経営者のタイプと取締役会のガバナンス:取締役会の人数と社外取締役

前回からFedero et al. (2020) をレビューしております。

本日から数回にわけて「取締役会のガバナンス」について見ていきます。

論文で提示されている「取締役会のガバナンス」は数が多いので、今回は取締役会の人数と社外取締役の部分を取り上げます (pp. 355-356)。

取締役会の人数(board size)

取締役会の人数と経営者のタイプについては様々な証拠が報告されています。いくつか紹介してみます。

・インド企業の機関投資家や欧米企業のVCは取締役会の規模が大きいことと関連している(Chauhan et al., 2016; Rosenstein, Bruno, Bygrave, & Taylor, 1993; Shekhar & Stapledon, 2007)

・法人所有のインド企業は取締役会の規模が小さい傾向にある(Chauhan et al. 2016)

・米国やドイツのファミリー企業と中国の国有企業は取締役会が大きい(Chen & Al-Najjar, 2012; Fiegener, Brown, Dreux, & Dennis, 2000; Jaskiewicz & Klein, 2007)

・イタリア、シンガポール、サブサハラ諸国の企業においてはファミリー企業で取締役会の規模が小さい(Barontini & Bozzi, 2011; Corbetta & Salvato, 2004; Mak & Li, 2001; Munisi, Hermes, & Randøy, 2014)

以上の先行研究を紹介したうえでFedero et al. (2020) は「取締役会の規模に対する経営者の影響を形成するうえでで国レベルの制度的背景やガバナンス・システムの重要性が示唆されている」ことや「実証結果がまちまちであるもう一つの要因は様々な理論が矛盾した予測や経験的知見を生み出している」ことを指摘しています (p. 355)。

理論については所有権と取締役会の規模の間に負の関係を示す多くの研究がエージェンシー理論に基づいています。

対照的に両者が正の関係を示す理由を示唆する理論としては資源依存、スチュワードシップ、付加価値観などの他の理論的視点が援用されているようです (p. 355)。

取締役会の独立性 (board independence)

取締役会の独立性として多くの研究で注目されているのが取締役会における独立社外取締役の割合です。

経営者のタイプと独立社外取締役の割合の関係性についても先行研究の証拠は混在しています。

興味深かったのは機関投資家と独立社外取締役の割合の関係についての記述部分です (p. 356)。

いくつかの研究では機関投資家が保有する企業の市場価値を高めるために他の社外取締役を探すことを通じて企業経営を規律付けることが示されています (Gillan & Starks, 2000; Nguyen & Nielsen, 2010)。

また独立取締役会は機関投資家がターゲット企業の株価の真の価値を探る有力なツールとして機能しているそうです (Ferreira, Ferreira, & Raposo, 2011)。

取締役会の独立性が欠如すると株主のアクティビズムや訴訟が引き起こされることを指摘する研究もあります (Del Guercio et al., 2008; Cheng, Huang, Li, & Lobo, 2010)。

2015年6月に施行が始まったコーポレート・ガバナンス・コードでは独立社外取締役の複数選任が上場企業に対して要求されています。

さらに同時点から監査等委員会設置会社の選択が可能となりました。同会社では監査等委員の半数以上が社外取締役であることが求められています。

しかしこうした独立社外取締役が企業価値の向上につながるとは限りません。今仁 (2020) は13-16年度の所定の要件を満たす1,849社を対象に社外取締役比率と企業価値 (トービンQ) の関係を検証していますが、両者が正の関係を有さないことを明らかにしています。

※今仁裕輔 (2020)「取締役会改革とガバナンス」三隅隆司・茶野努・安田行宏編著『日本企業のコーポレート・ガバナンス』中央経済社

取締役会の人数とともに独立社外取締役については複数の理論が絡む大変興味深い内容ですので今後の注視していきたいと思います。

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