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私の町と大好きな人と

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私の町と大好きな人と③

毎日夕方になると、近所の銭湯の男湯から大音量の「同期の桜」が聞こえてきた。たまにそれは「浪曲子守唄」のこともある。
とにかくその声の大きさときたら、銭湯の前どころか商店街の一帯に響き渡るが、町の人たちは毎日のことで慣れっこで誰一人立ち止まることもない。

声の主は鳶のさんちゃん。年のころは50代。酒に酔っていなければなかなかの好男子なのかもしれないが、常に酔っぱらっているから赤ら顔で目が座っていて

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私の町と大好きな人と③

父の死は突然だった。いや心臓を何年も病んでいたのだが、普通に日常生活を送り美味しいものを食べて外出もしていたので、最後は発作を起こして救急車で運ばれて数日看病をすることになるのかな、くらいの覚悟しかしていなかった。
その日の朝も、少し気持ちが悪い、咳が出るというので、念のため医者に診てもらうかくらいの軽い気持ちで家から車で5分ほどのかかりつけの病院に母と私と一緒に向かった。
そのタクシーの中で父は

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私の町と大好きな人と②

愛されていたなあと思う。どうしてあんなに愛してもらえたのだろう、あの町で。どうしてあんなに誰をも愛したのだろう、あの町は。

東京オリンピックがあって町には高速道路が走り、表通りにはビルが建てられていったけれど、まだまだ誰もが自分のことを(お医者さんでさえ)「貧乏暇なし」「貧乏人には縁がない」と平気で貧乏と言える時代だった。

なんとかなったのだ。正しい仕事が何かわからないおじさんがいた。木戸が壊

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私の町と大好きな人と①

少しまじめにテーマをもって書いた方がいいのかな、と思った。どこかに書き残したいと思っていること。私の町のことを書いていこう。

私が生まれ育った町は東京の城西にある町。山手線沿線の中でおそらく最後までパッとしない、たいして発展しない町だとふんでいたのだが、いつの間にか誰もが知っている全国区の町になった。

私の父方の祖父は関東大震災で焼け出され、壊滅的な被害を受けた下町から無傷だった今の地へ引っ越

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