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いよいよポルトガルでのパン研修1日目

緊張しつつも、朝6時に到着。私は6時からだったけど、他のパン職人さんたちは、早番は4時から、遅番は私と同じ6時から。

家を5時半に出る。リスボンの1月の朝は、夜明けがとても遅い。朝7時くらいまでは真っ暗で、まるで夜中みたいだから、必要以上に早朝に出勤している気分になる。到着すると、すでにオーブンで天然酵母系のハードパンたちがどんどん焼かれて並んでいた。

朝5時半の家の前のアルファ地区の景色。テージョ側には大きなフェリーが停まっていた。


ISCOのパン職人たちは、女性チーフのジョアナ、ブラジル人のフィリッペ、若い女の子ジェシカ、そしてアフリカ系のレヴィ。この4人で回している。 一緒に仕事をしながら皆の身の上なんかを聞いていると、それぞれ違う分野からパン職人に転向してきた人ばかりで面白い。

背が高くてすらっとした、30歳くらいのジョアナは元々料理人で、リスボンの名当たる有名シェフたちのレストランを研修も兼ねて渡り歩き、そのうちこのISCOで研修をしているうちに、パン作りに惹かれて職人となった。それから、料理人時代の、労働時間の長さにも限界を感じたというのも、パン業界に移行した理由であるらしい。料理人の労働時間に関しては、私も色んな気持ちがあるので、またゆっくり別の機会に書いておこうと思う。元々料理人だけあって、日本の麹や色んな発酵食品のこともよく知っていて、話に花が咲く。責任感もとても強くて、休みの日も必ず店に顔を出していた。


これも30歳くらいのブラジル人男性フィリッペは、元々エンジニアだったそう。なんと子供がすでに3人もいるそう。彼は近い将来に自分の店を持ちたいという夢があるので、その夢に向かって今修行中。この店に来てからは約1年らしいけど、パンにかける情熱は凄くて、天然酵母のことも本当に詳しくよく教えてくれた。日本のパンの製法にも興味があるらしく、「Yudaneていうやり方が日本にはあるんだよね?」などと色々聞かれた。湯だねって、日本がメインで使っている製法だったのか?確かに、あの湯だねで作るモチモチ感は、こっちではあんまり見ないかも。

今22歳のジェシカもパン職人になってまだ1年。彼女は元々翻訳家として仕事をしていたそうだけど、今はパン職人として、とても頼もしい存在だ。力もあるし、常に自分が納得できいない箇所や、どうしてそうなるのかわからないことは、先輩に相談しながら、悩みながら、試行錯誤している。それからとてもおしゃべりで、作業しながらずっと段取りのことやらテレビのことやら、口も手も忙しくしている。私にも一生懸命色々教えてくれて、とてもいい子だ。


そしてアフリカ系のレヴィは、(どこの国出身か聞くのを忘れていた)、このベーカリーではオープニングから働いている、一番古株の職人。と言っても3年前だなのけど。彼は、なんと元々弁護士だった。おしゃべりはあまりせずに、仕事はとにかく黙々と的確な速さで行い、観察力もあって鋭い。パンに対する探究心がどれくらいあるのかは、この1週間ではわからなかったけど、理屈よりは、手や目などの感覚で把握し、きちんと手早くこなすタイプなようだった。それでも私ができない時は、何度でも辛抱強く繰り返しやり方を見せてくれたし、私が手持ち無沙汰にならないように、常に色々指示してくれたり、出来の良いパンを家に持って帰って食べるように渡してくれたりもした、とても優しい人だ。


この4人と、6日間一緒に仕事させてもらった。このほかに、カフェスペースとパン販売の担当の人たちが朝7時半くらいに2名出勤してきて、8時に開店。その後朝10時半に、ランチやサンドイッチを担当する料理人ウーゴが出勤する。店全体で、こんなに小さな店でも、12名も従業員がいる。

こんな風に、朝パンが並べられていく。


朝到着するとまだあたりは真っ暗な中、ISCOの店の明かりだけがついている。前回のイベントで、すでに皆と顔見知りだったとはいえ、今回は研修で、この中で色々教えてもらいながら働くわけだから、店に入る前は緊張した。店に入ると、ちょうどパン職人のメンバーがエスプレッソマシーンでコーヒーを入れているところだったから、私も一緒にカフェラテを入れてもらい、ちょっとおしゃべりしてリラックス。

ジェシカにハード系パンの仕込みの段取りを一番初めに、すごい早口で説明してもらった。ホワイトボードに書いてある色んな数字が、頭にすぐに入ってこなくて、しかも慣れない早起きで、頭がぼーっとしていて正直最初は何のことやら良くわからなかった。

「まずこれらのパンは全部最初にオートリーズして、その後他の材料を加えて捏ねていきます。今日はここに書いてある量を作るから、これだけの量の小麦粉と水をまず合わせていきます。」と言いながら、小麦粉のパン、スペルタ小麦のパン、ライ麦のパンの3種類の段取りを教えてくれる。 今までいた世界と全く違うから、頭が付いていくのに必死だ。でも、ずっと知りたかった作り方の流れや段取りが目の前で実際に見ながら勉強することができて、めちゃくちゃ面白い!

そんな感じで、色んな説明をしてもらいながら、発酵が終わったブリオッシュ生地を丸める作業に参加したり、Pão de leite(パオン・デ・レイテ、こちらではどこのカフェにも置いているミルクパン)の成形をひたすら手伝う。

こちらのベーカリーと日本のベーカリーとの一番の違いは、パンの種類の少なさだと思う。惣菜パンなんてほとんどないし、大体は、カンパーニュなどのような田舎パンや、小さな丸パン、食パン、ブリオッシュ、クロワッサンくらい。食事パンといえば、せいぜいハムとチーズを挟んだサンドイッチくらいで、日本みたいな色んなお惣菜が入っているパンはほとんどない。甘いパンだって、パン・オ・ショコラやシナモンロールなんかが最近できたお洒落な店にあるくらい。カフェに行くと、もうちょっと色んな種類の昔ながらの菓子パンが揃っているけど、正直言って、手作りの、小麦や素材の味を大事にしているような店は、リスボンではあまり見ない。できることなら、リスボン以外の他の町や村で、美味しい、素材に正直な味がする天然酵母のベーカリーやカフェがあったらぜひ教えてもらいたい。

そんなわけで、きっとこちらでは、日本のベーカリーとは働き方がだいぶ違うのではないかと思った。

こんな源氏パイも毎朝少しずつ手作りしていた。










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