新型コロナウイルスの影響でイベントを延期した主催者の備忘録①【延期決定の対応編】

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はじめまして、古市優子と申します。フランス資本のイベント会社の代表として、広告やマーケティング分野のビジネスイベントを主催しています。毎年秋の「ad:tech tokyo」はアジア最大のマーケティングカンファレンスで1万4,000人を超える方が来てくださるので、もしかしたら「行ったことあるよ」という方もいらっしゃるかもしれません。

ad:tech tokyoはオープンなイベントですが、実は私たちが主催しているイベントは、クローズドで合宿形式のカンファレンスがメインです。そのひとつが、今回の新型コロナウイルスの影響で延期となりました。

特にエンターテイメント関係者等からは、今回の新型コロナウイルスの影響に対しての様々なメッセージ発信が行われていますが、ビジネス系イベントの主催者からの発信がまだ珍しいので、何かの情報の足しにしていただければという思いと、自分のための備忘録として残したいと、延期までの意思決定の過程や、急遽イベントの一部プログラムをライブ配信することになった経緯を残します。お恥ずかしい箇所やお叱りを受けるような箇所もありますがどうかご容赦ください。

本当は初noteは「年間150日出張する私が教えるイケてるパッキング5つのコツ」的な楽しいものにしようとわくわく考えていたのですが、未曾有の事態とそこで得たものが大きかったので、初noteはこんな内容になりました。

一日でも早い事態の沈静化、皆さまのご安全を心よりお祈りいたします。

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【1】延期となったイベント「Brand Summit Spring」の概要

今回延期したイベントは3月4-6日に実施予定の「Brand Summit Spring」、20年の歴史を持つ国内最高峰の完全招待制のマーケティングカンファレンスです。業界のエキスパートたちが沖縄のホテルに集い、密な時間の中で「ブランドとは」について考える合宿型のカンファレンスです。期間は2泊3日。招聘スピーカーたちによる講演や、ワークショップ、事前にマッチングした参加者同士のOne to Oneの商談などが行われます。学会、研修などを想像していただくとイメージが湧きやすいかもしれません。
・丸3日間、朝昼晩ずっと同じ空間で過ごす
・ワークショップやOne to Oneなど密度の濃い会話が行われる
・提供される食事は基本すべてブッフェ形式、等など
という、大規模かどうかはさておき、確実に「濃厚接触」にはあたるイベントです。参加者の大半は経営者及び役職者層、今回の騒動において、本社にとどまって指揮をとるべきであろう立場の方々でした。

【2】延期決定までの時系列

私たちはマーケティングや広告の世界をフィールドにビジネスをしているので、自身が萎縮した行動をとることによって自粛ムードを作ってはいけない、という思いがまずありました。ですので、2月初旬に新型コロナウイルスが話題になりはじめた当初は徹底的な対策を行い、絶対に延期なんてしない!どうやったらイベントを決行できるか、ひたすら準備をしていました。その当初の思いを覆して延期するまでを時系列で振り返ります。

2月初旬:世間がざわつき始める、ちらほらと「イベントやりますか?」という問い合わせが届き始める
外資系企業を中心に、アジアへの出張規制をしはじめた企業からの問い合わせがいくつかあった程度でした。

2月10日頃:数万人規模の展示会を中心に、延期・中止の発表が出始める
当時はまだ公的機関からイベント自粛要請はなく、イベント主催各社が様子を見ながら延期を発表しはじめました。「会社から出張禁止命令が出たので」という問い合わせがあり、対応をいくつか行いました。ですが、この時点で、キャンセル確定はたったの2社でした。

2月17日(月):自粛モードは強くなっていったが公的なアナウンスは要注意レベル止まり
流れてくる情報は常にチェックしていましたが、「一次情報しか判断には使用しない」という方針をとっていました。具体的には、WHO、厚生労働省、首相官邸、東京都、そしてイベント開催地である沖縄県からの発表です。新型コロナウイルスに関しての情報はたくさんのメディアが発信していましたが、世間の「ムード」をチェックするためのもの、と切り分けてあくまで一次情報を取りに行くことを徹底しました。世間の自粛ムードが高まる中で、参加者の方々からのお問合せも増えていたので、ご安心いただくために、この日、私たちは感染対策を徹底した上でイベントを予定通り開催する旨の案内を出しました。「一緒に自粛ムードを打破しましょうね」と応援の言葉をくださった方々もいて大変心強かったです。まだ開催する気満々でいました。       

2月17日Brand Summit Spring 公式サイトでの発表

2月20日(木):夜に「イベントの開催に関する国民の皆様へのメッセージ」が発信される
それまでは生活者それぞれへのメッセージを中心に発信していた厚生労働省がついにイベント主催者に向け声明をだしました。「一律の自粛要請を行うものではありません」とはあったものの、初めて「あ、ヤバイぞ」と感じました。毎日一次情報をチェックしていて身についた肌感でしたが、お互いの様子を見合っていたイベント業界にとって大きく流れが変わる予感がしました。ただ発表が夜だったので行動はできず、翌朝からの修羅場に備えてまずは寝ました。

2月21日(金):イベントの延期を決定する
前日の厚生労働省のメッセージを受けて参加者の皆さんも開催に際して不安を感じてらっしゃると思ったので、まず朝イチに「本日16時までに実施について協議、結論をお出しします」と一斉メールにてご連絡しました。当日は金曜日だった上に三連休の直前、私たちの決定を受けて参加者の方が社内調整を行うことを考え遅すぎる時間にはならないように、一方で私たち主催者にも考える時間と猶予がほしい、そのギリギリの時間が16時設定でした。長い一日の始まりです。

その後、本社や会場のホテル、多くの関係者と、息の止まるような協議を必死で行いました。あくまで自粛要請ではないという厚生労働省の通達ではありましたが、企業方針等で不参加が増えることで、私たちがこだわってきた「コンテンツのクオリティ」が担保できない恐れ、そして参加者、関係者の健康・安全面を考慮し、延期というとても苦しい決断をしました。

決定してから16時までの間、協力会社のお力も借りして公式サイトでの発表等を整え、関係各位と連絡をとりつつ、事務局全員で想定質問を洗い出し、何度も何度も回答案を練りました。イベント参加費だけでなく、飛行機代の払い戻しなどたくさんの質問をいただくことは容易に想定ができましたが、担当者によって回答が異ってしまってはトラブルを生みますし、対応する者にとっても負担です。事務局としての意見を固めたうえで、参加いただく予定の各社にお電話、メールで状況の説明を差し上げました。この対応で正解だったのか不安だったものの、みなさんとても温かい言葉をかけてくださり本当にありがたかったです。(追記:ちなみに、この質問洗い出しと回答用意も、2月当初から徹底していたルーチンでした。)   

2月21日Brand Summit Spring公式サイトでの発表

実はこの日、私は協力関係にある別のビジネスイベント本番のお手伝いをしていました。イベント自体は感染対策を行った上で滞りなく大盛況で催行されたのですが、会場内で咳をする人がいると、ほんの一瞬、周囲が不安そうな雰囲気に包まれるのを目の当たりにしてしまいました。「あ、連休明けにはこれはもっと不安なムードになってるぞ」とたまたま現場で感じることができたのも、延期を決断する後押しにもなりました。

2月26日(水) 参加予定者へ延期と返金の意思確認
「延期決定」のみのお伝えになっていた参加者の皆さんに、延期開催詳細は状況を注視しつつ3 月中旬~下旬を目途にご案内予定と改めてご連絡しました。同時に、延期への振り替えを希望しない場合は、協賛及び参加費用の全額を返金する方針も決定しました。

コスト面のみ踏まえると、キャンセル費を半額いただいてもまだなお辛いという状況でしたが(イベント関係者の方は容易にお察しいただけると思いますし、我々は恵まれている方だという自覚もしっかりあります)、幸いなことに、関係各社にお願いしよくよくシミュレーションすると、仮に夏ごろに延期開催ができて本来参加予定だった方々が”全員”帰ってきてくだされば、なんとかギリギリ成り立つことに気づきました。本来経営はこんなポジティブに考えるべきではないとわかっていましたが、その可能性にかけてみようと思いました。

加えて、21日(金)延期のご連絡の際に、「早く状況良くなるといいですね!」「延期先でも必ず参加したいので日程お待ちしてます!」とポジティブな意見をいただいていたのも、この決断につなげられる大きな材料になりました。本当にありがとうございます。      

2月26日Brand Summit Spring公式サイトでの発表

以上、2020年2月一ヶ月間のイベント主催者の頭の中でした。いまだに、何が正しいかは分からないですし、先の見通しも不安なままですし、間違っていたことも多いと思います。ただ、こんなときだからこそ、せっかく時間もあるわけですし、記録に残しておこうと思いました。

明日は、第二弾として「緊急ライブ配信編」を書く予定です。こちらはもっと明るい話になりますので、ぜひ合わせてご一読いただけたら嬉しいです。

・基調講演をライブ配信するに至った経緯
イベント業者が初めてライブ配信してみて分かったこと
・ライブ配信の振り返り

引き続き我々は、今ならではこそできることを探し、企業としても個人としてもやっていきたいと思います。ありがとうございました。

SPECIAL THANKS TO :

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②へ続く。


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