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経営者のタイプと取締役会のガバナンスについて:家族経営と孤高な創業者の違い(SEW)

前回はFedero et al. (2020) の表4を整理しました。そして①経営者のタイプと②取締役会のガバナンスが相互に関連しており、それらが③経済的帰結に影響を与えることを示しました。

今回は①経営者のタイプについて検討を加えることにします。Federo et al. (2020) は経営者のタイプとして以下の6つを挙げています。

・家族

・孤高の創業者 (Lone Founder)

・企業

・機関投資家

・ベンチャーキャピタル

・国家

今回は「家族」と「孤高の創業者」に注目します。

家族経営における社会情緒的資産

家族経営の異質性を説明するうえで近年、社会情緒的資産 (Socioemotional Wealth:以下、SEW) が注目されているようです。

家族経営と孤高な創業者の違いについてFedero et al. (2020) はSEWを取り上げています。

孤高な創業者は会社を創業した起業家であり、会社の過半数の株式を所有し続けていることが多いです。

創業者と家族経営を1つのグループとみなす研究もありますが、より最近の研究は両者を区別しているようです (例えばCannella et al., 2015; Dawson, Paeglis, & Basu, 2018)。

そして「創業者は家族経営者ほどSEWの関心事に縛られず主に財務的リターン、自律性、事業の発展に優先順位を置いている」(p. 352) と指摘しています。

家族経営と創業者の差異を理解するうえでSEWがどうやらキーワードのようです。

同族経営に関する研究でSEWは注目されている!

Federo et al. (2020) だけを読んでいてもいまいちSEWについて理解できなかったため他の文献を頼ることにしました。

そして井口先生の論文を見つけました。

井口先生によると「近年、同族企業の特異性を説明するために、L. Gómez-Mejía らを中心とした研究グループによって、社会情緒的資産(socioemotional wealth)という新しい理論的枠組みが提示された」(p. 34) とあります。

そして社会情緒的資産を「創業家の情緒的なニーズを満たす企業の非財務的側面(Gómez-Mejía, Haynes, Núñez-Nickel, Jacobson, & Moyano-Fuentes,2007)を意味する」(p. 352) としています。

社会情緒的資産は以下の次元によって構成されます。

(1)同族企業における支配と影響力の維持

(2)長く続く名門の一族としての感覚

(3)企業への一体化とその評判への関心

(4)企業への感情的な愛着

(5)固い社会的なつながり

これらが家族経営と孤高の創業者を区別する要因となり得るのです。

しかしながら井口先生は「同族企業における創業者一族は経済的な目標だけでなく一族の非経済的な目標をも追及するため経済的な合理性をもたないような決定を行うことがある」(p. 34) と主張しており、創業者もまたSEWに関心を寄せる可能性があることを示しています。

家族経営と創業者の違いはまだまだ議論の余地があるものの、これらのタイプが国家や機関投資家といったタイプと異なることは明らかでしょう。

井口先生の論文は同族経営、とくに事業継承について詳細なレビューをしています。経営者のタイプを詳細に検討することで、このような新しい世界を知れたのは非常に有意義でした。

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