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苦手意識は必ず克服できる

ドイツ在住14年目にして、大嫌いなドイツ語に向かい合うと決め、早1ヵ月。語学学校に通い、プレゼンテーションやディベートを通して話す練習をするが、何か足りない。そんな時に面白いタイミングで再会した人がいた。

ドイツ・デュッセルドルフで公文指導者のフックス真理子先生だ。フックス先生はデュッセルドルフに住む日本人であれば、必ず一度はお世話になったことがあるはずだ。わが家の子どもたちも、短い間ではあったが勉強をみてもらっていた。
フックス先生は公文式だけでなく、脱原発の動きを応援するドイツ公益社団「さよなら原発デュッセルドルフ」や日本人家庭からの不用品を販売し、その収益を東ヨーロッパや発展途上の国へ援助している「ひゅうまねっと」など、幅広い活躍をされている方だ。
教育者としてだけでなく、経営者として、そして何よりも力強い女性として尊敬している人である。

私が3月末で活動を終えた、親子サークル☆ぴよぴよリトミックで使用した絵本を寄付したことが、きっかけだった。フックス先生とのご縁から、「ひゅうまねっと」のボランティア店番を体験することにした。私はドイツ語への苦手意識を克服するために、自らドイツ社会へ身を放り投げてみようと試みたのだ。


「ひゅうまねっと」の店は、移民が多く住む地域、Oberbilkという場所にあった。狭い店内にぎっしりと並べられた商品を吟味していくのはもちろん外国人だ。
日本人の私が「こんなもの売れるの?」と思うものを購入し、彼らはその商品との喜ばしい出会いに心弾ませながら店を出ていく。
お国柄、1ユーロや50セントのものを値切ることも多いらしい。万引きする人たちへの警戒も必要だった。

開店そうそうひとりの女性がベビーカーに付けるおもちゃを手に、商品の値段を聞いてきた。店に到着したばかりの私は、まだ何の説明も受けていなかったが、そこには「5€」と記載されたシールが貼ってあったので、内心少し高いなと思いながらも「5ユーロ」だと説明した。
彼女も「ちょっと高いな」という気持ちがあって迷っているようにみえたので、すかさず「このおもちゃ、とても可愛いわね」「ベビーカーに座っているお嬢さんすごく喜ぶでしょうね」と言葉を添えてみた。
「そう思う?」と私に聞くも、もう彼女の心は決まっていた。彼女は私に5ユーロを差し出した。

その後も、たくさんの外国人たちと会話をした。彼らのおぼつかないドイツ語に、たどたどしいドイツ語で返す私。

洋服を試着し、鏡を見ながら悩む女性たち。「素敵ね!」と声をかけると目の輝きが変わっていく。
胸の辺りがきついと言うので、「とても似合っているのに残念ね、どうにか広げられないかしら?」と提案してみる私に「娘に縫い直してもらうわ!」と購入していく人もいた。

「サイズ39の靴はどれかしら?」と聞かれ、いろいろな靴を勧めながら、「あら、あなたのサイズばかり揃ってるわ。今日はあなたのラッキーデーね!」と言うと、その彼女の購買意欲の高まりを感じた。

「この鞄は何?もしかしてスーツを入れるもの?」と聞かれ、その鞄を手に取り確認してみる。やはりガーメントバックだった。彼女がその商品を買うことは明らかだったので、私は「新品みたいね!あなたが買わなかったら絶対私が買っていたわ!」と彼女の中の、その商品自体の価値を上げてみた。支払いを済ます彼女の笑顔はとびきりだった。

同じようにドイツに住む外国人と、同じようなレベルのドイツ語でのコミュニケーションは楽しかった。人間模様あふれる、とても興味深い2時間を過ごすことができた。


やはり言葉はコミュニケーションを取る上での重要なツールである。
このツールなしに、私は13年もの間、この土地で暮らしてきたのだ。殻をかぶり、空気のように生きてきた。人との笑顔あふれるコミュニケーションを何よりも楽しいと感じる人間であるにもかかわらず…

私は苦手な部分に背を向け続けることをやめ、この殻を破る決心をした。13年間で築き上げてきた殻は決して簡単に壊れるものではない。しかし決めたからには必ず壊すことができるはずだ。
どれだけ時間がかかったとしても。

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