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ファンダメンタル分析と将来業績:のれん

会計処理の方法は各国で異なる場合があります。

とくに「のれん」をめぐる会計処理は日本基準と国際会計基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)とで大きく異なります。

日本基準は「のれん」を規則償却することを要求します。対照的にIFRSでは「のれん」は規則償却せずに減損処理の対象となります。

日本の中にはM&Aにより大規模な「のれん」を貸借対照表に計上する企業が存在します。

今回は『会計情報のファンダメンタル分析』(桜井先生・音川先生編著)の第4章の「のれんと将来業績の関連性」です。

先行研究レビュー:組織再編と株価パフォーマンス

本書はまずファイナンスの研究領域で盛んに研究されてきた組織再編と株価パフォーマンスに関する先行研究レビューをしています(pp. 58-59)。

例を挙げれば・・・

Pettway and Yamada (1986)・村松(1986)・Kang et al.(2000)・薄井(2001)・山本(2002)・長岡(2005)・井上&加藤(2006)などなど

とくに山本先生の『企業戦略評価の理論と会計情報』は個人的な愛読書の1つです。

これらの研究の証拠は首尾一貫していないようです。

先行研究レビュー:米国企業の「のれん」を対象にした研究

米国企業は「のれん」を規則償却しないようです。したがって米国企業を対処にした研究の成果が日本企業に必ずしも当てはまるとは限りませんが、米国企業を対象にした研究を整理しておく作業は重要かと思います。

本書は以下の研究をレビューしていました。

・Shalev(2009):M&A情報に関する開示水準が高いほど将来業績が良好となる

・Lee(2011):のれんに関する項目の将来キャッシュフロー予測能力が財務会計基準書(SFAS)第142号導入後に高まる

・Gu and Lev(2011):買収企業の過大な株価がその後の積極的なM&A活動、のれんの増加、のれんの減損処理と正の関連性を有する

・Li et al.(2011):のれんの減損損失がその後の収益性の低下を示す先行指標である

・Bens et al.(2012):M&A発表時の株価反応が負である場合ほど、その後の期間において財務諸表の修正再表示が行われやすい

のれんと将来業績の関連性

本書は先行研究レビューを通じてのれんと将来業績の関連性について対立する2つの見解を提示しています。

第1に「被買収企業・子会社の超過収益力、または買収企業と被買収企業や親会社と子会社のシナジー効果を評価したものがのれんである」(p. 60)という見解です。この場合、のれんの計上額が大きいほど将来業績が良好になると予想されます。

第2に「超過収益力やシナジー効果を誤って過大評価したり、組織再編を是非とも成功させるために過大な対価を支払ったりした結果として多額ののれんが貸借対照表に計上される」(p. 60)という見解です。

これらの見解のうちいずれが妥当性を有するかは実証的課題です。

分析結果

サンプルは2000~2007年度で所定の要件を満たす2,321企業・年度です。とくにのれんの金額が前年度から増加している企業だけにサンプルを限定しているのが特徴です(したがって分析結果がサンプルセレクションバイアスを包含している点は否めない気がします)。

分析の結果、のれんの金額が大幅に増加した企業群は小幅に増加した企業群と比較して将来の収益性が有意に低下することが明らかとなりました。また、のれんの金額が大幅に増加した企業群の将来リターンも有意に低いものでした。

上記の結果は超過収益力やシナジー効果を誤って過大評価したり、組織再編を是非とも成功させるために過大な対価を支払ったりした結果として多額ののれんが貸借対照表に計上される」(p. 60)という見解と整合的です。

本書の結果はのれんを計上する企業を評価する際に有用と言えます。

のれんをめぐる会計基準の動向は今後も大きな関心事となるでしょう。注目していきたいですね。

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