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【北欧図書館・最前線2】デンマークから:図書館の延滞料はなくなる?

<デンマーク図書館協会のニュース記事から>

北欧諸国の公共図書館では資料を貸出期限までに返却しなかった場合は、原則として延滞料が徴収される。料金は延滞1日につき0.1ユーロ(日本円で約17円)というところが相場だろうか。延滞料の他にも、貸出図書を持ち帰るためのビニール袋や除籍図書の販売、資料のコピー料金など、図書館では金銭の授受が頻繁に行われる。だから図書館のカウンターにはキャッシャーが置かれていたり、支払い用の機械が設置されている。延滞料はクレジットカードを使ってオンラインで精算することも可能である。
 
これまで利用者が延滞料を支払っている場面に何度か出会った。貸出期限を過ぎて本を借りていることは、他の人の利用の機会を奪うことだから、もちろん返却期限を守ることは図書館の基本ルールである。だが私が見た限り、延滞した人はそれほど恐縮した様子は見せていないし、司書もビジネスライクに淡々と金銭の授受をしている。中には司書と楽しそうにおしゃべりをしながら延滞料を払っている人もいる。延滞料イコール罰金ととらえていた私にとって、談話しながら延滞料を払うその光景は少し不思議だった。
 
延滞料や図書館での課金については、どこの国でも図書館法に規定されている。その上で具体的な料金については、個々の図書館が図書館規則の中で定めている。規則の中の延滞料の説明を見ると「罰金」ではなく「指定期間を超えて利用する場合の料金」のような表現をしている図書館もある。そうした説明からは、図書館の延滞料を公共財を使用するときの<オプション>ととらえた方が適切なのかもしれない。「本当は返さなければならないのだけど、まだ読み終わらないんです。申し訳ないけどもう少し貸しておいてくださいね。そのかわり料金を払いますよ」といったニュアンスが感じられる。
 
延滞料は北欧だけでなく北アメリカ、オセアニア地域でもごく当たり前の制度なので、「公共財を規定の時間を超えて占有する」ことに対して、相当の金額を支払うというスタイルが定着していると言える。一方、延滞料を徴収しない日本はきわめてレアケースなのである。
 
ここで確認しておかなければならないのは、公共図書館の基本サービスは無料でなければならないという原則である。この無料原則は情報・知識・文化へのアクセスを保障する公共図書館の中核的な理念となっている。「基本サービス」とはなんだろうか。多くの図書館では、館内での資料の閲覧,資料の借り出し,レファレンスサービス,図書館に備え付けられている機器の利用,館内滞在を基本サービスと位置づけている。
 
これ以外の特別なサービス、たとえば資料の取り寄せ、高度な学術的内容に係る調べ物、有料データベースを使って行う情報サービスなどを課金対象とする図書館が多い。また公平に配分されるべき公共財の一時的な独占を、基本サービスの範疇には含まれないと解釈し、新刊書やベストセラーの貸出などに課金する図書館もある。
 
北欧では徴取された延滞料は図書館の予算に組み入れられ、必要な経費の支出に当てられる。つまり図書館にとって延滞料は、確実に入手可能な運営資源として図書館経営の中に位置づけられてきた。そんな北欧諸国デンマークで、延滞料をめぐる議論が最近活発化しているというニュースがデンマーク図書館協会のニュース記事で伝えられた。
 
その記事によれば、デンマークでは複数の自治体が延滞料の廃止を検討しているという。グローストロプ図書館では試行期間を経て延滞料を廃止した結果、利用者が増加したことが判明した。複数の自治体がすでに子どもの延滞料を廃止しており、今後コペンハーゲン市でも延滞料の徴収について議論が始まるとのこと。
 
こうした延滞料廃止の動きの背景には、デンマークにおける読書量が減少しているという懸念があることが記事では指摘されている。延滞料の徴取を廃止することが、読書への障壁を下げる一つのきっかけになるのではないかという期待が寄せられているのだ。一方で延滞料が廃止されれば、図書館予算の大幅な減少は確実であり、図書館は減少分の予算をどこかから調達する必要に迫られることになる。
 
延滞料廃止をめぐる議論はアメリカ、イギリス、ニュージーランド等でも活発になっており、今まで図書館界でごく普通のこととして受け止められてきた延滞料が、世界的に揺らいでいる。
 
出典:Paw Østergaard Jensen, Afskaffelse af biblioteksgebyrer er godt for læselysten, men udfordrer budgetterne, https://db.dk/nyheder/afskaffelse-af-biblioteksgebyrer-er-godt-for-laeselysten-men-udfordrer-budgetterne/


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