見出し画像

できるかもしれない。

何かやりたいことがあるなら、
それを既に叶えている人の側に行くといい。

なぜなら、
環境が整えば、人は簡単に変わるから-。


危ない登山道をあえて歩くという選択


もともと「危険」だと言われる登山道を
歩いてみたいなんて思ったことがなかった。
安全でゆったり景色を眺められる縦走路が、
私にとっては心地よい。

もちろん、それは今も大きくは変わらない。

けれどここ数日で、
そんな危ないと言われる道を、
ちょっと「チャレンジしてみたい」という気持ちがむくむくと湧き上がってきていた。

まさか自分が、
北アルプスの最難関ルート」だと言われる、【槍ヶ岳ー南岳ー北穂高】を結ぶ登山道を
歩いてみたいと思う日が来るなんて。

そんなこと、思ってもみなかったことだった。


奥のトンガリが、槍ヶ岳山頂。
北穂高側から撮影。
ギザギザしているところは登山道。


北穂高から岩凌がんりょうをたどり、南岳を通過して、
最終的に槍ヶ岳山頂へ。
ここは岩凌帯と言われ、登山道になっている。
登山用語で「大キレット」という。

http://www.kitaho.co.jp/surrounding-mountains より

山小屋に、「『槍・穂』名峰誕生ミステリー」という本があった。そこに槍と穂高、そして大キレット誕生秘話が綴られていた。

簡単にまとめると、
(岩に興味がない人は飛ばして読んでね)

176万年前に、
北アルプスの槍ヶ岳と穂高連峰は誕生したと言われている。

地下に眠る火山が噴火して、
同時にカルデラが形成された。
(箱根の芦名湖もカルデラからできた湖)

火砕流に乗って
火山灰がカルデラ内に流れ込み、
溶けて固まって積み上がり、山が造られた。

さらにその後2度に渡って
その山肌は氷河で削り取られて、
今の槍・穂高が形成されたのだとか。


この槍ヶ岳と北穂高を結ぶルートは
かなりの難所だと言われていて、
道迷いや滑落による死亡事故も珍しくない。

実際に山小屋に来てからも、
北穂高付近の登山道での事故は起きているし、
滑落による死亡事故もある。

そもそも
「大キレットを歩いてみよう」と思いついた
昔の山の旅人はすごいなぁと感心してしまう。

話は変わるけれど、
私は期間限定で、その大キレットの一角にある山小屋で働いている。

その道を歩いた登山者を迎え入れたり、
送り出したりしているのだ。


あの人も、この人も、
あの難所を乗り越えてきたんだ‥‥。

達成感に満ちている彼らを間近で見ていると、
今まで興味がなかった「大キレット」にも、
不思議と興味が湧いてくる。

いや、興味がなかったわけではなくて
「私には無理だ」と思っていたのだ。

こんな険しい山道、歩けたらすごいだろうけれど、実際に歩くことは想像しにくかった。

危険なところを、危険をおかしてまで
本当に歩く必要があるのだろうか?と
思うし‥。(普通、そう思う人が多いよね‥)


けれど、来る日も来る日も
実際に達成した人達と触れ合って、
何度もキレットを歩いたことがあるという方々の話を聞いていると、

「私にもできるんじゃないか?」
と思うようになっていた。

「私もキレットを歩いてみたい」

「岩凌の向こう側、槍ヶ岳に到達してみたい」


そんな願望が、いつの間にか芽生えていた。

初めての大キレット

ある日のこと。

小屋のスタッフに許可をもらい、
少しだけキレットを歩いてみるチャンスが巡ってきた。

ヘルメットを被り、準備を整えて
キレットの入り口へと向かった。
すぐに急な降り道が始まる。

体の軸を安定させ、浮石に注意しながら、
慎重に降る。

荷物をほとんど持っていなかったので、
身軽な状態で降りることが、逆に怖い。
梯子を降りる時に、
体がふわりと浮く感覚がある。

岩にできるだけ体を近づけて、
体がぐらつかないように
一歩ずつ進む。

しっかり足場を捉えておかないと-。

緊張感が走る。

このような岩壁の道を歩く。
◯があるところが、登山道

目標地点で折り返し、
1時間後、小屋に戻ってきた。


少しの距離を歩いただけ。
それでもめちゃくちゃスリルがあった。

ちょっと怖かった。
足がすくんだ。

けれど、
「これはおもしろい」。

ワクワク、ドキドキ。
鼓動が高鳴る。

こうしてまた、
新しい世界に足を踏み入れてしまった。

槍ヶ岳から北穂高までの縦走を
近いうちにしてみせる。

心の中に生まれたその想いを
はっきりと、捉えた。

今すぐにじゃなくてもいい。
危険を伴う場所だから、安全第一で
ベストなコンディションで必ず来る。

目の前にそびえ立つ槍ヶ岳に、
新たな目標をそっと誓った。

環境の力を追い風に


大キレットを歩いてきた人たちと触れ合い、

「大キレットを歩く」という体験が
少しでもできたからこそ、
最後まで歩ききることのイメージが湧いた。

私は普段コーチングのセッションをしていて、その時も
「目標に対して良いイメージが持てるか」は、とても大切にしている。

もし叶えたいことがあるなら、
既に叶えている人と多くの時間を共にすることは大切な要素。

良いイメージができるからこそ、
感覚を簡単に変えてしまう力が生まれるからだ。

そしてさらに、
その目標に向けて小さく体験していくことで、
達成への近道になる。

今回キレットを歩いてみて
「やっぱりそうだよね」と、確信した。

朝焼けと槍ヶ岳


環境が人を変える。
人はいつだって、願えば叶えられる力がある。


その力を追い風に
一歩踏み出すことができたら、

大きな一歩だと思っていたことが
いつの間にか小さな一歩になっている。

大きな力を借りると
壁を簡単に乗り越えられるようになっている。


もちろん危険な道だということは、
忘れてはならない。

けれど、こうして新しい世界を見れるのだと思うと、ワクワクする。

希望を持ち続けられることは、
明日を生きる活力にさえもなれるのだ。


▼noteから生まれた初めての著書


この記事が参加している募集

山であそぶ

いつも楽しく読んでくださり、ありがとうございます! 書籍の購入や山道具の新調に使わせていただきます。