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越えた瞬間。

少しずつ紅葉が始まろうとしている9月末の、北アルプス。

私は北穂高から大キレットを越えて、槍ヶ岳まで歩く。またそれを往復するというチャレンジをしていた。その続編です。

▼前回の記事はこちら

『大キレット』
と呼ばれる、V字に切れ込んだ岩稜帯を越えると、美しい縦走路が見えてきた。
両脇には、北アルプスの山々が連なり、その真ん中をスキップ気分で歩いていく。

南岳を越えて槍ヶ岳へ続く、美しい縦走路
まるで龍のような雲が。

山を眺め、時々腰を降ろしておやつを頬張り、すぅーっと深呼吸。山でのゆったりとした時間を過ごす。すれ違うハイカーたちはいるものの、他の登山道に比べると人が少ない道だ。

ガヤガヤ感がなく、風の音と、時々何かが鳴く音がする。それ以外はほぼ無音な世界。そこに時々私のため息が響く。

今日の時間が、本当にありがたい。

そして、歩いていくと、どんどん槍ヶ岳が近づいてきた。穂先がくっきりと見える。

遠くから槍ヶ岳を眺めているときは、穂先がキリッと尖っているように見える。けれど、槍に近づくと、「穂先は平らなんだ」と気づく。

そう言えば、遠くに見える富士山を見て、
「富士山のテッペンって、尖ってないんだぁ」という呟く登山者がいたことを思い出した。

その時は「当たり前だよ〜」と心の中で呟いていた私だったけれど、同じ感想を言っている自分に笑ってしまった。(あの山頂に立てるくらいのスペースはあるもんね。)

それにしても、やっぱりここは"アルプス"なんだなぁと思う。

アルプスと言えば、スイス。
6年ほど前に初めて、長期で海外一人旅をした。その渡航先に選んだのが、スイスだった。

そのスイスで有名な山が、マッターホルン
ツェルマットという麓の街から眺めたマッターホルンと、槍ヶ岳がそっくり。

ツェルマットから見えたマッターホルン

目の前の景色と記憶とがピタッと重なった。
昔、海外を旅してワクワクしていた頃の記憶が蘇り、さらに嬉しくなってくる。

そうこうしているうちに、
あっという間に、目的地の槍ヶ岳へ。

そして、先程遠くから眺めていた穂先に、
登頂した。

ここまで約6時間の道のりだった。

山頂からの景色
スタートした北穂高小屋が見える。
本当に岩壁に建っていた。

山頂は、見事に晴天、無風。
賑わいをみせていたので、ゆっくりしづらかったけれど、

3180mから見える景色は、
いつまでもいつまでも見ていたかった。




大キレットと隣り合わせで暮らした1ヶ月。
いつも見ていた角度とは違うところから、
アルプスの山々を眺める。


いつも同じ角度から自分の暮らしを見ていると、だんだんと視野が狭くなる感じがした。
私を俯瞰して見れない。

けれどこうして、遠くから暮らしていた場所を見てみると、ありがたみや、自分自身のちっぽけさを感じる。

もう少し伸びやかに、深呼吸してみようと思える。少しずつ、心に余裕が戻ってきていることが、よくよくわかる。



同じところに留まるよりも、
こうして動くことで、運は動く。
私、運よかったよなって、思える。
そんな実感がもてた。

心が落ち着いたところで、山頂を後にして、今日のお宿「ヒュッテ大槍」に向かった。



翌朝、ヒュッテ大槍から見た
モルゲンロート

小屋でゆったりとした時間を過ごして、翌朝また、大キレットの方を目指した。

大槍の食事はめちゃくちゃ美味しくて。冷食をなるべく使わずに、手作りで提供してくれているのだとか。そんな心遣いに、温かみを感じる。

けれど、白米は北穂高小屋のほうが美味しかったなぁ。また戻って、お昼ご飯は北穂高で食べよう。

そんなことを思いながら、
もと来たルートを戻っていった。


同じ道のりのはずなのに、
全然違う道のように思えた。

角度を変えるだけで、
自分自身を見つめ直すことができる。

新しい自分を知ることができる。

まだまだ私、伸び代はたくさんあるんだなぁと思う。

悶々としていたこと。
何か滞っていた気持ち。

そういったことも、大キレットを越えたことで、一緒に越えられた気がする。



これからに希望が持てた、2日日間となった。


チャレンジさせてくれて、ありがとう!


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