活動をするべくしてやっているような気がしてならない。人との出会いから本との出会い、現在の仕事との出会いに至るまで、余すことなく。

 「核問題をどう解決できるか」という壮大な問いに対する答えは今でも分からない。それに、この9年間で自分なりに学びと思索を深めてきたつもりだが、一体それらが何にどう貢献できるのかも分からない。それでも備忘録として、そして将来の自分がこれを読んだ時に微笑ましく思えるようにと思って書き残しておこうと思う。


[1] 被爆体験を被爆者ご本人から受け継ぎ、証言者として次世代へ話す活動。(公財)長崎平和推進協会は「語り継ぐ被爆体験(家族・交流証言)推進事業」を通じ、証言者を育成している。認定を受けた証言者は、県内外の学校等に派遣され講話を行う。

[2] 核兵器の保有は莫大な破壊力を持つゆえに、かえって戦争を抑止するという考え方。核兵器の使用を考えた場合、自国も相手国からの核兵器による報復を覚悟せねばならず、ゆえに核使用を思いとどまるという論理に基づく。

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