見出し画像

「書く」=「思考」

先日、ネットの記事で「うのみをする」という言葉を見かけた。内容からすると「鵜呑みにする」ということなのだろう。

たまたま「うのみする」の"に"を、"を"と打ち間違えただけなのかもしれない。しかし、ひょっとすると筆者は「鵜呑みにする」という言葉を知らなかったのかもしれない。それとも、インタビューの内容だったので、インタビューに答えた人が「うのみをする」と答えて、そのまま記事にしてしまったのかもしれない。

仮に、インタビューに答えた人が「うのみする」と言ったのだとしても、私なら(プロでもなんでもない私が言うのはおこがましいが)「うのみする」、そして平仮名ではなく「鵜呑みにする」と書くだろうなぁと思った。

文章を「書く」ということ。            それは、書くことを職業にしている人だけに必要なことではない。どんな職業に就いたとしても、文章を「書く」ということからは逃れられない。

逃れられないのは、社会人ばかりだけではない。学生だって、レポートや卒論、就活の際にはエントリーシートなど、常に「書く」ことにつきまとわれている。

小中学生では、作文や読書感想文。私は、あの夏休みの宿題に出された、読書感想文が大嫌いだった。

高校生の時には、こんなことがあった。       私が読んでいたのは、その時の課題図書、遠藤周作作の「沈黙」。読み始めたのはいいものの、さっぱり内容が頭に入ってこない。と、ちょうどその時、テレビで「沈黙」の映画が入っていた。なんというグッドタイミング!それを観てすんなりと内容が理解できた私は、あっという間に感想文を書き上げることができた。

たしかに、読書感想文は、その本の内容を理解しなければ書けない。いや、読書感想文だけではない。物を書くということは、その内容を理解し考えなければできない作業なのだ。

「書く」ということは、すなわち「思考」ということに他ならない。

私にとって「書く」ということは、幼い頃から身近なものだった。幼稚園児の時には、親に絵日記を書かされていた。「書かされていた」と言ったが、当時は嫌々書いていた。小学校になっても「日記」を書かされていた。親のために仕方なく書いていた。

小学校3年生の時に、国語の先生が担任になった。私の文章の師匠は、この先生だと言っても過言ではない。作文の基本を、しっかりと教えて下さった。ただ起きた出来事をダラダラと書くのではなく、ひとつのことに的を絞って書くように…というような指導をされた記憶がある。そして、この女性の先生のおかげで、私は文章を書く楽しさ知った。

高学年の時のノートを見返してみると、実に面白い。 これは私の記憶からすっぽり抜け落ちていたのだが、これはまさしく文章の訓練ノートと言っても良いと思う。

どんなものかと言うと、与えられたテーマについて時間制限内に書くというもの。例えば「宿題」というお題について5分以内に書く、というものだ。どの日も大学ノートの1ページに収まるくらいの文章量になっている。時間制限が設けられていると思ったのは、途中で尻切れトンボになっている文章がいくつも見受けられたからだ。これは、とてもよい訓練だと今でも思う。

また、「私が本だったら」「私が時計だったら」などの、実際にはあり得ないことを文章に書く授業もあった。そして、特に印象的だったのは「静か」という言葉を使わずに"静か"という表現を文章で表す、というもの。これも、文章を書くにはとてもよい訓練だったと思う。自分の頭の中でいろいろ考えて捻り出して書いた記憶がある。

先程、小3の時に文章を書く楽しさを知ったと書いたが、同時に書くことの苦しみも知った。今のように、パソコンやスマホで文字を打ち、間違えたら削除し、コピペができた時代ではない。原稿用紙に書いては消し、書いては消し、それはそれは気が遠くなる作業だった。途中まで書いたはいいものの、途中に入れ込みたいものが出てくると、そこまで書いたものは全部消しゴムで消さなければならない。私にとっては、本当に辛い作業だった。

しかし、自分の子供たちが作文を書いている様子を見ると、下書きなしでいっぺんに書き上げている。私には到底信じられなかった。書き直したくはならないの??

ごく最近聞いた話なのだが、今の小学生は、私が経験してきたような作文の授業はないそうだ。作文に割く時間を確保できないとのこと。たしかに、それもわかる気がする。

しかし、時代が変わり、いくらITが発達したと言っても、今も昔も「書く」ということについては何も変わらず、どこまでも自分について回るものだ。だとしたら、やはり文を書く訓練は必要なのではないかと思う。それは、なにも感動的な文章を書けるようにならなくてはいけないのではなく、最低限人に伝わる文章を書けるようになる必要があるのではないかと私は思う。





この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?