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経営者のタイプと取締役会のガバナンス:ジェンダー&ダイバーシティ

21年8月6日、米証券取引所ナスダックが米国の上場企業に対して黒人など人種的マイノリティーやLGBT、女性の取締役登用を義務づけることを発表しました。取引所を監督する米証券取引委員会(SEC)は上場ルールの改定を承認したようです。

日本企業のジェンダーやダイバーシティに関する話題もよく目にするようになりました。例えば以下の記事。

東証1部上場企業の約4割が「女性役員ゼロ」のようです。女性役員の積極的投与を求めるコーポレート・ガバナンス・コードの規定とは対照的な事実です。機関投資家をはじめ、女性役員のいない企業に対して株主総会での議決権行使を厳しくする人たちが今後も増加しそうです。

今回はFedero et al. (2020) の取締役会の構造に関する記述で「ジェンダー&ダイバーシティ」の部分をレビューしていきます。

国有企業は女性取締役が少ない?

このように指摘する研究が多くあります (Farag & Mallin, 2016; Saeed, Belghitar, & Yousaf, 2016; Saeed, Yousaf, & Alharbi, 2017)。

この事実は一見ネガティブに捉えられがちですが、むしろ女性取締役が多い国有企業においてROAやトービンQが低下するという証拠を提供する先行研究もあるようです (Abdullah, Ismail, & Nachum, 2016)。なんででしょうね。今後、読んでみますね。

家族所有と女性取締役の存在

こちらについては先行研究において明確な結論が得られていないようです。

・家族所有の企業ほど女性取締役が多い

この点を指摘するのがSaeed et al. (2016) [アングロサクソン諸国]、Bianco et al. (2015) [欧州]、Abdullah (2014) [マレーシア] です。

ただ、女性取締役の存在を決める要因が必ずしも家族所有ではなく、それも含めた環境面にあることを指摘している研究もあります (例えばuigrok, Peck, & Tacheva, 2007; Sheridan & Milgate, 2005)。

・家族所有の企業ほど女性取締役が少ない

この点を指摘するのがSaeed et al. (2017) です。

解釈としては「家族の文化や伝統、始祖継承、家族内での女性の二次的役割などが、女性オーナーがリーダーシップを発揮したり、取締役会で影響力を行使したりすることを妨げている」(p. 357) とありました。

女性経営者がいるファミリー企業ほど財務パフォーマンスの低下と関連していることを示す研究もあります(Nekhili, Chakroun, & Chtioui, 2018)。

女性取締役を求めるのはやはり機関投資家?

機関投資家が所有する企業では女性取締役の割合が高いことが複数の研究で報告されています(Coffey & Fryxell, 1991; Dobbin & Jung, 2010; Farrell & Hersch, 2005)。

一方、機関投資家が所有する企業でむしろ女性取締役の割合が少ないことを示す研究もあります (Nekhili & Gatfaoui, 2013)。

Pucheta-Pucheta-Martínez et al. (2018) は機関投資家が所有する企業において女性取締役が存在する場合にそれが企業業績とどのように関係するかを検証しています。結果は女性取締役の存在と企業業績が逆U字型の関係にあるというものでした。

すなわち、女性取締役の数としてある閾値までは業績が向上するのですが、それを超えると減少に転じるというのです。はたしてこのような結果は日本にも当てはまるのでしょうか?

経営者のタイプと取締役のダイバーシティに関する研究

このテーマに関していくつかの興味深い研究が提示されていました。

・Balachandran et al. (2019):創業者主導の企業は文化的に多様な取締役会を持つ

・Chauhan et al. (2016) とEstélyi and Nisar (2016):インドや英国の企業で機関投資家が所有する企業は取締役会の国籍がより多様である

一方で、家族経営と取締役会の多様性に関してはレビューされていませんでした。

独立社外取締役の人数で議論になる日本の上場企業です、そこに取締役会のジェンダー&ダイバーシティとなると・・・まだまだ浸透には時間がかかるでしょうか。

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