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息子の旅立ち〜親離れ宣言と子離れ宣言

旅立ちの日の朝

隣の部屋から轟く、イビキの音。
鳴り止まない目覚まし時計の音。

洗面所からは、
シャカシャカシャカ…という歯磨きの音。
ジージー…という髭剃りの音。

いつもと変わらない、朝の音。

私がドライヤーで髪を乾かすのに下を向くと、
私の右足の隣に、息子の左足が見えた。

人差し指が長く、指と指との隙間が空いている。
サイズ違いの、そっくりな足。

旅立ちの日の朝は、全くいつも通りの朝だった。


子供は神様からの預かり物

いつか、誰かが言っていたね。
"子供は神様からの預かり物"だと。

預かり物なんだから、
大切に大切に扱ってきた。
汚さないように、壊さないように。

ただ、
そんな様子を見ていた神様は、
「こんなに大事にし過ぎては、この預かり物はダメになる!」
と、お思いになり、
キミに必要な経験を与えて下さった。

そのおかげで、キミは、
"太くてしなやかな強さ"という武器を
手に入れることができたんだ。


特別なパワーを持った剣

キミは、幼稚園児の頃、
毎日のようにチラシで作った剣を
幼稚園バッグに刺して帰ってきていたね。

そして、そのチラシの剣を振りかざし
見えない敵と戦っていたね。

今回、キミが手に入れた剣は特別なものなんだ。
誰にも見えない上に、太くてしなやか。
チラシの剣のように、すぐには折れたりはしない。

誰にも見えない武器なんだから、
いつだって、どんな相手にだって振りかざすことができるんだ。

見えない敵と戦う…というのは、幼稚園児の頃と変わらないのかもしれない。
そして、その「見えない敵」は
ひょっとすると、自分自身だったりするのかもしれないね。

今回、キミは最強のアイテムを手に入れた。
だから、これさえあれば大丈夫!
安心して社会で戦っておいで。

そして、神様へ。
例の"預かり物"ですが、
もう私の手に負えないくらい大きくなり過ぎました。
そろそろお返ししますね。
ところどころ傷が付いているところがありますが、
その部分は補強してありますので、
より一層頑丈になっていると思います。
何かのお役に立てていただければ幸いです。


"さよなら"が苦手な息子

きっとみんなは思うだろう。
「子供がいなくなって寂しいよね」って。

でも、実のところ
一番寂しがっているのは、息子本人なんだと思う。

息子は、小さい頃から「さよなら」とか「バイバイ」が苦手な子だった。

まだ息子が3歳くらいの頃、私が童謡「サッちゃん」の三番を歌うと、決まってとても悲しそうに泣いたんだ。

「サッちゃん」の三番の歌詞って知ってる?

"サッちゃんがね
とおくへいっちゃうって ほんとかな
だけど ちっちゃいから ぼくのこと
わすれて しまうだろ
さびしいな サッちゃん"

それから、
小さい息子の前で、
「おっぱいバイバイ」
と言いながら下着を付けると
「うゎ〜ん😭」と泣いていたっけ😆

「さよなら」が苦手だから、
大きくなっても
出かける時には、何度も何度も後ろを振り返っていたんじゃないかな。
前世は、悲しいお別れを経験した人なんだろうな、きっと。

寂しさに耐えてこそ、強くなれるんだ。
頑張れよ。


静まり返った家の中

空港で息子を見送ったあと、
主人は単身赴任先、私は1人自宅へ。

ガラーンと、静まり返った家の中を眺める。

いつものように、
リビングに脱ぎ捨ててある息子のパジャマ。

ガスレンジの上には、
今朝の食べ残しの鍋。

冷蔵庫を開けると、
息子のために買っておいた
特大プッチンプリンと
冷凍庫のセコマのアイス。

もうこれからは、
「明日の朝、何か食べる物あったっけ?」
という心配をすることもない。
買い物をする時にも、
子供たちの顔を思い浮かべる必要もない。
何時に帰ってくるの?
夕飯いるの?
という確認も不要。

好きな時間に起きて
好きなものを食べて
好きな時間にお風呂に入って
好きな時間に寝れるんだ。

なんて自由な私!


息子からの手紙

本当に、終わってしまったんだな。
あっという間だったな。
楽しかったな。子育て。

改めてそう思う。

私が、命をかけてやってきた大仕事だった。
命をかけても守りたい存在だった。
今は、やり切った感でいっぱい!
悔いはない。

子供たちからすると、いろいろ不満もあっただろうが、
その点はどうか許してほしい。

こうやって、子供を送り出すことができる幸せ。
子供たち、本当にありがとう。
私を、母にしてくれてありがとう。

これからは、
君たちに心配かけないように暮らしていくことが
私達親の役目。
だから安心して羽ばたいてほしい。

空港で渡された息子からの手紙。
手紙の最後は、
〜親離れ宣言〜
と締めくくられていた。

私も大きな声で言おう。
〜子離れ宣言!!〜

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