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経営者のタイプと取締役会のガバナンス:CEOの二重性

前回に引き続きFedero et al. (2020) から取締役会の構造の要素についての先行研究のレビューを検討します。

今回はCEOの二重性 (CEO duality) です (p. 356)。

ここで二重性とは例えば経営者が代表取締役社長と会長職を兼任することです。日本でも兼任はよく見られる事象です。

それではFedero et al. (2020) の内容を要約していきます。

CEOの二重性が見られるのは経営者が創業者のとき?

Filatotchev (2006)、Westphal and Bednar (2008)、Westphal and Zajac (1998) 等の研究では創業者が支配し機関投資家が所有する企業が会長を務めるCEOを持つ傾向にあることが示されています。

一方で、この傾向が見られないと主張するのがDaily and Dalton (1992)、Elsayed (2010)、Nahata (2019) です。

このようにCEOが会長を兼任する企業の特性についても先行研究で見解がわかれているようです。

CEOの二重性と経済的帰結

CEOが会長を兼任することで最も懸念されるのが権力の集中です。

エージェンシー理論はエージェントである経営者がプリンシパルである株主の価値を高める経営行動をとるとは限らず、自身の私的便益を追求する可能性があることを教えています (Jensen and Meckling, 1976)。

このような経営者の私的便益の追求行動を阻止する方法の1つが経営者に対するモニタリングであり、取締役会はその役割を担うことが期待される1つの主体です。

しかしながらCEOが会長を兼任することで取締役会のモニタリング機能が有効でなくなる可能性があるのです。結果的にCEO兼会長による私的便益追求行動が生じるかもしれません。帝国建設 (empire building) はその代表例です。

一方でCEO兼会長の方が社会的活動に従事することで自身・企業の評判を高めようとするかもしれません。意思決定のスピードも迅速になると思われます。以前、レビューした際に取り上げた社会情緒的資産 (Socioemotional Wealth) に近いものを感じます。

Federo et al. (2020) のレビューを読むと、CEOの二重性と経済的帰結の関係に対する所有権の影響は結論が出ていないようです。

以下に要約します。

・Berrone et al.(2010):家族所有がCEOの二重性とCSRエンゲージメントの正の関係をより強くする

・Chen and Hsu(2009):家族所有が研究開発(R&D)投資に対するCEOの二重性の正の効果を減少させる

・Desender et al. (2013) Nowland (2008):家族所有、企業所有、機関投資家所有はCEOの二重性と財務パフォーマンスとの間の負の関係を覆す

冒頭で指摘したように日本の上場企業においてCEOの二重性は珍しい現象ではありません。この経済的帰結について探るのは興味深い研究課題です。

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